奇物サーカス 十
「それで?」
シタが促すと、サキは諦めたように答える。
「光信社だよ」
その名前に今度はシタたちがたじろいだ。それは光水電池を生み出し、今も成長を続ける大企業だからだ。
「俺、そこの社長の息子なんだよ」
「それじゃあ、光信社は光水電池に光水核まで生み出して、それを裏でお偉いさんたちを相手に売り捌いているって事なの⁉」
思わず叫んだウナに、サキはあっさりと「そうだ」と告げる。
サキは父親から奇物サーカスを任されているだけで、自分は知らされていない事の方が多いのだと言った。
奇物サーカスがお偉いさんたちに特別扱いされていたんじゃない。元からお偉いさんたちを黙らせるための組織だったのだ。
そしてサーカスで研究を重ね、奇物を作りだし、おそらく張り付けて奇物にする為の魂の調達のために人だって殺めているだろう。
「聞かない方が良かっただろう?」
「あぁ……」
じりじりと焼け付く陽射しに溶けだした氷が塩を含んで、黒い獣たちは消えていく。
残ったのは破れたテントと折れた支柱、割れた水槽。
黙り込むシタたちに、ポ助がぽつりと呟く。
「人間って面倒な事するよなぁ」
「あぁ、そうだな。面倒だし帰るか」
シタが笑いながら立ち上がると、サキが「待ってくれ」と引き留めた。
「今日の事を警察に言うつもりか? 失敗したのが父さんにバレると不味いんだ。先生の事も言わないから、頼むよ……」
その声は機械音なのに、何となく弱々しく聞こえた。
「私は警察官ではないしな。それに、どのみち通報してももみ消されるのだろう?」
シタがそう言うと、安心したように「ありがとう」と言ってサキは作業に戻っていく。
光信社はどこでこの集霊器を手に入れたのだろうか? これが彗星石だと知っているのだろうか? 気になる事ばかりだが、今は他にやる事がある。
「さぁ、私たちは書塔に戻ってトイの話を聞きに行こう」
車を飛ばして塔に戻ると、心配して待っていたカカへ簡単に説明してから、二人は最終巻に入る。
本を読めないポ助と、体を守ってもらうためにカカにも残ってもらった。
そこはいつもと同じ雪景色。彗星石に覆われる山で、トイは待っていた。
「やぁ。早かったね。何から話そうか」
「核の事だ。なぜ知っていたんだ?」
「あぁ、それか」
シタが聞くと、トイは大岩に腰かけ話し出す。
ウナは顔を見られたくないのか、大岩の向こうにそっと腰を下ろした。
「欠片を持って行けば役に立つと前に教えたよね。だからそれを持っていたんでしょ?」
「あぁ。それと遺物である集霊器も」
「そうだろうね。その遺物が欠片を吸ったんだよ。だから、ただの塔の核の欠片と遺物だった物が合わさって塔の核に近い物になったんだ」
トイはチラッとウナを気にしてから話を続ける。
「前にポ助が本も読んでいないのに中に入って来た事があったろう?」
「あぁ。知っていたのか? 確かあの時トイは死んでいたはずだが」
「知っているよ。本の中で起きた事ならね」
ならば自分が見ていた事も知っているのだろうかと思ったが、シタは口をつぐむ。
「ポ助が本を介さずに中に入ったのと逆の事が起きたという事か?」
シタが聞くと、トイは頷く。
「その通りだよ。完全にはあれは塔の核ではないから、今回は本があの遺物を刺し貫いた事で起きた奇跡なんだけれどね」
「そうか。でも、とにかく助かった。ありがとう」
「どういたしまして。あの時も少し言ったけれど、塔の核と本、そして塔の主がいればそれがどこでも書塔になるんだ」
「それなのだが、塔の主はカカではないのか?」
「カカは人間が決めた基準での所有者じゃないか。主は塔が決めるんだよ」
「どうして私なの?」
雪の降る音にさえ消えそうな声でウナが呟く。
「それを話すには、多少つらい話をしなければいけないけれど、いいかい?」
「いい。聞きたい」
ウナがそう答えるのを待って、トイは「君の母が塔と契約をしたんだ」と言った。
その言葉が思いがけなかったのか、ウナはバッとトイを振り返る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます