3日目「時計」
風に乗り、散る桜を眺め、気を引き締める
なんて言ったって今日が初出勤だ
鏡の中には馬子にも衣装、といった出で立ちの自分が写っている
そこまで体格が良い方では無い事も含めスーツは余り似合わない気がする。
腕の腕時計を光らせる、父から成人祝いで譲ってもらったものだ
『チリチリチリ、、』
この時計はゼンマイ式でこうして回さないと止まってしまう
父曰くボケ防止にもなる、と言っていた
ボケ、、気が早いのではないか?
と思いつつ、実際腕時計を身に付ける習慣が無いので鏡を見るまで忘れていたことには目を背ける。
再び鏡に目をやる、まぁ社会人って感じ
いつまでも洗面台を占有するのもなんなので、そろそろ行くか、、
「ふぅ、」
深呼吸をして自動ドアをくぐる。
~~帰宅後~~
、、、、全っっっ然だめだった
まず自己紹介から噛みまくった、そこからはずるずると
まぁ、思い出すのも恥ずかしいぐらいのミスの連続。
「ふぅ、、、」
今朝とは別種のため息が出る
初日でこんな事を思うのもどうかと感じるけど
この先やっていけるのだろうか。
『プルルルル、、』
電話が震える、母からだ
「はい、もしもしどうしたー?」
「もしもし、今大丈夫?」
「あー、今家帰ったとこだから今日の反省してた」
「反省ねぇ、、実はお父さんがさっきからそわそわしてて、見るに堪えなかったから電話しちゃったのよ」
見るに堪えない、、そんなに見て取れるほどだったのか、不安になってくる。
「きっと気恥ずかしいのよ、ほら、お父さんあなたの上京に反対だったじゃない?」
そういえば最後の方まで粘られた記憶がある
半ば無視して引っ越してしまった事には少し負い目を感じている。
「それで反省ってどうしたの、何かあった?」
「、、いや、少し緊張しちゃってさ、それだけだよ」
「緊張ねぇ、、そうだ、いい話してあげようか?」
「これはお父さんが酔ってた時してくれたお話なんだけど」
『昔は時計なんてどれも時間がバラバラだった、きっとだからだろうな、みんな5分、10分余裕持って行動してたんだ』
『今の時計は時間こそ正確なくせして使う人間は時計に甘えてるよ、きっちりきっかり余裕が無くてつまらない』
『だから自分はこの時計が大好きなんだ、止まったぞ!って余裕を教えてくれる』
「って、柄にも無くちょっと惚れた理由が分かった気がした」
「本当はあなたにそれを教えたくて譲ったのかもね、ちゃんと言えばいいのに」
余裕、、確かに少なくとも今日の自分は余裕が無かった
そうかもしれない
『チリチリチリ、、』
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