第十九話 wake up THE AMON

「へぇ、真面目そうな割りにミツキちゃんって結構スゴいの履いてるんだ」


 ミヤビはレフィと手錠で繋がった、マオの腕で捲り上がるミツキの服の中を覗き込んで驚いた。


「もう! 見てないで手錠を外してっ!!」

「大丈夫……レフィがやる」


 そう言って背中の長物に手を掛けるレフィ。


 キィン。


 一瞬の早業。

 甲高い音と供にレフィは達人球のスピードで抜刀し、手錠の鎖を切断する。

 マオはミツキの足下にどさりと倒れ込んだ。


「すっご……あっ、ミツキちゃんスカートが!?」

「え…………い、いやぁぁっ!?」


 風で内腿がスースーする感覚に気付いて、ミツキは恥ずかしさにしゃがみ込む。

 手錠を切断する際、ミツキのワーゲンはチャイナドレスのように側面がぱっくりと切れ開かれた。


「結構お気に入りだったのに、この服……」


 涙目のミツキ。

 切ったレフィ本人は謝るでもなく周りをキョロキョロと見ている。


「…………いない」

「だ、誰のこと?」

「さっきここにいた子」


 レフィは目を凝らして神社を見渡すも自分達四人以外の気配はない。

 いつの間にかボーイッシュなジャージ少女トウカの姿が消えていたのだ。


「て言うかそんなことよりも、アレ! どうするのアレは!」


 気を失う兄を抱き抱えながらミヤビが町の方を必死に指を差す。

 それは夕日をバックに六本の長い足を持つ蜘蛛のような怪物だった。


「なんか近付いてきてない!?」

「どうしよう……ライトニングを呼び出すには時間が間に合わない」


 蜘蛛怪物との距離は既に一キロ圏内。

 建物を潰しながら真っ直ぐとこちらに来ている。


「……レフィが倒す」


 夕日で赤く光る刀を蜘蛛怪獣に向けてレフィは言う。


「何を言ってるのよ!? 生身であんなのに勝てるわけないじゃない!」

「やっぱこの人おかしいよミツキちゃん」

「取り合えずミャーちゃん、マオとレフィを連れて先に逃げて……どうにかしてライトニングを早くここへ」


 右往左往して考えるミツキを他所にレフィが鳥居の間に立つ。

 刀を構えると刃が青白く光った。


「マオ君は、レフィが……守る!」


 レフィは勢いよく刀で宙に三回、“Z字”に振るい、天に向かって叫んだ。


 

 ◆◇◆◇◆



 地上から高度五百キロ地点に浮かぶ“YUSA CORPORATION”のロゴが描かれた人工衛星。

 人工衛星はレフィからの電波を受信。

 先端の方向を日本に向けると中央のハッチが開かれ、中に潜む“ソレ”は地球に向けて射出された。 



 ◆◇◆◇◆



「むぅ…………来た」

「え、どこ?」

「ミツキちゃん、あそこ!!」


 空を指差すミヤビが叫ぶ。

 茜空と夜空の境目で光る何かは、轟音を響かせながら四人のいる神社横の雑木林へと落下した。


「けほっ! けほっ! れ、レフィ、これは一体?!」

「何も見えないよー!!」

「……これはレフィの力」

「あっ、待ちなさいレフィ……けほけほっ!?」


 ミツキの静止も聞かずにレフィは土煙の中を行く。


 天空から落ちてきた“ソレ”は、もくもくと立ち昇る煙を立ち上がった勢いで吹き飛ばす。

 その大きさは周りに生えた樹木を越え、黒鉄色の厚い装甲に甲冑を思わせる両肩のシールド。

 そして歌舞伎の隈取りのようなラインが入った顔のマスク。

 背中には大きな刀を背負った十メートルの“鋼鉄の侍”だ。


「ウェイクアップ……THE AMON」


 機体に乗り込んだレフィ。

 円形のコクピットの中央に埋め込まれた台座に刀を突き刺すと床に漢字で“左衛門”という文字が光って浮かび上がる。


「皆はレフィが守る!」


 レフィの意識とリンクした黒き鋼鉄の侍・ザエモンは夕暮れの町に一歩踏み出した。

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