第3話 封書で送られてきたから気づけた
父の文字の変化には、このときメールではなく封書で手紙を送られたことによって気づけた。
そういえば、最近になって、年賀状は少ない人数でもきちんと出そうと思い始めた私は両親にも送るようになったのだが、年賀状に書かれた一言メッセージの文字を見て、誰が書いたのか一瞬ではわからないくらい文字が乱れていたのを思い出す。
封筒には便箋が1枚入っていて、一言メッセージが添えられていた。
その文字は、昔見た父の文字ではなかった。
あんなに細かい文字を書いていたのに、その文字は大きく、震えていて、かろうじて筆跡が父だと判断できるか、といった印象。
人間は年老いてくると、昔できたことができなくなって当然だ。
わかってはいるけれど、ショックだった。
まだまだ子どものつもりだったが、私ももう人生の折り返し地点に立とうとしている。
そう考えると、両親はあと20〜30年しか生きない。
その間に、今までできなかった親孝行を少しでもしたいな、と考えるのだが、こんなときに限って諸事情でギクシャクしていたりする。
親孝行も込めて、私たちは家を建てるまでの間、少しの間、両親と一緒に住もうと半分決めていたのだが、行きにくい空気を感じるのは致し方ない。
触らぬ神に祟りなし、ということで、特に重要なこと以外は連絡を取ることをやめている。
でも、意地になっているのではなく、今きっと、向こうは私からの連絡をしてほしくないようなので、遠慮しているのだ。
仲がいいのであれば、はがきや手紙を交換してみるのも悪くないと思う。
そうでもしないと、なんでもデジタルなこの時代だから、両親の衰えに気づかないまま別れることになるかもしれない。
【エッセイ】綺麗だった父の文字が乱れてきた話 幻中六花 @mamonaka_locca
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