夢と羊の類似性に関する諸考察

斑鳩彩/:p

夢と羊の類似性に関する諸考察

『先輩って、夢の中で羊を数えたことありますか。』

「はぁ……? こんな夜更けに電話してきたと思ったら、いきなり藪から棒になんだ?」

『いえ、そんな深い意味はないんです。退屈な夜長の手遊びに、先輩の脳味噌を貸してもらえないかなと。』

「まぁ、いいけど。こっちも暇だし。……で、何だっけ。」

『ですから、夢の中で羊を数えたことがあるかという話です。』

「夢の中でって……、それはおかしいよな。羊を数えるのは寝るためなんだから、夢の中でまで羊を数えたりしない。」

『では、先輩は夢の中でオオカミを数えたことはありますか。』

「オオカミ? それだと益々変だろ。普通寝るためにオオカミは数えない。」

『そうですね。でも羊のように寝るために数えないのだとしたら、逆に夢の中では数えたって構わないのでは?』

「うん? あれ、確かにそうかも……って、待てよ。オオカミを夢の中で数えるのと、羊を夢の中で数えるのは実質的に同じことだ。ならどっちもおかしく無いってことになる。」

『じゃあ、先輩はさっき嘘を吐いたということですね。』

「意地が悪いぞ。お前の詭弁に乗せられたんだ。」

『まさか詭弁だなんて心外です。それに、僕はやっぱり夢の中で羊を数えるのは可怪しいと思いますよ。』

「はぁ……?」

『だって、オオカミと羊が同じ夢の中に居たら羊が可哀そうですから。食べられちゃいます。』

「それはお前の勝手な都合だろ……」

『えぇ。ですがそも僕の夢は僕の勝手な都合百パーセントで形成されています。なら、やはり夢の中で羊を数えることはないのではないでしょうか。』

「……一理ある。うん。もうそれでいいんじゃないか。」

『いえ、それでは駄目なんです。だって、僕は夢の中で羊を数えたことがあるのですから。』

「……いい加減にしてくれ。そろそろ頭痛が痛くなってくる。」

『もう少し辛抱してください。この話はここからが面白くなってくるんですから。……それで、ここで重要なことは、僕が夢の中で羊を数える時、オオカミは夢の中には居ないはずで、ならばオオカミを数えるのは眠る前の方が蓋然性が高いということです。』

「……あぁ。そうかもな。」

『残念ですね。先輩はオオカミに食べられてしまいました。』

「どうしてそうなる。想像のオオカミに食べられたら滑稽が過ぎるわ。」

『本当にそうですか? 僕は先輩と話している内に段々今が夢か現実か分からなくなってきてしまいました。いえ、きっと今まで現実だと思っていたものは全て夢で、夢だと思っていた方こそが現実なのでしょう。』

「それは同感だ。この会話で初めてお前と考えが一致した気がするよ。」

『ですよね。だから今オオカミを数え始めたら、想像のオオカミに食べられる可能性があります。それは僕が〝女〟である確立とも似てますね。シュレーディンガーの僕です。』

「やかましいわ。結局お前は何が言いたいんだよ。」

『そうですね。つまり、先輩は夢の中で羊を数えたことがあるかどうか知りたいんです。』

「堂々巡りじゃねーか! もうこの話は終わりだ終わり。終了。じゃあな。もう寝る。」

『ちょっと待ってくださいよ先輩。まだ答えを――――って……、あぁ。逃げられた。』

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