メロンソーダチューン

エリー.ファー

メロンソーダチューン

 冷たくて美味しいことが何よりも優先される。

 それが、メロンソーダチューンの掟である。

 多くの問題は無視されるが、それでもメロンソーダチューンが最も重要であり、尊いので全く不都合であると認識されることはない。

 緑色である。しゅわしゅわである。そして、爽やかである。

 多くの人は、これが飲み物であると思っている。実は、本当は生き物であり地球との友好の印として、その身を液体に変えてメロンソーダとして存在しているのだ。人間はそれを飲み干す度に、メロンソーダの虜になっていくのである。

 この一連のメカニズムと実際にメロンソーダになって飲まれることを一つにまとめてメロンソーダチューンと呼んでいる。

 メロンソーダチューンにはほかにも、たくさんの要素が含まれているわけであるが、正直、そんなことはどうでもいい。細かいことを理解する必要はない。

 ただ、メロンソーダチューンであるという単語だけ知っておけばいい。

 私たち、人間はこのメロンソーダになって人間と同化しようとする存在について真剣に考えなければいけない。というのは、最終的にこの地球はその宇宙人によって支配されていることが確定しているからである。

 抗うかどうかではない。抗うことはできない。だから、次をどうするべきか、ということなのだ。

 確定した未来について、私たち人間ができることなどたかが知れている。

 より深く知る。興味を持つ。哲学を加速させる。このあたりだろう。

 例えば研究をする。どのような形で人間の脳に影響を及ぼすのか、もしくは脳ではなく別のところに影響を及ぼしているのかどうか。

 例えば会話をしてみる。今のところ成功していないが、何か根気強く続けていればレスポンスがあるかもしれない。こういうものは諦めないというのが成功への正道であったりするものだ。

 例えば拒絶をしてみる。最終的には受け入れる以外の道など存在していないのだが、反発が何かを得るきっかけになるかもしれない。


 私はそこまで書いて横をみる。

 透明なグラスに氷が二つ、中に空気が入っていて白い筋があるため非常に汚い。そして、その周りを隙間なく満たしているメロンソーダ。

 このように執筆するときにもメロンソーダは欠かせなくなってしまった。これも、メロンソーダチューンの大いなる意志ということなのかもしれない。

 執筆しようとした動機も、自分が作り出したものなのか、産み付けられたものなのか、もう分からない。最初の内は、自分の体にメロンソーダが入ってくる感覚というのがあったのだ。しかし、ある日から、なんとも思わなくなった。むしろ、体の中のメロンソーダと体の外にあるメロンソーダを合流させてやるくらいの気持ちになっていたのだ。

 義務なのか。だとするとどこか辟易していてしかるべきだが、そうではない。

 私の気持ちをここで正確に表現することができない、このことが歯がゆくて仕方がない。

 少し、頭の中を整理してまた執筆にとりかかる。

 メロンソーダチューンは、地球が生まれる前から存在していた法則であるという可能性も示唆しておかねばならない。

「博士、またメロンソーダを飲まれているのですか」

「あぁ、美味しくてね」

「メロンソーダチューンについて、なんてあんな論文、もう二度と学会に出さないでくださいよ。凄く迷惑なんですから」

「あはは。そうかな」

「そうですよ。なんですかメロンソーダチューンって、世の真理とか、法則とか言い出した時はどうしたかと思いましたよ。博士の変な妄想に付き合っている暇なんてないんですからね」

「分かったよ、すまないすまない」

 私は笑うほかない。

 まだ世界で、私だけしか気づいていないのだ。

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