第317話 ハンダと枝分けとせっかん
2日が過ぎた。
家に帰ると、例の物が届いてたよ。
もっと大袈裟な箱とかに入ってるのかと思ったらさ、封筒に入って普通郵便で届いたんだよ。
そのコンパクトさが良いよね。
お父さんに訊いたらさ、ドアミラーの自動格納装置は、ディーラーオプションでつけたんだって、だから、私らでもそんなに難しいことなくつけられそうだよね。
ちなみに、オプション品にはメーカーオプション品とディーラーオプション品があって、メーカーオプションってのは、例えばサンルーフとか、パール塗装とか、車種専用の埋め込みナビとかみたいな、車の生産工程の段階から取り付けないとつかない物の事で、ディーラーオプションは、バイザーとかマットとか、ネオンポールみたいな、車が完成した後、ディーラーで取り付けられるオプションの事を言うんだよ。
だから、新車を買う時は、しっかりとメーカーオプション品は決めておかないと、後から欲しいって言っても付けられないからね。
反面、ディーラーオプション品は、何年かした後でも、物さえ出れば取り付けられちゃうんだ。
よしっ! 取付説明書にも目を通して、どんな作業になるのかをイメージしておこう。
どうも、ドアミラーの展開と格納の配線と、ドアロックの開閉の配線、が分かれば大丈夫みたいだよ。電源は常時供給線って書いてあるけど、それってキーレスと共用でも大丈夫でしょ。きっと。
◇◆◇◆◇
翌日の放課後、ガレージに行って早速取り付けをやってみたよ。
なんか、最近個人車両の作業でガレージ借りちゃってゴメンね、燈梨。
「良いよ、昨日までなら他の作業が入ってたけど、今日はちょうど空きがあったからさ」
そうなんだ、タイプMが入ってるけど、もう1台は何だったんだろう?
え? セニアカーだったって? 例の計画に早速入ったんだね。
「うん、一応あれの作業リーダーは七海ちゃんなんだ」
そうなんだね、さっすがアマゾンだ。セニアカーの作業は誰にも譲らないっていう気合を感じるよね。
「アマゾンじゃないっス!」
その割には、セニアカーの後ろの所に『アマゾン号』って書いてあるじゃん!
残念だったね、柚月、もう既に1号のものではなくなったみたいだよ。
「いらないやい!」
さてさて、脱線はここら辺までにしておいて、昨日予習してから来たから、そこまで難しそうな作業じゃないんだよ……って、なんか1、2年生の視線が熱いね。
「みんな自分の車が欲しいから、先輩の車が羨ましいですよ」
そうなの沙耶ちゃん。
それじゃぁ、みんなに悪いから駐車場に行くよ……って、違うって?
逆にこんな近くで見られる機会は無いから、今日は終わりまでいてやって欲しいって?
そんなものなのかなぁ?
でもって、確かに開いてる窓から、喰い入るように特に1年生が車内を見てるから、紗綾ちゃんの言う通りなんだろうね。
それじゃぁ、ちゃっちゃっと今まで同様ミラーのスイッチのところまで外して……と、今日は、このスイッチ裏の配線作業があるんだ。
まずは検電テスターっていうのが必要だから、早速用意してきたんだ。機器の片側についてるクリップはアース線だから、車両の金属部を挟み込んで……っと、そしてこの先端についてる針をコネクターの根元の金属部に挿してみて、メーターの針が振れたら、そこには電気が流れてるって寸法なんだ。
それで、ミラースイッチを展開の状態にしておいて、コネクターの各線の根元をチェックしていくよ。
……おおっ! 3つ目にして針が振れたね。
早くも目当ての線を発見だね。
「マイ~、ミラースイッチを中立にしてみて~」
柚月、なんでさ?
いいからとにかく切れって?
ゴメン、燈梨、スイッチ中立にしてもらって良い?
「中立にしたよ」
ありがと燈梨……って、あれ? 中立位置にしたのに電気が流れてるよ。
「その配線、間違ってるんだよ~」
ええっ!? でもって、展開時に電流が流れてる線が、展開用の配線じゃないの?
「マイちゃん、恐らくだけど、アースとかも理論上は電流が流れっ放しだと思うよ」
そういう事なのかぁ、燈梨……でもって、展開した段階で流れていて、中立にしたら流れなくなった線が正解ってことになるんだね。
よしっ、そうと決まればやってみるのみだね。
……これで、展開と格納の線が分かったので、テープでナンバリングしておいて、ここは、配線を切断してギボシ端子で枝分けしよう。
「ええっ!? 配線切っちゃうんですか?」
若菜ちゃん達1年生が驚いていた。
うん、分かるよ。いきなり切断なんてすると驚くだろうけど、そこからギボシ端子にして、断線を防ぐんだよ。
こういうのって、配線コネクターとかで枝分けするようなのが一般的なんだけど、配線コネクター使うと、元の線が断線する危険があるんだよ。それに、そもそも通電不良を起こす可能性も高いから、あんまりお勧めしないし、自分の車でやろうという気も起こらないんだよ。
きちんと線をカットした後に、ギボシ端子を取り付けて、更にその根元にハンダを流し込んで、完璧を期しておこうね。
そうしてキッチリと作ったギボシ端子に、機器のギボシ端子を接続していく……と。
次に、ドアロックのロック線と、機器側の線を枝分けで接続……と、こっちは元々キーレスつける時に作った線で、ギボシ端子で接続してるから、枝分けキットで簡単に枝分けできちゃうんだよね。
それで、最後はアクセサリー電源線を枝分けして機器の残りの線に繋げると、もう完成しちゃったよ。
これで、アクセサリーオンでミラーが展開して、ドアロックでミラーが展開するようになるよ。
早速やってみよう。
まずはキーを捻ってみよう。
カチ、カチ、カチ……あれ? 配線間違えたのかな? それとも、この装置壊れてたのかな?
「マイ、このミラーのスイッチ、格納側になってるぞ」
なに悠梨? どういう事?
え? この装置は、中立位置かミラー展開位置にしておけばスイッチオンだけど、格納の位置にすると、機器のスイッチもオフになっちゃうんだって?
駐車場に止めてて、戻ってきたら隣の車が寄り過ぎてる時とか、この装置を使わないで格納や展開をさせる時なんかに使うんだって?
なるほどね、説明書を熟読してるつもりで見落としてたみたいだね。
早速スイッチをオンの位置にして、キーを捻ってみよう。
カチ、カチ、カチ
“ヴイイイイイイイイン”
おおっ! 凄いよ、まるで現代の車みたいだよ。
今度は、ドアロックしてみよう。
“カシャッ”
“ヴイイイイイイイイン”
おおおーー!!
凄いよ、これで満足だよ。
これで私の車の現代車化計画が、また一つモノになっちゃったね。
すると、それを見ていた悠梨と結衣が
「なんか、無くても良いかなーって、最初思ってたけど、マイがやったのを見ると付けたくなってきたかも」
「私も付けようかな?」
と言ってきた。
良いんじゃない? 後でどこで買ったか教えてあげるよ。
すると、燈梨も
「私も欲しくなっちゃったよ。マイちゃん、あとで教えてね」
なんて言ってきたんだよ。
良いよぉ~、燈梨。
それじゃぁ、あとで燈梨の部屋に行くね。
「させないっスー!」
コラっ! 何するんだアマゾン!
「マイ先輩は、燈梨さんの部屋に上がって、教えるついでにご飯をご馳走になった上で『眠くなっちゃった~』とか言って、強引に添い寝しようと考えてるっス! させないっス!!」
誰がそんな昭和の時代の送り狼みたいなことするかぁ!
この野郎! アマゾンめ、私がどれだけの腕かを見せてやる時が来たようだね。
火星に代わって、せっかんしてやるから覚悟しろよぉ……!
とおっ! えいっ! やぁっ!!
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『ドアミラーの自動格納装置のつけ方について、勉強になった!』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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