#6

画面が切り替わり、先ほど減った残りの3分の1ほどの男性が表示される。前の青年たちに比べると年齢層が高い。



ふゆか 「そして、残り16名はそんな生徒たちを教え導く講師。つまり、これまたスーパーエリート。だって、スーパー以下略な生徒たちに魔法を教えてるんだから。」


なつみ 「その内訳は魔法史、魔法薬学、錬金術、飛行術、占星術、実践魔法、魔法生物学、防衛術、呪術、術式学、魔法語学、加護魔法、魔法学概論の各教科担当で1人ずつ。それと、校長と保健室、購買の先生を合わせて16人だね。」


ちあき 「補足説明完璧かよ。」


ふゆか 「それはちゃんとカンペ用意したから今から言おうと思ってたんだけどな・・・。まぁ、いいや。先生たちは生徒と違った大人の魅力や謎を持つキャラが多くて、生徒と比べて圧倒的に出番は限られるものの、彼らの魅力に虜になったファンは多い、というわけ。だよね?みはる。」


みはる 「先生陣は最高・・・。」


ふゆか 「以上が乖離の箱庭のすべてだ!!」


なつみ 「今のところ開示されてる設定全部出たような気がする・・・。」


ふゆか 「良い復習になったでしょ?」


ちあき 「それはそうだけどさ、ここまでやって主人公には触れないでいいの?」


ふゆか 「主人公…?」


なつみ 「あー、特待生?」


ふゆか 「えーだって、こういう手のゲームの主人公はプレイヤー自身であって、名前も顔も個性もないじゃん。ただ、ひょんなことから異世界に迷い込んで、ラッキーで特待生としてこの学校に入学させてもらえたラッキーガールでしょ?これでおしまいじゃん。」


なつみ 「特待生は別にラッキーだったわけじゃないよ。特待生には魔力がないけど他人の魔力を増長する不思議な力があったから入学を認められたの。」


ふゆか 「それがあったのだってラッキーじゃん?」


なつみ 「それは、どうだろう…その設定を巡って、主人公黒幕説と主人公の世界の人、実は全員増長能力持ち説に二分されている…もっとも、どっちも確かめようはないんだけどさ。」


ちあき 「それがわかったら私たちがシナリオ担当者ってわけね。」


なつみ 「そうそう。」


みはる 「あと、ゲーム初めたとき謎に面白かったのがさ、心理テストあったよね?」


ふゆか 「あった!!極めつけの質問がさ、『異世界に一つだけ持っていくなら何?』。あれ、マジ何だったんだろうね~!」


なつみ 「あそこで選んだものを実際に持って主人公はストーリーに反映されてるから…。」


ふゆか 「なんだっけ、身に着けてたんだっけ…?」


なつみ 「そう、身に着けてたとか、たまたま飛ばされるとき持ってたとか。」


ちあき 「それ絶対無理あるだろって物まであったよね。」


ふゆか 「しかも、いろいろ持っていたであろうに、一つだけね。」


なつみ 「うーん…。兎にも角にも、心理テストも踏まえて攻略キャラとの相性テストだったんじゃないかな?このアイテムがキャラの好感度上乗せアイテム、みたいな。実際になってるかは知らないけど。」


みはる 「主人公の性格をプレイヤーに寄せるためとかどこかで聞いたよ。」


ふゆか 「どっちもあり得る~でも、謎システム!」


なつみ 「まぁ、ユーザーはざわついたわな…。未だに意図が分かってないし…。」


ちあき 「なんやかんや、一番謎が多いのは主人公だよな。灯台下暗しっていうか…正体がわからなさすぎる。」


なつみ 「プレイヤーの仮の姿だから、解明されなくても許されるだろうしね…。だから黒幕説とか不穏な噂も…。」


ふゆか 「まぁ、いくら考えたって一ユーザーにはわからないでしょー。とりあえず、今回はわかっている情報だけ。これはあくまで予行練習ということで。本番は全員揃ったとき!今度こそ完璧に沼に落とす・・・!」


みはる 「完全犯罪だよー。」


ふゆか 「ということで、素晴らしい復習を終えたところで本題の推しプレゼンに入ります!」


ちあき 「前菜が重すぎてもう満腹に近いのだが?」


なつみ 「フルコースは大体そんなもんだよ。」


ふゆか 「つべこべ言わずにやるよ。最初にプレゼンしてもらうのは・・・この人だ!」



画面に、髪を一つに束ねた泣きほくろの青年、アレンが映し出される。



なつみ 「あ~~~~!!!!!ア・レ・ン~~~!!!!」



なつみ勢いよく席から立ち上がる。


ふゆか 「はぁいというわけでね、トップバッターはなっちゃんで~す。」


なつみ 「はぁ~今日も顔がいい~!顔面国宝!マジで美術館に飾ってほしい。そしたらその美術館、年パスですわ。」


ふゆか 「ここでバシッと決めて、流れ作ってね。」



なつみ、教壇に立つ



なつみ 「でへへ~。いいの?アレンについて語っちゃっていいの?多分三日くらいかかるけど。ちゃんとお泊りセット持ってきた?」


みはる 「持ってきてないな~。」


ちあき 「一日で済ましてくれ。」


ふゆか 「何だったらこの後3人残ってるからその尺考えて。」


なつみ 「ちぇ。じゃあまず、基本情報ね。名前はアレン。ウィットティグ寮の2年生。部活はバスケ部~。いやもう、このルックスでバスケで汗水流してるって、想像するだけで鼻血が止まらないから輸血パック持ってきてほしい。」


みはる 「いいけど、保険は適用外だよ。」


なつみ 「じゃあやめとくわ。えっと、あとは何話せばいい・・・?」


ふゆか 「やっぱり、推しポイントでしょ~。」


なつみ 「推しポイントね!飽きるほど言えるわ。まず見た目!」



なつみ、アレンの髪を指す。



なつみ 「このね、チョロンとぎりぎり結べるくらいの長さの髪!性癖でしかないね。あと、なんと言っても、ここ!」



続いてなつみ、アレンの目元を指す。



なつみ 「泣きぼくろ!!あぁ・・・えっち・・・好き・・・。出身が貧富の差が激しいジェルベーラ公国のスラムだから育ちが悪くて、過去には傭兵とか?貴族に使われて、結構手を汚してきたんだけど、今は完全に足を洗って平穏に生きたいと思っているの。過去が暗いから自分に劣等感を抱きがちで「俺なんかが・・・」ってよく言うんだけど、私としてはすべて私が許すから幸せに生きなさいって感じ。でもね、その陰りっていうの?があってみんなから一線引いてる感じがね、ミステリアスで大人っぽいっていうか、なんというか、そこも含めて全部最高。育ちが悪かったから教育とかまともに受けてなくて、初の学校やお勉強でてんやわんやしているのもギャップがあって可愛いの~!性格はね、周りから一歩引いているからか、周りがすごくよく見えていて、些細なことでも気づいて細やかな気配りをしてくれるサポート型って感じかな。部活でも面倒見がいいからノアとか後輩の面倒をよく見て、アドバイスしたり、試合運びでもサポートしてくれるんだって!あぁ、あと趣味ね!趣味がなんと料理なの!私はこれをスラム時の飢餓と関連していると踏んでいるんだけど・・・。ウィットティグ生だから手先が器用で、凝り性だから独学で色々取得したんだって。今は同じ学年のジョゼとかイーサンとか他の料理好きの子たちと出会えて情報共有したり、新しい知識を仕入れたり、楽しそうに趣味に没頭して・・・おばちゃんそれだけで泣いちゃいそうだよ・・・。あ~・・・あたしの最後の晩餐はアレンの手料理がいいなぁ・・・。あ、これ遺言ね。・・・で、ここまで話して何か気づくことない?」


ちあき 「・・・?なつみの熱量がすごいことだけはわかった。」


ふゆか 「正直、熱量が強すぎて話がちゃんと頭に入っているかが心配。」


みはる 「アレンがえっちなことだけはわかった。」


なつみ 「ちょっと~!・・・あのね?アレンの設定、どことなくクレアちゃんと似てるの!もう、これ気づいたときは運命を感じたよね!だって、全然意識してなかったんだよ?」


ちあき 「あーあーあー・・・あぁあああああ!!確かに、似てるな!」


なつみ 「でしょ!?」


ふゆか 「ちょっと、クレアの過去編読んでないからよくわかんないんだけど。」


みはる 「同じく。」


なつみ 「あそう?じゃあ、早く読んでね。きっと言葉の意味が分かる。」


ちあき 「クレアちゃんは推し推しの推しだから、しかと把握してますわ。」


なつみ 「そう~だから、絶対、乖離の箱庭の世界にクレアちゃんがいたら、アレンとは気が合うんだよね。」


ちあき 「合いそうだな~。」


なつみ 「それも相まってさらに推すようになったよね。」


ふゆか 「なるほどね・・・。それではなつみさん、アレンについて一言で表してください。」


なつみ 「え、旦那にしたい男ナンバー1。」


ちあき 「即答。真顔が怖いって。」


みはる 「速かったなぁ。」


なつみ 「だって、こんなに気配りができて思いやりのある男、絶対旦那に欲しいやん・・・!?」


ふゆか 「はぁい、現場からは以上で~す。」


ちあき 「教卓のふゆかさん、ありがとうございましたー。」


なつみ 「ちょっと!?」


ふゆか 「いや、思ったよりも収集つかないね。」


ちあき 「ただただ推しに狂う人を見るってね・・・。」


なつみ 「やってるこっちとしてはかなり楽しかったよ?推しについてこんなに堂々と話すことなかなかないから。」



なつみ、先ほど座っていた席に戻る。



ふゆか 「まぁ、続けるけどね。普通に面白いし。えーっとねぇ・・・次誰にしてたっけ?」



ふゆか、画面を切り替える。

髪で左目が隠れ、困ったような表情をした青年が映る。



ちあき 「はい。私です。」



ちあき、美しくピンと手を挙げる。



なつみ 「真顔のガチトーンこわっ。」


みはる 「さっきのなつみも同じだったよ。」



ちあき、教卓の前に立つ。

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