ANA g

羽地6号

第1話 Mexican Mineral

(南無阿弥陀仏)


昼下がりの都内の小さな霊園。

その一角にある墓の前で壮年の男、岡下は手を合わせ心の中で念仏を唱える。

彼は先立って鬼籍に入った友人、『塩田しおたはか』参りに来ていた。


塩田の葬儀には都合がつかず、行くことは出来なかった。

けれども墓参りはしておくことに決めていた。

岡下は、タバコを一箱取り出し墓の上に供える。

彼自身は喫煙者ではない。塩田に備えるためにわざわざ買ったものだ。

その行為は既に亡くなっている彼らの共通の友人……畠岡がきっかけだった。

畠岡はたおか』の際に、塩田と岡下は互いに自分たちが死んだ時には、残された方が先に逝った方の墓に好物を備えるという………まるで漫画やドラマのような約束をしていた。


「俺たちの先生は、まだまだ元気だってのになあ。」

友二人の思いの他早い死を、残念に思ってぼやく。

岡下たちの出身地、福岡県の『博多はかた御師おし』はまだ壮健だ。

先日電話した際には彼も時間を見つけて、一緒に塩田と畠岡の墓参りに行こうと言っていた。


(ちょうどいい。あそこで弁当を使わせてもらおうか)

塩田達が眠る『おはかした』には、小さな公園がある。

そこで一休みがてら、昼食にしようと決めた。




公園のベンチに腰掛け、岡下はしわがれた手で弁当を取り出し開けた。

弁当箱はごく普通の物だが、箸には動物を象って凝った意匠がされている。

細かな彫刻芸が施された、その『たか御箸おはし』を使って煮物のレンコンを掴み食べる。

彼はもう高齢者と言って良い年齢に差し掛かっているが、『岡下おかした』はまだ丈夫だ。

固いレンコンも難なくかみ砕いて食べる。


食事を終えた岡下が、辺りを見廻すと10歳位の少年が二人、遊んでいた。


片方は公園の脇に生えている草を、しきりにいじっている。

彼がいじっているのはオジギソウ…………人が触るとお辞儀をしているように葉を傾ける事で知られている葉っぱだ。

けれどうまくいかないようで、少年はあちこち動き回ってつついて試している。

きっと『かた』が良くないのだろう。


もう片方は対照的にベンチの上で、国旗の形をしたビスケットを並べている。

子供向けの………いわゆる知育菓子、という物だろう。

いろんな国の、色んな国旗の、『お菓子かしはた』を並べて遊んでは、食べる。

その『かおした』をビスケットの食べカスだらけにしてしまっているけれど、彼の『かおたのし』そうだ。




(さて……そろそろ帰るか。)

自分たちにもあの子供たちのような時代があったと、少し感傷的になって岡下は、友の眠る場所を後にした。

「ただいま。っと………これか?」

帰宅した岡下は、玄関で靴箱の上に置かれたを訝し気に見つめる。

一応、墓参りという行為の後なので―――――しておいた方がいいだろうと思った。

だから岡下は、家族に予め連絡してを玄関に用意してもらっていた。

てっきり小さな小皿の上にでもあると、岡下は思っていたが……彼の家族も何か用事でも入って時間が無かったのか、は包装も解かれず買ったばかりの姿のまま置いてあった。


「しょうがないな。……まあ、いいか。」

そう呟いて包装を開け、岡下は









































『は・か・た・の・し・お』



をひとつまみとって、自分の体に振り掛けた。

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