お風呂でハプニング
改めて、キュアノさんの身体が目に飛び込んできた。胸が大きい。けれど、是体のバランスはよかった。ウエストも細く、引き締まっている。見た目こそ柔らかそうだが、内に秘めた魔力やポテンシャルは想像もつかない。
一瞬だけ見て、目をそらす。
けれど、目に焼き付いてしばらく離れない。
それだけ、送り込まれた情報量が尋常ではなかった。
ほとんどのモンスターは、彼女を見ただけで浄化されちゃうんじゃないかな。
「失礼する」
キュアノが、浴室に入ってきた。
「うわうわうわ、ちょちょちょ!」
ボクは隅の方へと引っ込んだ。もうくつろぐなんて話じゃない!
「何を恥ずかしがっている?」
心底意味がわからないというふうに、キュアノは首をかしげる。
「いや、だって! キュアノは女の人なんだよね?」
「たしかに。あなたと同性」
壮大な勘違いをなさっていらしたよ!
「キュアノ! ボクは男なんだけど!?」
「あなたのような男はいない」
そんな「お前のようなババアがいるか」みたいなニュアンスで発言してもらうの、やめてもらっていいですか?
「たしかに、あなたのようなかわいい子が、女の子であるはずがない……とも思える」
まるで「天啓を得た」みたいな言い方しているけれど、言ってるコトはてんで支離滅裂だからね? ボクをどんな目で見ているの?
「でも、ここで会ったのも他生の縁。背中を流す」
なんとまあ、うれしいような怖いような。
「ありがとう。背中くらい自分で流せるから」
「遠慮しなくていい」
「ボク一五歳を過ぎてるよ? 元服だってしているし、その気になればお酒だって飲めるお年頃だから」
お風呂から上がって、自分で石鹸をタオルにつける。
「構わない。何歳になっても、女性に背中を流してもらうのは気持ちいい」
いや風俗じゃないんだから。
「奉仕させてほしい」
「こだわらなくたっていいよ」
「あなたは里を救ったばかりか、おいしい料理まで食べさせてくれた。そのお礼をしたい」
言いながらキュアノは、バスタオル一枚の姿でお風呂から上がってきた。
「いや。いくら言葉を並べても、しょせんは詭弁。個人的な事情があって、あなたと湯を共にしたい」
「え、どんな?」
「触らせてもらいたい」
「お邪魔しました!」
風呂から上がろうとしたら、秒で遮られた。
「言葉を誤った。あなたはオークロードを仕留めた。その秘密を探りたい」
「必要なこと?」
「エルフはその高い魔力ゆえ、他の亜人、魔族、魔物に狙われやすい。つけこまれて悪の道に落ちるものもいる。それを防ぐため、強い人間との接触は必須」
つまり、取材するってことか。ボクの身体を。
どうあっても、退かないご様子である。
「じゃあ、遠慮なく」
ボクのタオルをとって、キュアノがボクの背中を洗ってくれた。これすごい。
自分で洗っているときとは、勝手が違う。あまり意識していないところまで流してもらえて、心地よい。
「かゆいところは?」
「大丈夫です」
「また敬語」と、キュアノの手が止まる。
「ごめん。かゆいところはないよ」
「そう」
ジャバーッと、キュアノはボクの肩にお湯をかける。
調査だってキュアノは言っているけれど、丁寧に洗ってくれていた。
「ありがとう。じゃあ……」
ここから、どうすんだ? お返しするの? いいのか? 相手は女性だぞ?
「キュアノも、お背中流す?」
「いいの?」
「うん。ボクはやるけれど」
「おまかせする」
キュアノが、背中を向けた。
震える手で、ボクはキュアノの背を泡立てる。
「えっと、キュアノって男性に触れられるのには、抵抗ないの?」
「どうして?」
うおお、身体ごとこっち向けようとしないでぇ。見てはいけないものまで見えてしまいそうになるから。
「だってキュアノって、めっちゃ美人じゃん。恋人とかいるんじゃないかなーって?」
「父以外の男性に触れられたこと自体、初めて」
よし、感情をオフにしよう。ニンジャの忍耐力を侮ってもらっては困る。
何も覚えていない。ただ機械的に、キュアノの肌へタオルを走らせたくらいしか。感情を殺しながら。
ただ、お互いの純血はちゃんと守ったよなー、って感覚はあった。
「何もしないの?」
「同意もなしに、変なことはしない主義なんだ」
「もし、私が同意すると言ったら?」
ツララような眼差しが、ボクを射抜く。
本気だ。キュアノは本当に、自分をボクに捧げようとしていた。
「もっと自分を大切にしてよ、キュアノ」
タオルを、キュアノから返してもらう。
「あのー、ボクは出るから。どうぞごゆっくり」
「おやすみ。今日は、ありがとう。サヴ」
「うん。おやすみなさいキュアノ」
そそくさとお風呂から出て、ボクは体を拭く。
しかし、お着替えが問題だった。
これはいわゆる、ベビードールってやつでは?
「ヘルマさん、これはいったいどういうことなので?」
使用人室へ向かい、ボクはヘルマさんに抗議した。ベビードールは着ているが、本意ではない。なぜか服装がこれしかなかったからだ。
「ホルストぼっちゃまから、サヴさまを女性としてもてなせと仰せつかっております」
うわぁ。本格的にボクを脳から改造しようという魂胆だ。
「イヤですよ。ボクはすぐにでも旅立ちたいです。見識を広めたい」
「そうはおっしゃられても、ぼっちゃまのご指示ですので」
あまり抵抗はないみたいだけれど、心配だ。
「それはそうと、サヴさま」
「どうしたんです、ヘルマさん?」
「なんだかんだ言って、お似合いです」
ボクは、自室に戻って自分の寝間着を身に着けた。
明日もこんなカンジが続くってこと?
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