第十二話 災いの少女と疾駆する稲妻
平穏な町に突如として現れたそれはマンションの五階建てに相当する大きさをした“怪獣”だ。
トカゲのような顔に鋭い爪と長い尻尾を持っているが生物ではなく全身が機械仕掛けであった。
怪獣は大空よりやって来て、自動車の行き交う交差点へと落下すると、その衝撃で道路が陥没し、地下の下水道が塞がってマンホールから汚水が噴き出す。
「……真宮くん、君はいつだってボクのヒーローだよ」
謎の怪獣出現に逃げ惑う人々を高層マンションの屋上から様子を眼下に眺める者が一人。
黒いジャージ服に半ズボン、ボサボサの髪で少年のような風貌をした少女だった。
「ずーっと、この日を待ってた。神様、ボクに力をくれてありがと」
少女は空に向かって感謝した。
「始めよう。これがボクの新たな一話だ」
そう言って少女がジャージのポケットから取り出したのはゲームのコントローラーだった。
おもむろにAボタンを押すと操作に連動して怪獣は咆哮を上げた。
耳をつんざく怪獣の叫びは木々を激しく揺らし、周辺の窓ガラスが一斉に割れる。
「真宮くんは必ず甦る。ボクがきっかけを与えてあげるんだ」
今度は十字キーの上を押すと怪獣は重い足取りでズンズン、と行進を始める。
電柱を薙ぎ倒し、車を踏み潰しながら進む怪獣を誰も止められるものはいない。
「待ってるよ真宮くん……そして、あの時の約束を果たそうね。ボクと君で……合体を!」
◇◆◇◆◇
一方、女アンドロイド騒ぎでパニックになった生徒や教師たちが校庭に避難する中、誰もいない駐輪場に一人やって来たミツキ。
「えぇっとどこだっけ……あったあった!」
荷台から工具セットを取り出してバイク本体とサイドカーを馴れた手付きで切り離す。
「あの子に任せて良かったのかな……」
ミツキは校舎を見上げレフィを心配した。
中の様子はわからないが、先程から何が割れるや爆ぜる音が聞こえてくる。
「こんなことなら彼女の言うこと信じておけばよかった」
後悔するミツキ。
それは昼休みの時間だった。
──ミツキ、マオ君どこ?
──それはこっちも探してる。また何かマオに変なことしようと君は……。
──違う、マオ君が狙われてる。
──はぁ? 何わけのわからないことを言ってるのよ?
──ホント……レフィ嘘つかない。殺気でわかる。
──またいつものジョークでしょ?
──……もういい、自分で探す。
「本当だったんだ。悪いこと言っちゃったかな……」
自分の行いにミツキは反省した。
サイドカーを端に寄せてミツキはバイクを発進させた。
「こっちだぁー! ミツキィー!」
校舎の裏口から出ると、そこに頭にタオルを巻いた作業着姿の金髪男が大きく手を振る。
誘導に従いバイクは左折すると、そこには大型の車両運搬トレーラーが停止していた。
トレーラーの架台で作った坂に先に居たのは、山吹色の“機械の巨人”だった。
地面に膝をつく巨人の背中に向かってミツキのバイクは加速する。
「私がやらなきゃいけないんだ。マオの変わりに……!」
坂を駆け昇るミツキの接近に合わせて背中のハッチがオープンするとバイクは吸い込まれるように中へと入り、合体した。
「……システムに問題は無し。いつか来る日のためにシミュレーションはやって来たんだ、うまくやれるはず」
バイクを収納した巨人の中は、沢山のスイッチや計器と前面の巨大なモニターが外の様子を360度の範囲で映し出すコクピットとなっていた。
逃げ遅れている人はいないか、周りや足下の安全を確認しながら緊張した様子でミツキは操縦桿を握る。
これが初めての実戦であった。
「お姉ちゃんみたいに上手くやれるかわからないけど……私に力を貸して、ライトニング!」
ミツキの合図と共に立ち上がる全長7メートルの鉄乙女。
その名も、ライトニング。
黒煙の立ち込める街をライトニングは稲妻の如く疾駆した。
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