第315話 解決策とディスリ
さて、ドアミラー豆知識も話したところで、元に戻ると、私の車のドアミラーの不調は一体どういう事なんだろうねぇ。
「症状から見て恐らく、配線の接触不良なんだろうと思うよ。症状がたまにしか出ないから、断線まではしてないけど……って感じなんだと思うよ」
優子がズバリと分析した。
優子は物事を冷静に判断するのが得意だから、今回のトラブルもきちんと理論立てて結論付けてるんだよね。
まず、動かなくなるのはいつも左右同時なので、ミラー本体の不調ではないって事、そして、スイッチを交換しても症状が出たって事から、スイッチの不調でもないって事、そして、今言ったように、症状が毎回では無いところから、断線まではしていないって事から導き出してるんだよ。
ただ、接触不良なんて言われても、いざどうしたら良いのかなんて分からないよ。ハーネスごと交換なんて言われても、あんな狭いところのハーネスの交換なんて面倒臭そうだしさ……。
「でも~、マイは、ダイレクトイグニッションのハーネス交換したでしょ~」
あのね柚月、ダイレクトイグニッションのハーネスは、それなりの大きさもあって取り回しも単純だったからすんなりいったんだよ。
リモコンミラーの配線なんて、パワーウインドーの配線とセットになってそうだし、ただでもあんな手が入り辛いドアの中なんかの作業が、楽にできるなんて思えないよ。
それに、ハーネスが出るかどうかも分からなければ、私のお小遣いじゃ買えそうにない金額なんじゃないかって気もするよね。
「それじゃぁマイさ、こんなのはどうだい?」
なに、結衣? スプレーなんか取り出して。
そのスプレーって、よく使う浸透潤滑剤? いや、缶の色が違うね。
よく見ると『接点復活剤』って書いてあるよ。
「マイくらいの症状だったら、案外、これで直っちゃう可能性があるんだよね」
大抵、こういう物の大半は、経年劣化によって接点が汚れたりしている場合が多いんだって?
だから、接点を洗浄してから、この復活剤を塗ってあげれば、途切れ途切れの電流が、元通りしっかりと流れるようになるんだって?
確かに、症状を見るに接触不良だし、車も30年前の車だから、結衣の見立ても一理あるよね。
それじゃぁ、放課後にちょっと試してみようかぁ。
◇◆◇◆◇
放課後の駐車場には、私達の他に、燈梨やアマゾンもいたよ。
どうしたの? 燈梨とアマゾンは、部じゃないの?
「アマゾンじゃないっス! 私達は、後学のために先輩たちの作業を見学に来たっス!」
まぁ、ウチの部車も私らの車と似たような時期のばかりだしね、こういうトラブルも充分に考えられるよね。
なんか、こういう装備の壊れない最近の車が羨ましいよ。
「マイ、最近の車の場合は確かに新しい分、故障は少ないけど、コストダウンが激しくて、一度壊れたら他のスイッチと一体になってたりして凄く面倒だよ」
優子は実感がこもってるね。
え? おばさんが以前乗ってた軽自動車が、10万キロくらいから細かいところがよく壊れて、ディーラーに見積もりに行くとスイッチがパワーウインドーとセットじゃないと出ないとか、凄く面倒だから、ミラーが畳めなくてもいいやってなってたんだって?
なるほどね。単純に新しい方が一概に良いとも言い切れないのか。
よしっ早速やってみよう。
まずはスイッチを取り外すところまでは、今までと同じだね。
そして、コネクターを外してから、結衣がさっき持ってたスプレーで……
「ちょ~っと待ったぁ~!」
なんだよ結衣、ビックリするじゃん!
「まずはコネクターの状況を見るんだよ。そして、その後埃くらい飛ばしてから、復活剤かけないと埃が張り付いちゃうだろ?」
あぁ、そういう事ね。
それにしても、結衣の口からそんな言葉が聞かれるようになるとはね。
「どういう事だよー」
だって、結衣の部屋は汚部屋で、超埃まみれじゃん。その結衣が、埃に気を遣う発言をするからさ……。
そう言ってふと見ると、優子と柚月もクスクス笑っていた。
「マイ! 誤解を招くような事言うなよな! それと柚月! 何笑ってるんだよ!」
「私だけじゃないもん~!」
「いーや、お前のは私の事をバカにした笑いだった!」
「言いがかりだよ~」
「待てー!」
あっ! 肝心の結衣まで柚月と一緒にどこかに行っちゃったぞ。
もう、困ったなぁ……。
でも、こういうコネクターの埃って、どうやったら良いんだろうね。
そう言えば兄貴が、昔スーパーファミコンのカセットにこうやってたぞ。
私は、コネクターに思い切り息を吹きかけてみた。
フーッ、フーッ、フーッ
すると優子がやってきて
「マイ、確かそれって、ファミコンカセットにやっちゃいけない方法じゃなかったっけ?」
えっ? そうなの?
息を吹きかけると、唾液が含まれちゃうから、それが内部をサビさせちゃう危険性があるんだって?
そうすると、他にはどんな方法があるんだろう?
あ、ようやく結衣が戻って来た。
「はぁはぁ……柚月の奴め、2度と立ち上がれないようにしてやったぞ! ゴメンゴメン、それじゃぁ、続き行こうかぁ!」
と言うと、鞄の中からもう1つスプレーを出した。
これはエアダスターだね。ウチにもあるよ、パソコンのキーボードの中に詰まった埃とかを飛ばすんだよね。
これをシューってかけるのか。
よしっ! コネクターの両側にシューーっと。
思ったほど埃が出てこなかったのは、ずっと接続されていたのと、内部にグリスが塗られていて、埃はそこにも吸着されてるからだろうって事だったよ。
しかしさ、このエアダスターのスプレーのボタンのところにも薄っすら埃が溜まってるんですけどー。
「良いだろっ! 別に機能に関係ないんだからさ」
でも、埃を飛ばすためのエアダスターが埃まみれってのもねぇ……でもって、これ以上言うと結衣の事だから怒り出しちゃうよ。
「でもさ~、埃飛ばすための道具が埃まみれってのもどうかと思うよねぇ~」
あっ、柚月の奴、さっき結衣に立ち上がれないようにされてたはずなのに、もう復活してきたかと思えば、また要らない事言いやがって。
「柚月ぃ~、まだお仕置きが足らなかったみたいだなぁ~!」
「ユイは、すぐそうやって暴力に訴えてばかりでさ~、マイと変わらないよね~」
この野郎、柚月め言うに事欠いて私の悪口まで言いやがって。
すると、柚月の背後に音もなく立った結衣が
「待てコラ柚月!」
と言うと同時に、柚月がダッシュで逃げていき、結衣がそれを追って行っちゃった。
だからさぁ、2人共作業中の必要な所で寸劇やるのやめてくれないかなぁ……。
また作業が止まっちゃうよ。
すると優子が
「まずは、コネクターの状態を見てみようよ。その後で結衣の置いていったこれを吹けば良いんじゃない?」
と接点復活剤を持ってきて言った。
優子によると、接触不良の原因の1つに接点が焼けて、通電しづらくなっている場合があるので、その場合は、一度バラバラにして接点を磨く必要があるらしい。
私は覗いてみたけど真っ暗で全く見えなかった。
しかし、優子はスマホで照らしながら片目をつぶって覗いてみると
「接点は綺麗だね。問題なしだよ」
と言った。
そうだ、優子は目が良いんだよね。
よし、それじゃぁ、復活剤の出番だね。適量がどのくらいなんだろう?
説明によると、あまりベタベタにすると逆効果のような事が書いてあるから、さっとひと吹きくらいの感覚でいれば良いのかな?
よし、スマホで検索してみよう。
どうも、そんな感じでイイみたいだね。
それじゃぁ、さっとひと吹きして、反対側にも同じくさっとひと吹き……と。
しばらく待ってから取り付ければ良いのかな……って、また結衣が戻って来たぞ。
今度は小脇に柚月をヘッドロックで固めてるよ。
「お待たせ~って、そこまで終わったんだね。もう少し待ってから取り付けちゃおう」
と言うと、柚月をボカボカと殴り始めた。
「痛いよ~!」
「うるさい柚月ぃ! 私の心の痛みに比べれば、そんな痛みは痛みに入らない!」
「マイみたいなこと言うなよ~!」
なんか、さっきからさりげなく、柚月が私の事をディスってるように聞こえるんですけど、そこは結衣に任せながら、少し休憩していた。
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■あとがき■
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『ドアミラーのトラブルの解決法について少しわかった!』など、少しでも『!』と思いましたら
【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。
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