廃病院にて 2

「――っ!」


 反射的に耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込む。

 途切れる間もなく周囲三百六十度のそこかしこから耳障りな衝撃音が鳴り響く。音の度に弾ける白い閃光が目に厳しい。衝撃の余波でスカートの裾をはためかせる築山は変わらぬ姿勢でつっ立っているだけでこの状況に何の反応も見せない。


「こんな時間にこんな場所。お二方で何をなさっておられるのですか?」


 やっと鳴り止んだかと思うと、次に聞こえてきたのはあの声だった。

 俺は振り向く。扉の前に、魔女っ娘がいた。


「あなたこそこんなところで何をしているのかしら。よい子は帰って寝る時間でしょう?」


 築山も振り返る。

 対峙する〝ソロン〟二人。一体何が始まるのかと俺は不安で一杯だった。


「管理課の方ですか? それとも行刑官? よくここが解りましたね。隠蔽工作は完璧だったはず」


 くすくすと笑う小さな魔女。暗闇の中の彼女は、俺の体が放つ光に照らされ怪しげな様相を呈していた。


「そちらのお綺麗な女性の方」


 俺のことですか。


「その後はいかがです? 満足頂けたでしょうか?」


 この言い方。やはり俺がもともと男であることを知っている。そりゃそうだよな、なんたって俺を女に変えた張本人なんだ。


「戯言は遠慮してもらえるかしら」


 築山は眼鏡を押さえながら、


「目的はなに?」


 帽子で隠された魔女っ娘の目元を窺い知ることはできない。口元は笑っている。


「目的?」


「これ」


 唱子は背後の光を親指で指しながら、


「大罪よ。何のつもりなの」


 大罪。そんな物騒な単語にも、魔女っ娘は控えめな笑みを漏らすのみ。


「わざわざ言葉にするほどのものではありません」


「でしょうね」


 築山の眼差しは侮蔑の念を持って魔女っ娘に降り注ぐ。


「所詮は子供の考えることだもの。くだらない児戯に過ぎない。おおよその予想はつくわ。理を侵して家族を救おうなんて、〝ソロン〟の風上にも置けないわね」


 言葉の途中で築山の眼前に衝撃。閃光と轟音。

 さっきから何なんだこれは。魔女っ娘がやってるのか?


「……怒りました」


 笑みが消えていた。空気が重くなった気がする。


「なるほど」


 築山が呟く。何がなるほどなのかさっぱりだ。

 横で鈍い響き。部屋の壁が無くなった。いくつかの病室の隔壁が取り除かれ、広い空間が形成される。

 それとほぼ同時に、巨大な刃物で切断されたように地面が切り崩れる。嫌な落下感。おいおいどうなんだこれ。


 脚の骨一本を覚悟していると背中と膝の裏に感触。持ちあげられるような感覚と共に落下が止まる。

 どうやったのか、階下に崩れ落ちた瓦礫の上に築山はいた。そして彼女にお姫様抱っこされている俺。もう何が何だかわからない。

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