第340話 デコピンとブースター

 放課後になったから、早速駐車場に行って作業してみよう。

 その前に、優子のラジオの入りが良くなったかを角印……もとい、確認してみようよ。


 なんか、優子の車のオーディオスペースがスッキリしてるね。

 確かに、性能を度外視して収まりだけを見れば純正が一番なんだよね。


 「でもマイ、Bluetoothにも、USBにも対応してないし、CDに至ってはMP3にも対応してないんだから、収まり良くても全然良くないよ!」


 分かってるって。

 だから言ったじゃん、収まり『だけ』ってさ。

 よしよし、まずはスイッチオンでラジオを……って、ホントだよ。音がクリアに聞こえるよ。しかも力強くね。

 昨日までのは大雨の向こう側みたいな感じで聞こえてたけど、今日のはこれぞチューニングの合ったラジオって感じだよね。


 おじさんみたいなこと言うなって?

 じゃぁ、どうやって表現すれば良いのさ。

 そうだ、今思い出したけど、この純正品だとワイドFMにも対応してないからね、だからそういう意味でも使えないよね。


 「私の車は、旧車の展示会に出すわけじゃないから、別に純正じゃなくても良いの!」


 分かってるって言ってるじゃん!

 さて、これで車が壊れてる訳じゃない事と、ラジオ本来の受信状態が分かったところで、私と柚月の作業をやってみようね。


 まずはいつものごとく、オーディオパネル前までサクサクっと外していっちゃおう。


 「先輩たちの、慣れた手つきに感動を覚えるっス!」


 あのさ、アマゾン。

 私はそう言われても、全然いい気分しないからね。

 私ら華のJKなのに、なんでこんな車のオーディオ外しが慣れた手つきで出来る事が自慢になるのさ! 


 「アマゾンじゃないっス! 最近、後輩たちにも『アマゾン先輩』って呼ばれるようになっちゃったじゃないっスか!」


 自分でノリノリだったじゃんか! しかも、いつの間にか自動車部以外の後輩にもそう呼ばれるようになっていって、自動車部以外の娘達には、本来の意味が伝わってなくて、ネット通販ジャンキーって意味に勘違いされてるらしいよ。


 「誰からその話、聞いたっスか?」


 それは教えられないな~。

 私の情報網は、国際秘密機関並みに広くて深いんだよ。


 さて、作業の本題に戻って、パワーアンテナ線に、デッキから出ているアンテナアンプ線を繋いで……と、おおっ! ホントだ、今まで気づかなかったけど、アンテナ線が2本出てるよ。

 今まではこっちの太い方を挿してたけど、ダイバーシティ対応のデッキだと、細い方も挿しこめるようになってるんだね。


 しかも、作業しながら見上げたら、フロントガラスのちょうど真ん中あたりに、黒い縦線が入ってるのを見つけちゃったよ。

 これがラジオのアンテナだね。

 なるほどね、上級グレードはガラスプリントアンテナとは恐れ入っちゃうよね。

 でもさ、今となっては、スイッチと共ににゅーっと伸びてくるアンテナの方が珍しいから、そっちの方が目立つよね。


 「でも、立体駐車場とか、背の低い木の枝とかに引っかかりそうになるから、私はプリントが羨ましいぞ」


 悠梨が言った。

 そうか、R33はパワーアンテナに戻っちゃったんだよね。

 ここだけ見ても、バブル崩壊による開発費用の削減はすさまじいものだったって推測できちゃうよね。


 取り敢えず簡単な作業だったからあっという間に終わっちゃったよ。

 この間、電源をバッ直にして、余った元々の配線があったのもラッキーだよね。そうじゃないと枝分けしないといけなくなっちゃったからね。

 まずは、取り敢えずスイッチを入れてみて確認してから取り付けよう。

 

 うん、確かにクリアになったね。

 優子の純正程でないけど、クリアになったから、きっと、これに電源が来てなかったんだろうね。

 でもって、優子の並みにする事はなんで出来ないんだろうね? まぁ、それはおいおいやっていく感じかな?


 取り敢えず私のは完了だよっ!

 さっさと組み付けて、柚月のテスト試聴をしよう。

 おーい、柚月、取り付け終わった?


 「今からだよ~」


 まったく、柚月ったらトロいねぇ……さっさとやりなさいよ。


 「うるさいやい~!」


 柚月、オーディオ配線をちゃんとタイラップで纏めないから、あちこちに配線が散っちゃうんだよ。


 「もういいよ~!」


 ダメっ!

 そうやって面倒臭がって、後回しにしようとすると、部屋の掃除も面倒になって汚部屋が出来上がるんだよ!


 「おいマイ、さりげなく私の事ディスってないか?」


 え? なに結衣? そんな訳ないじゃん。

 そういうのを被害妄想って言うんだよ。私はね、姉として柚月の事を心配して言ってるんだよ。


 「マイは、姉なんかじゃないやい~!」


 何言ってるんだい柚月。

 幼稚園の年中の頃、柚月のおばさんから『マイちゃんは、しっかりさんだね。柚月、これからはマイちゃんの事をお姉さんだと思いなさい』って言われただろう。


 「そんなの~昔の話じゃないか~!」


 とにかく、私はおばさんに頼まれた以上は、柚月の事をしっかり更生させる義務があるんだよ。

 ホラ、さっさとやる!

 こうやって纏めるだけでも、スッキリして作業の効率もやる気も上がるだろう?


 「ううっ……」


 よし、あとはアンテナアンプ線を繋いで、その後で試聴だよ。

 私の車で結果が出てるから、もう結果は言わずもがななんだけど、一応感動のフィナーレって事でさ。


 「感動のひなあられ~?」


 バカ野郎!

 “ビシッ”


 「痛いなぁ~、なにするんだよぉ~!」


 作業も終わってないくせに、くだらない駄洒落言ってるんじゃない!

 どうなの? 終わったの?

 終わってるね。それじゃぁ、早速スイッチオン!


 あれ? なんでだろう?

 柚月の車のオーディオからは、昨日とあまり変わらない、雨の向こうからの放送が聞こえてきた。


 「あれぇ~?」


 柚月、なんか間違ってない?

 これじゃぁ、あまり変わってるように思えないんだけど。


 「でも~、マイの言った通りだと思うんよねぇ~、これであってるでしょ~?」


 配線を手繰ってみて、間違いがないことは確認できたよ。

 それにしても、早速配線をスッキリまとめておいて良かっただろ柚月? そうじゃなかったら、配線がどこにあるのか、この配線の海をかき分けていかなければならなくなったんだぞ。


 しかし、だとしたらなんでこんなに調子が悪いんだろうね。

 私の車が大丈夫だったって事は、根本のやり方が間違ってるって訳じゃないんだよね。

 だとしたら、原因は一体どこにあるんだろうなぁ……。

 私は腕組みをしながら考えてみた。


 私の車も柚月の車も、元々社外品をつけていたっていう点では共通なんだよね。

 だからと言っても、こんなに歴然と差が出ちゃうのはなんでだろう?

 この配線って、アンテナブースターの電源線だって、言ってた気がするけど、それなのかな?


 私は、トランクの工具箱から、検電テスターを取り出すと、先端を柚月の首筋に刺した。


 「なにするんだよ~!」


 ボサッとしてないで、柚月も一緒にやるんだよ! まずはオーディオを退ける。

 私は、アンテナ配線に検電テスターを挿して、柚月にスイッチを入れさせた。

 やはり、相変わらず雨の向こうのラジオ放送なんだけど、検電テスターの針は振れるので、電気が来ている事は間違いないね。

 ブースターに電源は来てるから、断線とかじゃなさそうだね


 「だったら~?」


 電源が来てるだけだから、断言はできないけど、ブースターの異常じゃないって事だよね。

 だとするならば……。


 「するならば~?」


 ええい、柚月、やかましい! 

 考え事してるんだから、鬱陶しい顔を近づけるなっての!

 “ビシッ”


 「痛いよぉ~!」


 ──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『なんで柚月のラジオは、回復しなかったの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。 


 

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