Ignition

第4話 『会議~Meeting~』


 「到着しましたわ。どうぞ、お足元にお気をつけて降りてください。」


 『三美神』たちが、先導してオートバスから降車を促しています。


 本当に人間のようです……。


 気遣いもできるし、美女だし……。


 それにプロポーションばっちりなんです!





 ムラサメ刑事……。


 アンドロイドだってわかってからも、ちらちら『彼女たち』の胸元見てるんですよね……。


 そういう視線って、男性は気づかれていないと思っているかもしれませんけど、ちゃぁんと女性はわかっているんですよねぇ……。




 「ええ……、みなさん、この研究所の入口はこの正面ゲートしかありません。そして、正面ゲートは外側の『セキュリティゲート』と内側の『二重扉』の2つのゲートがあり、厳重にセキュリティ管理されています」


 ハリー所長が説明をする。


 「そうね。セキュリティゲートは、R.U.R.社内で許可された者のみ生体認証されているのよ。まあ、研究所員以外は経営陣の役員、幹部以上ですね。」


 ヘレナが補足する。




 「つまり、『セキュリティゲート』のほうは研究所の者ならば誰でも出入り可能ということですか……?」


 「まあ、外部からの侵入者に対する警戒という意味合いが強いのですよ。」


 ムラサメ刑事の質問にハリー所長が答えた。



 「ふむ……。ところで、『二重扉』の解錠についてはどうなっているんだい?」


 今度はコンジ先生が疑問を呈する。




 「はい。正面ゲートの内側にある『二重扉』は、二名の所員及びR.U.R.社の役員・幹部が同時にパスワードを入力しないと開かない仕組みになっているんですよ。」


 「ほお? 同時とはどのくらいの時間差まで認められるんだ?」


 「まあ、円周率の秒以内ですね。」


 「ふぅーん。じゃあ、3.1415926535 8979323846 2643383279 5028841971 6939937510 5820974944 5923078164 0628620899 8628034825 342117067……秒以内ってことだな?」


 「ま……、まあ、そのとおりです……。」




 うわぁ……。


 コンジ先生の円周率記憶自慢だわぁ……。



 「コンジ先生、そんな円周率、記憶している人なんていないでしょ!?」


 「いや、僕は円周率は10万桁までは記憶しているよ?」




 すると、目の前の『二重扉』が開いて、そこに現れた人物がこう言ってきた。


 「すごいですね? その記憶力……。たしか、ギネス記録保持者は、円周率11万桁覚えた世界記録保持者・原口證さん……でしたね。あながち、あなたの言うことも本当かもしれませんね。……ああ、私はアルネ=ジャザリー。この研究所の四大助手の一人です。私の後ろに控えているのは、所員のアナスタシア・キルヒャーです。」


 「アナスタシア・キルヒャーです。お迎えに上がりました。ヘレナさん。……それと……?」


 「ああ。こちらは、かの『黄金探偵』コンジ・キノノウさん。そして、ICPOのムラサメ刑事よ。」



 「 「 よろしくですわ!!」 」


 「あ! 私はコンジ先生の助手のジョシュア・ジョシバーナです。よろしくお願いします!」


 「あ……、ああ。よろしくです。ジョシュアさん。」




 今、あからさまに私の名前、無視しましたよね?


 ここは『黄金探偵』の名助手の名前も売り込んでいかなきゃ……ですね。






 「ふむ……。つまり、外側の『セキュリティゲート』はこの島にいるものであれば、誰でも開けることができ、内側の『二重扉』のほうは、2名がその場に揃っていないと開けられない……ということだね? パスワードが漏れたり……といった情報管理はどうなっているのかな?」


 「それは私からお答えしましょう。予め認証された指紋データと一致した指で、12桁のパスワードを入力するというものです。仮にパスワードのみ、誰か他の人物がそのものになりすまして、パスワード入力をしたとしても、指紋認証でエラーになりますね。」


 「なるほど……。とりあえず、立ち話もなんですから、早く中にお入りください。」


 アルネさんが説明してくれたところで、ハリー所長が中へ入るよう促した。


 私たちはいよいよ、高名な『フランケンシュタイン研究所』に足を踏み入れたのでした。




 内部に入ってまず、『二重扉』をまっすぐ進むと、広い空間があった。


 殺風景な白い壁と、無機質な空間に圧倒され、ここが研究施設だということを思い知らされたのです。


 そこに数人の白衣姿の研究所員らしき人が集まっていました。





 「ああ……。ハリー所長! ……となると、そちらがマダム・グローリーですか?」


 「ああ。ヘルメス。君はさすがに耳ざといな。そういうところが君がトップ研究員たるゆえんだな……?」


 「当然でしょう? 我がフランケンシュタイン研究所の経営責任者CEOが来られるというのに、出迎えない者がいるなんて信じられませんよ。なあ? フィローナ。」


 「ええ。ヘルメスの言うとおりよ。……にもかかわらず、博士や助手はまあ、いいとして……、研究員のたった6人しかヘレナ社長を出迎えに来ないとはねぇ……。」


 「フィローナ。それはしかたがあるまい。研究者なんて往々にしてそんなもんさ。」


 「あら? ヘロン。あなたは相変わらず達観しているのね。」




 「はいはい。おまえたち。ヘレナ社長の前だぞ。ちょっとは礼儀正しくいられないのか!? 申し訳ありません。ヘレナ社長。」


 「んん……。あなたは、ブスマン・コンサル領事ね。駐留、ご苦労さま。」


 「いえいえ。とんでもございません。もうひとりの技術担当重役のファブリ・エンジニーアが出迎えに来ていませんが、まあ、ヤツは不敬極まりないですねぇ……。」


 「私は出迎えなど気にしないわ。それよりも、部屋をひとつ用意してちょうだい。すぐに、『事件』について聞かせてもらいたいわ!」


 「おお……。ヘレナ社長。了解しました。私、ハリーの部屋をお利用ください。」





 ハリー所長がここぞとばかりに点数稼ぎをしようというのか、自分の部屋を提供すると言う。


 まあ、そんなことはどうでもいいけど。


 つーか、着いて早々に『事件』のことかぁ……。


 ちょっと、先に何かお腹に入れたいんですけどねぇ……。




 所長の部屋は、研究所の広間の真ん中にあるエレベーターを使い最上階の4階まで上がり、1階の正面ゲートのある位置の真上に広く陣取られていた。


 もともと客人を迎えるように広く作られているようで、応接間、そしてその奥に所長のパーソナルエリアが区分されている。


 なるほどね、そりゃこんな広い部屋すべてを個人のスペースだったら、どんな権力者よ……って感じだものね。




 「あーあー、事件のあらましをご説明する前に、ご紹介だけ致しましょう。」


 ハリー所長が、部屋の中に入ってきていた研究所員たちを指差しながら、紹介していく。




 ここまでで登場した人物について、コンジ先生は当然すべての人物の顔と名前、行動まで記憶されているかもしれませんが、私も忘れないようにメモしておきます。



 ハリー・ドミン所長は、このフランケンシュタイン研究所の所長。


 ブスマン・コンサル領事は、R.U.R社営業担当重役。どうも出世ばっかり考えてるせこい人物のようです。


 アルネ=ジャザリーさんは、四大助手の一人で女性研究者。『巧妙な機械装置に関する知識の書』を発表した天才だとのこと。


 他の三名の助手さんと、博士お二人はいませんでした。


 まあ、もっとも、博士の一人は殺されていたのですが……。






 ヘルメス・トリスメギストスさんは、トップ研究員の一人。「三重に偉大なヘルメス」を意味する名前の通り研究所内でもトップクラスの知能を持っていらっしゃるとのこと。


 ヘロン・ホ・アレクサンドレウスさんは、やはりトップ研究員の一人。


 同じくフィローナ・メカニクスさんもトップ研究員の一人で女性研究者。


 もう一人のトップ研究員のマキナ・デウスエクスさんはいないようでした。



 そして、8人いる研究所員たちの中で私たちを出迎えに来たのは、ジャック・マールさん、 ピエール・ジャケ・ドローさん、ギュスターブ・ヴィシーさん、エルネスト・ドゥカンさん、ジャービラ・イブン=ハイヤーンさん……、そして、正面ゲートを解錠してくれたアナスタシア・キルヒャーさんの6人でした。


 あとの二人は姿を見せませんでしたね……。


 さらにアンドロイドの三名(?)アグライアー、エウプロシュネー、タレイア。




 そして、島へやってきた私たち一行。


 コンジ先生、私・ジョシュア、フジミ・ムラサメ刑事、ヘレナ・グローリーさん、セキュリー・ティガードさん、インベス・ティゲータさん。


 この日、この場に集ったのはこの18名でした……。





 そして、『事件』のあらましが語られることになるのでした……。


 世にも不思議なアンドロイドの殺人事件を……。






 ~続く~




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