奇物サーカス 二
あれから数日で退院できたシタは、破壊するべきか地下に戻すべきか悩んでいた。
本来なら迷わず破壊するところだが、今は集霊器を狙って襲ってくる奴らがいる。切り札は多いに越した事はない、とシタは怖気づいている。
退院してからこの二週間で事務所に侵入者が二回、路上で狙われた回数は片手じゃきかない。
集霊器が彗星石を吸ってしまっていて危ないだなんて事を警察は信じてくれないので、相談にも行けない。
万が一にも没収され、誰かが遺物である集霊器の契約を上書きしてしまったら、その契約で黒い獣たちを生み出してしまったらこの惑星は二度目の滅亡を迎えるだろう。
「だからと言って持っているのもなぁ……」
悶々と思案しているうちに、シタはいつの間にか塔の扉の前に立っていた。
扉を開けると二人は座って饅頭を頬張るところだった。
「すまないな、休憩中に」
「いえいえ、どうぞ」
シタがカカの隣に座ると、ウナはすっと立ち上がりコーヒーを淹れに行く。
「久しぶりですね。体はもういいんですか?」
カカの問いに「あぁ」と返事をするシタ。二人に会うのは退院の日に迎えに来てもらって以来だ。
気持ちが重い原因はもう一つある。まだ塔の核や骨が見つかった事をトイに言えていないのだ。もちろん、彗星石の欠片の事も、集霊器を狙う者たちの事も。
「入院中は助かったよ。ありがとう」
「いえいえ。でも探偵って、一人じゃ危ないですよね。まぁポ助はいるでしょうけれど」
「あれで頼りになるんだ」
シタは饅頭に手を伸ばしながら、さっそく仕事の話を切り出す。
「最終巻を貸し出してもらいたい」
「いいですけど、仕事で必要ならここで読んで行ったらどうですか?」
カカの提案に「いいや」とシタは首を振る。
コーヒーを持って来たウナはその向かいに座り、すでに興味の無さそうな顔で饅頭にかぶり付いていた。
「万が一の時の相談役として、最終巻のトイに会いたいだけなんだ。必要が無ければ読まずに返すつもりだ」
「そうですか。今回はトイに相談したいような案件なんですね?」
この気弱そうな少年は意外に知りたがりだ。人付き合いが苦手なくせに、心配で気になって首を突っ込んでしまう。
「アバターの盗難事件だが、奇物サーカスが絡んでいるらしい。魂や奇物に関してはトイに聞くのが一番だからな」
「確かにそうですね。でも奇物サーカスですか……競りに参加するには常連の紹介が無ければいけないと聞いてますけど」
「それならば問題ない。依頼人が下調べをしていたようなのだが、今回の奴らの目玉商品は、十五年前に壊滅した茶会教団のぬいぐるみアバターという事だ。狂信的な信者を装って潜り込むさ。その為に似たようなアバターを調達してきたのだ」
「そう言えばシタさんのアバターって、見た事ないです」
「あぁ、私が持っているのは子猫型アバターだけだ。あれは色々な機能を付けたので便利なのだが、それでもポ助たちに頼めば事足りるし、まぁ滅多に使わないな」
へぇ、と答えたカカが急に立ち上がった。
見ると、ウナが真っ青な顔でガタガタと震えているのだ。
「ウナ、どうした?」
「え?」
シタが聞いても、ウナはよく分からないと言って震えるばかりだ。
「二人の話を聞いていたら急に怖くなっちゃって、でも何が怖いのか思い出せないの」
「トラウマに触れたか」
シタは呟き、カカに「何か知らないか?」と聞く。
「いいえ。僕が記憶を失くす前のウナさんから聞いたのは、あまり良い思い出はないという事くらいですから……」
「そうか」
椅子に座り直しながら、トイは唸る。
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