第27話 面会
「急な訪問を了承して頂き、ありがとうございます。大郷学園1年、河田幸隆と申します」
久岡邸へと迎えられた幸隆は、家政婦によって応接室に案内された。
その家政婦の声を聞いた幸隆は、先程インターフォンで自分とやり取りをしていたのが、この家の夫人ではなかったのだと
応接室に招かれた幸隆は、目の前にいる与一に向かって緊張した面持ちで感謝の言葉と共に簡単に自己紹介をして頭を下げた。
「久岡家当主、久岡与一だ。まぁ、座ってくれ」
幸隆の挨拶を受け、与一も名乗る。
そして、与一は幸隆へとソファーへ座るように促し、自分も腰かけた。
「いや、まさか君のような若い子に、親父が亡くなる数日前に言った言葉を思いださせられるとは思わなかった」
目の前の少年が緊張しているのは火を見るより明らかのため、与一は自分から話し始めることにした。
与一が突然の訪問者である幸隆を招き入れたのは、幸隆が言った「ダンジョン48層、2の18」という言葉が最大の理由だ。
その言葉は、父で前久岡当主である良太が、
父が亡くなってからかなりの月日が経っていたため、与一もその言葉を思い出すのに少しの間を必要とすることになった。
「前当主殿ですか……」
「あぁ……」
幸隆としては、久岡家に対して通用する言葉として
そんな幸隆の反応を見て、与一は若干の違和感を覚えた。
「聞きたいことがあるのだが?」
「はい。返答出来ることなら……」
違和感を覚えたのなら、解消しないわけにはいかない。
そう思った与一は、幸隆へ質問することにした。
「君は誰からあの言葉を聞いたのかな?」
「っ!!」
先程の幸隆の反応は、久岡家に通用する言葉として聞いて来たという感じに思えた。
それならば、彼はもしかしたら父が言っていた人間から、この言葉を聞いただけの人間なのかもしれない。
そんな人間を、父の指示通りにする訳にはいかないため、与一は幸隆が誰から聞いたのかを聞くことにした。
その質問が来る可能性は感じていた幸隆だったが、あっさりと見抜かれるなんて思ってもいなかったため、思わず息を詰まらせる。
「言いづらいかね?」
「えぇ、まぁ……」
やっぱり、名門家の当主となると、自分の発言や態度から読み解く能力に長けているものなのだろうか。
一線を退き、息子の武彦に任せるようになっているとはいえ、元々は一流の探索者である猛者だ。
睨みつけている訳でもないというのに、幸隆はその視線から嫌な圧力を感じていた。
「答えても良いのですが、かなり荒唐無稽な話なので、信じてもらえるかどうか……」
人生経験ではどう考えても相手の方が上。
これから頼み事をするつもりでいるため、下手な探り合いをして与一への心証を悪くするわけにはいかない。
そのため、幸隆は先程の言葉を誰から聞いたのかを正直に説明することにしたのだが、はっきり言って信じてもらえるかが心配だ。
「……この場には私しかいないから構わない。説明願えるかな?」
「分かりました……」
荒唐無稽な話だとしても、ここにいるのは自分だけだ。
嘘を言っているかどうかも、幸隆の話す態度を見ていればわかるはず。
そう考えた与一は、幸隆の前置きを受けて、どんな話が飛び出してくるのかと思いつつ説明を求めた。
信じてもらえるかは分からないが、与一の態度を見る限り、とりあえず怒られるようなことはないはず。
そう判断した幸隆は、あの言葉が誰から聞いたのかの説明を始めた。
「……そうか。あの
「はい……」
幸隆の説明を受けて、与一は顎に手を当てて思考するように呟く。
呟いた通り、幸隆にあの言葉を教えてくれたのは松山だ。
あの松山の名前を出したうえに、ゲームのことも説明した。
ゲームの中に入ることができたら、そこにはあの松山稔がいたなんて、普通に考えたら「馬鹿にしているのか!」と言われるかもしれないと思っていたが、ひとまず与一が腹を立てている様子がないことに、幸隆は内心安堵した。
「そのゲーム内で生きているのか……」
「生きている…と言って良いのか分かりませんが……」
「……なるほど」
松山稔と言えば、父よりも年上のはず。
それなのに、いまだに生きているなんておかしいとしか思えない。
そう思っていた与一だが、幸隆の言葉で納得したように頷く。
幸隆の説明からすると、ゲーム内で松山と受け答えできている。
なので、ゲーム内で生きているのかと思ったが、AIのように松山の知識を全て移した状態ならそれも可能なのかもしれない。
そうなると、生きているとは言い難いため、自分の考えは間違っていると言える。
「……さて、君が言ったあの言葉だが、先程も言ったように、父が亡くなる少し前に言った言葉だ。そして……」
与一が確認するように説明を始める。
その途中、溜めるように言葉を止め、真剣な眼差しで幸隆の目を見つめてくる。
自分の言ったことを信じてくれているのかまだよく分からない態度のため、幸隆は緊張した面持ちで聞くしかなかった。
「その言葉と共に協力を求めて来た者へ、助力をするように指示を受けている」
「えっ? では……」
まるで、協力をしてくれると言っているような言葉。
そんな与一の言葉を受けて、幸隆は期待するように声を漏らす。
「父の最後の指示だからな。我々久岡家は、君の求めに応じよう」
「あ、ありがとうございます!」
亡くなった父からは、あの言葉を言ってきた人間が協力を求めてきたら、必ず倉岡家として受け入れるように言われていた。
倉岡家としてということは、全勢力を使用してということだ。
父のその言葉を今果たすため、幸隆に協力をする事を誓った。
協力を取り付けられたことが嬉しくなり、幸隆は思わずソファーから立ち上がって与一に頭を下げた。
「ところで……」
「んっ?」
テンションの上がった幸隆に、与一は笑みを浮かべて落ち着くように片手でジェスチャーをする。
それを見て、照れくさそうにソファーに座り直した幸隆は、ふと思ったことを与一に尋ねることにした。
「あの言葉の意味ってなんだか分かりますか?」
久岡家に入るために言ったあの言葉だが、はっきり言って幸隆には意味が分からなかったのだ。
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