第22話
「前に複数の犯行時間を元にして容疑者リスト作成するって伝えただろ? それを授業の合間に作ろうとしたんだが、壁に突き当たってしまったんだ」
昼食のオムライスとデザートのチョコレートを食べ終えたレイは約束どおり捜査の続きを淡々と告げる。
「授業中にそんなことする余裕・・・いや、壁?!」
同じくチョコの余韻を味わっていたユウジは内容の核心を見定めると、改めてレイに問い掛けた。間違いなく彼女の中では、既に考えや対応策が練られているに違いないのだが、レイは質問に答える形で説明すること好んでいる。自分の考えを俯瞰的に見るためだ。
「ああ、ここには学園日報というのがあって、日にちごとにその日に何があったか記録として残しているんだ。例えば今年の四月七日は新入生の入学式があり、何名の新入生が学園に加わったとかだな。ユウジが転入した日なら君の存在が記録されているはずだ」
「なるほど、そんなのあったんだ・・・」
ユウジはレイの説明に納得して頷く。学校とはいえ組織である以上、記録は何らかの形で保存するはずであり、当然と言えた。
「ああ、あったんだ。まあ、本来は運営側が過去のデータを残すための代物なので知らないのも当然だ。そんな感じで学園日報にはその日の出来事がかなり詳しく記録され、病欠や遅刻した生徒の数も記載されている。さすがにプライバシーがあるから個人名までは書かれないが、学年とクラスはわかるから、それを手掛かりに事件のあった日にアリバイのない個人を特定出来るはずだったんだが・・・」
「だが?」
「今現在、学園日報は閲覧が停止されていて調べることが出来なかったんだ。見せてやろう」
説明を終えたレイは生徒手帳を取り出すと、幾つかの段階を得て〝現在、閲覧を停止しております〟と表示された画面を見せる。ちなみに学園日報を開くアイコンは学園専用アプリの〝当学園の歴史〟と普通の生徒なら見向きもしないような場所に位置していた。
「現在ってことは本当なら生徒にも閲覧は可能なんだね?」
「そうだ。普段なら学園指定の端末を持つ者なら生徒も含めて全員が閲覧出来る。一時的な処置とも思ったが昨日の夜からこのままだし、他の機能は使えるから単純なエラーとも思えない」
「・・・ひょっとして、と事件の捜査している俺達への妨害と隠蔽とか?」
レイが示した事実にユウジは疑問を口にする。タイミング的に靴の盗難事件との関連が真っ先に予想された。
「もちろん、その可能性もある。・・・とは言え、私達の捜査のことを既に学園側が把握しているとは思えないし、したところで靴を盗まれた本人がそれを取り返そうとするのを、ここまでして邪魔をする理由はない。隠蔽工作としては大袈裟過ぎるんだ」
「た、確かに・・・」
「それで靴事件のことは一先ず置いて、学園日報が何時から閲覧出来なくなったのか調べてみたんだ。そうしたら・・・また別の事実を発見したんだよ!」
「おお! それは?」
段階的に出る新しい情報にユウジも驚くが、そろそろ核心中の核心に迫った予感がしたのでレイに先を促す。
「うん。まずは学園日報が閲覧出来なくなったのは三日前だ。それを調べている課程で私はなんとなく生徒手帳のバッテリーの減りが少し早くなっているのに気付いた。最初は気のせいだと思ったが、念のために調べてみたら生徒手帳から発信される位置情報の頻度が、いつの間にか5分に一回に設定されていることを突き止めたんだ。これは三日前にこっそりと学園側のマスター機能を使って更新されていたから、生徒側は自分で生徒手帳の更新ファイルを調べない限り気付けない!」
ユウジの予感は的中し、レイは学園が生徒に隠していたと思われる事実を暴露する。
「位置情報を5分に一回って・・・まるで生徒を監視しているみたいじゃないか?!」
「興奮するのはわかるが声が大きくなっているぞ、ユウジ。ちなみに、みたいじゃなくて、そのつもりだろう。本来なら起床や門限時の点呼と電子マネーでの決算時に位置情報を確認するだけだからな。もっとも、我々生徒とその保護者は、生徒の安全を保護するという学園の主張によって個人情報を学園に開示するサインをしている。許可なく個室の中を盗撮したならともかく、生徒が学園内外のどこに居るのか学園側が把握するのは合法と言える。それに5分ごとに設定されたのは二日前だ。二日前!」
学園が隠していた事実を突き止めたレイだったが、本人は冷静にユウジを窘めると、監視が開始された時刻を強調する。
「ふ、二日前は、靴事件が起きた日でもあるのか!」
「そうだ、その日に私を含む、G組の女子達の靴が盗まれた。同じく学園日報の閲覧が止められ、生徒を監視する体制が強化されたのも二日前・・・出来過ぎていると思わないか?」
「ああ、出来過ぎているね。やはり・・・靴の事件と閲覧の停止に監視の強化は何らかの理由で繋がっているのかな?」
「そう見るのが妥当だろう。ただ、靴の窃盗程度でここまでの処置をするのは不自然だから、まだ私達が知らない新事実があるのは間違いないと思う」
「・・・レイのことだから、もう大体の当たりは付けているんじゃないの?」
状況から基づく推論を口にしたレイだったが、ユウジは更にその先を問い掛ける。彼女がこの程度で終わりにするはずがないからだ。
「ふふふ、むしろユウジはどう思うんだ? たまには君の意見が聞きたいな」
その質問が嬉しかったのかレイはいつもの笑みを浮かべながら、出し惜しみするように逆に尋ねるのだった。
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