第三十八話 DMO666

 施設内が大きく揺れ動くと共に警報器のけたたましい音が廊下に鳴り響いた。


「どうやら、お姫様たちが王子様を助け出しに来たみたいだよ?」


 一体何が起こっているのかマオにはわからなかった。

 ただ大変な非常事態らしく研究員たちが慌ただしい様子で廊下を走っている。

 そんな中でカイナは楽しそうに言った。


「……カイナさんって何者なんですか?」


 カイナの手を振り払いマオが問う。


「知的好奇心の探求者。それだけです」

「ずっと僕たちの家で家政婦やってたのも? 父さんたちの言い付けで?」

「フフ……それでマオさん。貴方はこれからどうしたいですか?」

「どうって、どうなるっていうんです? 帰してくれるんですか?」

「そうですね……そうしたいですか?」


 互いに質問合戦で話が前に進まずマオは内心、イライラしていた。

 いつも見るフワフワした表情のカイナが何を考えいるのかわならず、とても恐ろしく見えた。


「ただでは帰しませんよ。やってもらうことがあります」

「……何を、させる気ですか?」

「貴方がもし望むなら、セネス病を使い方をお教えします」


 そう言ってカイナはポケットから錠剤の入ったケースを取り出した。



 ◇◆◇◆◇



「真宮くん……どこにいるんだ」


 天を裂き、異空間より舞い降りた魔獣ジーグレイツはYUSAコーポレーションの研究所に向けて行進する。

 その姿を研究所が見える遠くの丘から、双眼鏡で眺めながらトウカは操縦する。


 ──マオはYUSAコーポーレションに誘拐された。


 マオの父・ムリョウから突然、電話が掛かってきたのは昨日の晩だった。

 

 ──息子を頼んだよ。


「未来のお義父さんに言われたら断れないよ……それに早くしないと奴等も来るんだ」


 トウカが気にしているのはミツキ、レフィ、アユムの三人である。


 だがレフィ以外は来れない事情があった。

 例え彼女らからすればマオを誘拐した悪い組織だとは言え、日本の一企業と世界的な大企業に喧嘩を売ればどうなるかわからない。

 トウカにとって問題なのは、YUSA社長の娘であるレフィだった。


「あのツインテよりも先に真宮くんを救出をしなきゃ」


 トウカがコスプレしたマオと黒いアンドロイドに追われていたあの日、二人があったのは二度目だった。



 ◆◇◆◇◆



 ──マオくんに何をしたの?


 ──ピンチだったからね。真宮くんには“魔王”を思い出して貰っただけ。


 ──DMO666を……飲ませたの?


 ──ちょっと刃物を向けないでよ、危ないなぁ。


 ──マオくんの力は正しく目覚めさせる。邪魔しないで。



 ◆◇◆◇◆



「ふん、チマチマ時間をかけてる暇はないんだよ……ボクにはね」


 幸いまだレフィはこちらに到着していない。

 トウカは怪獣コントローラでコマンド入力すると魔獣ジーグレイツは吼える。

 

「真宮くんを誘拐した罪は重いぞ!」


 前回の戦いで折られた修復され、更に太く肥大化した魔獣ジーグレイツの二本角から雷撃が迸る。

 瞬く間に、進行方向の建造物が爆ぜ、一面が火の海と化した。

 一方的な攻撃にYUSA側も対策を打った。


「人……いや、あのアンドロイドか?」


 建物からワラワラと湧いてくる黒い人型。

 前に見た時とは違い人間の姿ではなく、鉄の装甲が露になって完全に機械の見た目をしていた。


「小さいのが何匹居ようとも!」


 魔獣ジーグレイツは襲い来るアンドロイド軍団を踏み潰す。

 しかし、逃れたアンドロイドたちが魔獣ジーグレイツの足に組み付き自爆を始めた。

 一体だけでは小規模な爆発だが、それが何十にも連鎖して大爆破となる。


「ちぃ……鬱陶しい奴らだ、もう!!」


 自爆特攻が止むと魔獣ジーグレイツは満身創痍だった。

 皮膚から赤黒い血を流し、地面に血溜まりを作った。

 だが、怪獣コントローラからの操作はまだ受け付けており、僅かながら動くことは可能だ。


「これで終わりなら真宮くんを探すぐらいには動いて見せろよ!」


 トウカのその言葉は直ぐに叶った。

 なんとマオがアンドロイド軍団が出てきた建物から現れたのだ。


「あ、真宮く……ん?」


 双眼鏡を覗き、マオの姿を確認するトウカ。

 喜んだのも束の間。

 次の瞬間、マオが突然苦しみだすと身体が突然、閃光した。


「違う……あんなの知らない。なんなんだ、あれは……!?」

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