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第1話 『待ち合わせ~Meeting up~』


 さて、ムラサメ刑事の運転で、私たちはいったん、パリの街で人気のパティスリーに向かうことになりました。


 ……というのも、今回の旅に同行するメンバーが他にもいるからなのでした。


 絶海の孤島に行く定期便などもちろんありませんので、飛行機を飛ばしてくれる人物の元へ会いに行くということなのです。




 パリの街をさっそうとムラサメ刑事のルノー4CVで走る。


 だが、パリ市内を走っている車は、汚れた車、ぶつけて変形したままの車、バックミラーが取れた車、何十年も経ったようなボロボロの車などが結構多かったのです。


 世界に芸術やブランド、流行の情報を発信しているファッションの街パリにしては意外なことでした。




 「ムラサメさん。人気のパティスリーって、あのお店ですか?」


 「ええ。パリで今、非常に人気でしてね。ぜひ、味わっていただきたい。私も甘いものに目がなくてね。」


 「あーあ。刑事がそんな女子高生と同じようなことを言っているようじゃあ、事件の謎は解けないはずだよ……。」


 「コンジ先生……? 先生だけ食べなくってもいいんですよ?」


 「ゴフッ……。な、な……なにを言うんだい!? もちろん、僕も賛成さ。糖分は脳にとって非常に大切な栄養素であるからして……。」


 「はいはい。ほら! 降りますよ!?」





 パリで人気のパティスリー『Fou de Pâtisserie(フ・ド・パティスリー)』だ。


 やって来たのは、レストランやスイーツ店が立ち並ぶパリのグルメ通り、モントルグイユ通りのフ・ド・パティスリー。


 パリのスイーツのセレクトショップとして、マカロンやチョコレート、ケーキなど、店舗巡りをしなくても様々な名店のスイーツを味わうことができるというコンセプトなんですよ!?


 パリではテレビに紹介されるほどの人気店で、スイーツ好きがたくさん訪れるお店です。


 店内のスイーツの価格はすべて6.50ユーロで購入が可能でした。


 読者のみなさんも、たくさんのお店に行く時間がない方や、いろいろなスイーツを一度に楽しみたい方は、フ・ド・パティスリーで美味しいマカロンやチョコレートを食べ比べてみましょうね!





 「ところで、ムラサメ刑事。これから会いに行くという方はどんな方なんだい?」


 コンジ先生が気にかかっていたことを質問する。


 ムラサメ刑事は少しだけピクリと眉毛を動かして、おもむろに口を開いた。




 「それがですねぇ……。今回、向かう『フランケンシュタイン研究所』の大株主企業、『ロッサム・コングロマリット社』の会長のお孫さんなんですよ。直接の経営会社『ロッサム万能ロボット会社』……通称RUR社の社長でもあります……。」


 「へぇ!? わざわざ社長さんが出向いてくるのですか!? それにグループ母体の会長さんのお孫さんでもあるなんて……。すっごい大物じゃあないですか?」


 「そうなんですよ……。でもね、その社長さんというのが……。」






 「まだ弱冠17歳の小娘だっていうのだろう?」


 コンジ先生がズバリと言う。


 え? ええ!?


 17歳って私と同じ年……。


 社長……!?




 「さすがはキノノウさんですね。よくご存知だ。」


 「まあ、こういった最先端技術の会社の動向は常にチェックしているのでな?」


 コンジ先生、さすがです!




 「で、その会長の孫娘のヘレナ・グローリーさんがわざわざ、僕たちに会いに来られるっていうわけか……?」


 「そうなんですよ。それだけじゃあ、ありませんよ? 今回の『フランケンシュタイン研究所』へも同行するっていうのです……。」


 「ええ!? ホントですか!? わあ……。同級生……よね? ちょっと、楽しくなりそうかも……!?」


 「ふぅ~……。ジョシュア……。遊びに行くんじゃあないんだぜ?」


 「わかってますってば!」


 でも、そうは言ったものの、このときはまだ少し気が緩んでいたのかもしれなかった……。


 私はまるで修学旅行にでも行く小学生の前日のようにワクワクしていたのです。




 そう……。


 この時、私は迫りくる惨劇について、まったく何もわかっていなかったのでした。





 私たちはマカロンやチョコレート、ケーキなどをたっぷりと堪能した後、再びムラサメ刑事の車で移動する。


 本当にただスイーツ食べたかっただけかーい!


 ……と、ツッコミを入れたくなるほどでしたが、まあ、美味しいスイーツを食べられたので文句はないw





 そうして、私たちが約束の時間にやってきたのは、パリでも美味しいと絶賛の人気のパリ7区にある『レストラン・エス』。


 パリ7区は、なんと言ってもパリのグルメ界でも激戦区なんですって!


 美味しいレストランやミッシェランのスターレストランが多い地域です。


 その7区に、日本人シェフが2013年にレストランをオープンしたとはニュースで私もチェックしていたのですよ。


 翌年2014年には、なんとミッシェランでも異例と言われるほど、早くスターを獲得したのがレストラン・エスなんです。




 落ち着いた雰囲気の7区にあって外観はそれほど目立ちません。


 ですが、その前の道路の両端に信じられないほど間隔をつめてずらりと路上駐車されていました!!


 パリの縦列駐車は有名だと聞いてはいましたが、それは予想を遥かに超えるものです。





 どうやって出入りするのだろうと不思議に思い、ムラサメ刑事に聞いてみると、


 「ああ。パリの人は老若男女を問わず、みな縦列駐車の鉄人なんですよ。自分の車のバンパーを前の車に軽くあて、車が壊れない程度の力でじわじわと押しのけ、ハンドルを切り返してはバックして今度は後ろの車を押しのける。これを何回か繰り返して必要なスペースを確保して出入りします。もちろん、路上で縦列駐車するときは、サイドブレーキやパーキングブレーキは掛けませんよ。」


 なんて、サラリと言うではありませんか……。


 バンパーとは、本来衝撃をやわらげるためのパーツですから、正しい使い方をしているわけですが、小さな傷でも気にする日本人には考えられないことですよね……。




 「いいかい? ジョシュア。中世の建物が多く残っていて、しかも建築基準の厳しいパリでは、日本のように店の隣を潰して駐車場にするというわけにはいかないのさ。そこで、駐車場は地下に作られるんだ。つまり、パリには「地下駐車場」と、道路の脇に点線で描かれている「路上駐車場」の2種類の駐車場があるのだよ。ところが、目的地のすぐ近くに停められる、料金が15分刻みなので短時間の駐車だとお金を節約できる、19時から翌日9時までは無料だという理由で路上駐車場の方が重宝がられ、路上駐車場は慢性的不足の状態にある……というわけさ。


 そこで、パリの人たちは、ぎりぎり詰めて駐車して路上を効率良く使おうというわけなのだよ。そのためにバンパーを本来の目的通りに使って、少々傷を付けたからと言って、どうということは無いわけだ。実(じつ)を重んじるフランスの人たちにとって、最も重要なのは、車が移動の道具として役立つかどうかということであって、高級な車に乗っていてもバンパーを前後の車に押し当て路上駐車場に出入りするのはあいも変わらずパリの習慣というわけさ。」


 コンジ先生が、さも自分はパリっ子なのさ……と言わんばかりの調子でうんちくを披露したところで、私たちは『レストラン・エス』の店に入るのでした。




 さて、店内に入るとホワイトを貴重とした、清潔感溢れるホールが広がります。


 ホール係も日本人だったので、これは、フランス語ができない日本人も、言葉の心配もせずに食事を楽しめますね。


 ソムリエさんも日本人なので、ワイン選びも問題はありません……。


 まあ、もっともムラサメ刑事もコンジ先生もフランス語はペラペラですけどね。




 お料理は、軽めで見た目にも美しい、現在、パリで流行のフレンチ・スタイルです。


 日本人の嗜好にあった魚料理もあり、日本人には本当にお勧めのパリのレストランの一つと言っていいでしょう。





 そこへ私たちの席の方へ近づいてくる男性二人と、愛らしいフランス人形のような美少女が見えました。


 待ち人来る……と言ったところでしょうね。






 ~続く~


 ※参考のお店

 ・Fou de Pâtisserie フ・ド・パティスリー

 住所 45 Rue Montorgueil, 75002 Paris

 ホームページ http://www.foudepatisserieboutique.fr/

 ・レストラン・エス

 住所 91 Rue Grenelle, 75007 Paris

 公式サイト http://www.es-restaurant.fr/


 ※参考記事

 ・タビナカさんの『スイーツの聖地!パリの最新名店リスト&フランス名物スイーツ情報』

 https://tabinaka.co.jp/magazine/articles/49894

 ・トラベルコさんの『パリで本当においしい人気のレストラン・グルメ10選!』

 ライター なかじま いちろう Nakajima Ichiroさんの記事より

 https://www.tour.ne.jp/matome/articles/104/

 ・パリのクルマ事情(写真旅紀行)

 https://washimo-web.jp/Trip/Paris/paris.htm





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