ポトリ・10

____兄さん_____




あの夢と同じ


あの人が・・慶之介さんが


椿色の唇を動かし、小さく囁いていた言葉。





____兄さん_____




慶さんは泣きながら、息を大きく吸って話し出した。


「__龍一くん、あのね・・。

 おれの、おれの中にも居るの、居るんだよ。

 慶之介さんの気持ちが想いが・・

 ずっと、ずっとあるの・・。

 あの人が__兄さんが、夢に出てくるの。」



慶さんが、指先を紅くし


オレの胸元を強く掴む。



「胸が__胸が苦しくて苦しくて

 張り裂けそう。あの人に、あの人に

 逢いたいって、触れて欲しいって

 ずっと、ずっと__思ってるの。」



「夢・・。

 そっか、慶さんもなんだね__。」





慶さんは、真っ白な手の甲で


紅くなった頬を何度も拭う。


「うん、そう__。そうなの。

 だから..おれ、今日ここに来たの。

 夢の謎を解きたくて、夢で見るあの人に

 ・・兄さんに逢いたくて____。」



「用事って、この事だったんだ、慶さん。」



「うん・・。

 あとね、何となくなんだけど、夢で見た

 ヒントで・・もしかしたらって思って・・。」



「・・ヒント?」



「うん。

 おれ・・じゃなくて、慶之介さんがね、

 多分なんだけど、本をね___

 幸一お祖父さんがいつも読んでいた本を

 ・・持って泣いてる夢を見たんだ・・。」



「本___。本か・・。

 確か、幸一お祖父さんの書斎って、

 そこままになってるよな____。」

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