古代に触れた
蓬葉 yomoginoha
古代に触れた 上
=================
☆
「おーか姉ちゃんみてみて!」
やわらかな陽のさす土曜日午後のリビング。リツ姉の作る夕ご飯の香りも心地よい。
そんな中、紅茶片手に小説を読んでいると、
私の持つ本の3倍近い図鑑を、その小さな体に抱きしめている。
「どうしたの莢音」
「これ!」
「ええ、なにな……」
開いた図鑑には、巨大な、ダンゴムシのような絵が
私は無言でそれを閉じる。
「ああん、何で閉じちゃうの」
「気持ち悪いからだよ……」
「だんごむしみたいでかわいいじゃん」
「虫嫌いなの」
「らいな姉ちゃんはすごいすごいって言ってくれたよ」
「ツボミは虫取り大好きだから」
「えー……、おーか姉ちゃんも喜んでくれると思ったのになあ……」
小学生になってから、莢音はああやって皆に声をかけるようになった。
「りゅーま兄ちゃん、サヤにじゅうとびできるようなった!」
「しょーじ兄ちゃんみてみて! 漢字のテスト満点!」
「りつか姉ちゃん! サヤおつかい行ってくるよ! サヤにまかせて!」
学校に通うようになると色々なことを覚えるようになる。それが楽しくて仕方がないのかもしれない。
けれど、所かまわずそれを出されるのは、困ったものだ。
「サーちゃん、味見するー?」
キッチンからリツ姉が言った。今夜は肉じゃがだと、さっき言ってた。
姉は私をサーちゃんと呼ぶ。双子の姉の
ちなみに私が蕾菜のことを「ツボミ」と呼ぶので、リツ姉は蕾菜を「ツーちゃん」と呼ぶ。
「するー」と返事をして、私は本を置き、椅子に座った。
口の中に、ほろけたじゃがいもの香りが広がる。
「んまいなあ」
「よかったー」
「リツ姉天才」
「えー」
リツ姉はわずかに頬を染めながら、ボブカットの茶髪を揺らした。
両親が死に、一番上のユズ姉が東京に行ってから、台所を預かっているのがリツ姉だ。
そういうこともあって、私たちはリツ姉のことを母のように思っていた。
☆☆
「さっきサヤちゃんと話してたでしょ」
「うん」
じゃがいもの甘みを感じながら私は応答する。
姉は私の真向かいに座って言った。
「サーちゃんも、昔ああだったよ」
「え」
リツ姉は微笑みをたたえたまま語った。
################
(五年前)
「ねえねえみんな見て!!」
およそ五歳児の読む本ではないだろうが、昨日図書館で借りてきたのだという。
キッチン机の椅子には
何の偶然か、そのときは女子しかいなかった。
「どうしたのー」
キッチンで、まだ赤ちゃんだった
「これ!」
ばっと開いたページには。
「あ……」
首を
「ううん……」
栗花は何も言えなかった。どう見ても笑顔で見るようなものではない。
しかし桜華は宝物でも持っているかのような
「シヅ姉も見てー」
こくりこくりと顎を動かしていた梓月の手を取って、桜華は言う。
「んー……?」
眠たそうに、薄く開いていた梓月のひとみが、次の瞬間、見開かれた。
「え……くび……え……?」
「首ちょんぱ首ちょんぱ!」
「すごいね」
いつのまにやら桜華の隣に移動していた柚希だけが
流石長女だなあと、栗花は思った。
(臆病な梓月が泣き
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます