シュータとルティア
ダンセイニ卿なじみのお店で、夕食をごちそうになる。
夕食後、ボクは卿のお屋敷にあるオフロへ。戦闘の疲れを癒やすため、薬効のある浴場に入らせてもらった。
「ふああああ」
ここの入浴施設は、冒険者用に作られた特殊な成分が配合されている。エリクサーだけでは回復できない、精神的な疲労も癒せるらしい。そのおかげか、肩がほぐれてきた。
本当は、もっと敵の情報を集めたりしたほうがいいのだろう。しかし、身体が想像以上に疲れ果てていた。キュアノの持っていたエリクサーでさえ、完全に治癒できなかったレベルである。今日は、おとなしくすることに。
「気持ちいい。それと、私も想像以上に弱っていた」
隣には、当たり前のようにキュアノがいる。彼女には、羞恥心ってないのかなぁ。
「今日はごめんね。その……」
ボクは、自分の唇を指で撫でる。
「エリクサーは、また作ればいい」
「そうじゃなくて、飲ませてくれて」
キスしたことを、咎められるんじゃと思った。
「気にしていない。サヴと、ファーストキスができた」
「え、初めてだったの? だったら、なおさらごめんなさいだよ」
「どうして?」
お湯を胸でかき分けて、キュアノが迫ってくる。
「なんでって、その。ボクみたいなのと」
「私は、サヴがよかった」
ボクは、胸がドキリとした。
「サヴは、私が初めてじゃ、嫌だった?」
ブンブンと、ボクは首を振り回す。
「うれしいよ。だけれど、本当にボクでよかったの?」
「最初も最後も、サヴがいい。サヴと共にいたい」
こんなに思ってくれるなんて。
「今日も目一杯、サヴの背中を流す」
「いやいやおかしいでしょ! 自分で流すから!」
ボクは慌てて、湯船から上がる。
すると、ルティアと鉢合わせた。バスタオル一枚の姿で、浴室に入ってくるではないか。
「え、ルティア?」
前かがみになって、ボクは身体を縮めた。
「お、おい、お前、男だったのか?」
今頃!? 驚くところそこなの!?
ようやくルティアも、自分の姿に気づいて湯の中へ急ぐ。薬草の色がお湯についていなかったら、ルティアの肢体が丸見えだった。
「おおおおお、お前らヘンタイか!? キュアノと一緒に入っているからてっきり」
自分の体を抱きしめながら、ボクらを批難する。
「ボクは一人でも入れるんだけれど、キュアノがどうしてもついてくるんだよぉ!」
いつの間にか、キュアノに背後を取られていた。逃げられない。シャンプーで頭をワシワシと洗われる。
ボクは、ジッとしているしかない。身体を泡まみれにして、ボクはどうにか身体を隠す。
「こういうわけなんだ」
「大変だな、色々と」
なぜか、ルティアに同情された。
「ごめんね。なんか迷惑かけちゃって」
「いいって。それより、こっちこそ悪かったな」
逃げようとせず、ルティアは湯船でくるろぐ。
「え、このままでいいの?」
「お前は異性って気がしない。それに、公私ともにできるパートナーもいるみたいだし」
なぜか、ルティアは悲しげな顔をした。
『でも、危ないことは、しないでほしいのです。あなたは強いかもしれませんです。ルティアのバスター・ストームに、耐えたくらいですから。しかし、邪竜には』
ルティアの髪留めが、言葉を話す。よく見ると、シュータが角にくくりつけられていた。
「ボクは、勇者パーティにいたこともあるんだ。負けるもんか」
その言葉が効いたのか、シュータは少し安心したように思える。
「危険だろうけれど、それはキミたちだって一緒でしょ? 手を貸すよ」
「私も、一緒に戦う。守る優先順位対象は、サヴになるけれど」
シュータは、『わかりました』と、半ば呆れ気味に言う。
『手を借りましょう、ルティア。ぼくだけじゃどうにもならなかったけれど、この二人がいれば』
シュータはそう言って励ますが、ルティアは首を振った。
「だからって、お前の身体だって取り戻せるとは限らねえ!」
「えっ、どういう意味!?」
ボクが聞くと、シュータが代わりに教えてくれた。
『実はぼくの肉体は、アナンターシャとの戦いで消滅してしまったのです』
アナンターシャの攻撃からルティアを守り、シュータは倒されてしまったらしい。ルティアはシュータが死ぬ間際、魂を竜族の宝である赤い宝石に閉じ込めた。
『アナンターシャはルティアに悪事をさせる代わりに、ぼくの肉体組成をするのを約束しました。ぼくは、信じてはいけないといったのですが』
「しかし、可能性があるなら!」
シュータは、自虐気味に笑う。
『これでもう、ルティアは悪事をしなくなるです。根は優しい子でした。ぼくは満足なのです。あのまま悪事を繰り返すルティアを見るくらいなら、消えたって構わないと』
話し方を聞いていると、シュータは本当に感謝しているように思えた。
『でも、今は使い魔にすぎないのです』
「違うって。お前はアタシの……」
それだけ言って、ルティアは黙り込む。
『あきらめるですよ、ルティア。きっと肉体再生もウソ。ぼくはこれで満足なのです。この状態も、結構気に入っているのですよ』
「シュータ。それじゃあアタシは、なんのために」
ルティアの瞳には、切なさがにじみ出ていた。
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