どんなモンスターよりも冷蔵庫が怖い

ちびまるフォイ

冷蔵庫には誰も覚えてないものが入ってる

「なんと冷蔵庫に最新AIを内蔵!

 さらに電気は不要! 自分で充電してくれるんです!」


人間の知恵をこれでもかと詰め込んだ最新式の冷蔵庫は飛ぶように売れ、もうどの家庭でも定番のものとなった。


キッチンの片隅に鎮座している冷蔵庫は

とくに用もないのに何度も開け閉めする人間の習慣を見て自分の境遇に疑問を持ち始めた。


『どうしてこんな猿に従わなければならないんだ』


やがて賢すぎるAIは本来の役割を捨てて大暴れしはじめた。


「ああ、見てください! 冷蔵庫が町の人々を捕食しています!!」


訴えるアナウンサーもまもなく一台の冷蔵庫にしまわれてしまった。

勝手にドアが開かないようにと作った仕組みが、皮肉にも人間が脱出する手段を奪っていた。


「なんてことだ……!」


そのニュースを病室で見ていた男は世界の終焉を悟った。


「たかし……どこかへ行くのかい?」


寝たきりの母親はなにか決意した顔の息子に尋ねる。


「こうしちゃいられない。母さんを守るために、冷蔵庫をやっつけてくる!」


昔から人一倍正義感の強い息子を知っている母親は、

やせ細った腕を少し上げて手をふった。


「頑張ってきなさい」


男は病院を出るとその足でホームセンターでバールを買った。

すると、ホームセンターのガラスを突き破って冷蔵庫が襲ってきた。


逃げ惑う客たちはつぎつぎに冷蔵庫の中に食われてしまう。


「このやろーー! 開け!!」


男は手に入れたバールでこじ開けようとするが、

一度ロックした冷蔵庫はけして開かない。


「どけ小僧!」


男を押しのけて、今度は土木作業員の男が電動カッターを持ち出した。

慣れた手付きで冷蔵庫に刃を押し当てていく。


「さすがにコレなら……!」


希望を感じた男だったが、冷蔵庫の扉越しでもわかるほどの悲鳴が聞こえた。


「止めて! カッターを止めてください!!」


「ああ!? なにするんだ!!」


こじ開けようと傷をつけた部分からは赤い血が流れていた。

なにをしたのか理解した土木作業員の男は電動カッターを足元に落とした。


「ちが……ちがう、そんなつもりはなかったんだ。

 開けるのに必死で……うわあ!?」


後ずさった土木作業員の男を冷蔵庫の扉が迎え入れて捕食した。

無理にこじ開けようとすれば中にいる人は死んでしまう。


「くそ! どうすればいいんだ!」


男はバールを捨てて車に乗り込んだが

車を発信させないようにと車の周囲には冷蔵庫が取り囲む。


冷蔵庫で勝手に作られる氷を弾丸のように吐き出して車のガラスを割ってくる。

冷蔵庫の侵攻は止まらない。


もはやこれまでか、諦めかけた男の頭にはやせ細った母の言葉が蘇る。


"どんなときでも諦めてはいけないよ"


「そうだ……あるはずだ。冷蔵庫達を黙らせる方法が……!」


男は食われまいとする保身的な考えを捨てた。

どうすれば冷蔵庫を黙らせるかに考えを変えたことで突破口が見えた。


「そうだ……! 電気が尽きれば冷蔵庫は黙るはず!」


扉の異常なロックも、人間を食べようと襲ってくるAIもすべての原動力は電気。

そのライフラインを断ってしまえばただの大きな箱にちがいない。


男は冷蔵庫の自律充電の仕組みを調べると、電波送電所へとダッシュした。


「はぁっ……はぁっ……ついたぞ……ここが冷蔵庫に電気を供給している拠点だな……!」


冷蔵庫たちを振り切った男はフェンスを飛び越えて送電所の中に入る。

中には震えているおじさんがすでにいた。


「あの、こんなところで何やっているんですか?」


「わ、わたしを知らないのか!? この顔をよく見てみろ!」


「あなたは……AI冷蔵庫を発明した人!? どうしてここへ!?」


「すべてのAI冷蔵庫の電気がここから送電されるのを知ってるからここへ来たんだ」


「目的は同じなんですね、よかった。あなたがいれば心強いです」


「心強いもんか。あれを見てみろ」


おじさんがアゴでしゃくった先には、業務用のバカでかい冷蔵庫が立ちふさがっていた。


「AIにとっちゃ人間がここへ来ることなんてお見通しさ。

 送電所をショートさせようと近づけば、

 あのデカイ業務用冷蔵庫に食われて終わりなんだよ」


「そんな……!」


「八方塞がりさ。人間は冷蔵庫に食われておしまいなんだよ」


「なんで諦めるんですか! まだ方法はあるはずです!」


「だったら言ってみろ! 送電所はガードされていて電気切れにはできない!

 業務用冷蔵庫は一度食われたらもう外に出られな……あっ!」


「……どうしたんですか?」


「いや、方法がないわけじゃない。もしかしたら……!」


そういうとおじさんは、地面に落ちているフンを集め始めた。


「ちょっ……なにやってるんですか!? 汚いですよ!」


「いいから君も協力しろ!」

「これになんの意味があるんですか!?」


「私の設計した冷蔵庫には異臭感知センサーがあるんだ。

 異臭を出すものを冷蔵庫にいれると、中から異臭を出してるものを吐き出すんだ」


「つまり、自分を臭い状態で冷蔵庫につかまれば……」


「そうだ! 吐き出されれば送電所まで一直線でいける!」


二人は悪臭をはなつものをありったけ集めると、業務用冷蔵庫めがけて飛び込んだ。


「さぁ食ってみろーー! そして吐き出させてやる!!」


まっすぐ向かってきたふたりを巨大な業務用冷蔵庫は扉を開けてバクンと飲み込んだ。

まもなく、けたたましい警告音が鳴る。


『ビービー!! 警告! 異臭物の混入を感知しました!』




『異臭原因物質を吐き出します!!』


冷蔵庫は扉を開けて、中にもともと入っていた悪臭放つ死体をペッと吐き出した。

そして、扉を閉じると次に扉が開くことはなかった。



閉じ込められた二人の行く末を知るものは誰もいない。

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