第261話 最後のファクターと部活動

■まえがき

 話の終盤に登場している部のセフィーロは、転載している他サイトで行われた、ハロウィンフェアの読み切り話で登場したものです。

 こちらへの掲載については現状未定です。


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 それにしても、こんな所が浮くなんてあるんだ。

 しかもさ、浮いても別に実害なくない?


 「無いけど~、気持ち悪いだろ~」


 気持ち悪い? それは柚月のクスリが切れてるからじゃないの?

 

 「私は、クスリなんてやってない~!」


 で? これからどうしろってのさ。

 なに? 詳しい事は調べてないだって?


 あんたバカぁ? 何回言われたら分かるのよ。人に作業応援する時は、事前に調べて作業のシミュレーションくらい済ませておけって!

 もう何回目だ? 3回は超えてるよな……なんか柚月、私の言う事だからって、忘れすぎじゃね? ……て言うか、物忘れが激しすぎだよ。


 分かった!! クスリのやり過ぎで物忘れが激しくなったんだ。


 「私はやってない~!」


 とにかく、見た感じは、貼ってある表皮の接着剤が剝がれてきて、それで浮いちゃってるんだろうねぇ。

 それにしても、なんで柚月のだけ浮いちゃってるんだろ? クスリのやり過ぎかな?


 「だから~、クスリなんてやってない~!」


 なになに? 保管状況にもよるんだろうって?

 そう言われてみれば、私のも、優子のも、結衣のも、みんな室内保管だったんだっよね。

 柚月の車の以前は分からないんだけど、塗装の感じは決して悪くないから、カーポートとかの保管だったんじゃね?


 「カーポート保管とかだと~、油断してシェードとか、し忘れる人が多いんだよ~」


 シェードって、よくフロントガラスの内側にかけてるやつね。

 あれって、日除けだけじゃなくて、車内の温度の乱高下を防いだりするアイテムで、決してバカにできないんだよね。


 なんでそんなこと知ってるのかって? ホラ、私らの住んでる地方って、雪が降るからさ、あのシェードは冬場もかけておいて、室内を冷やさないっていうのが常識なんだよ。

 なんか都会人とかだと、あれを夏にしか使わないって勘違いしてる人が多いんだけどさ、あれは室内温度を一定に保つためのやってるんだよ。

 

 そうそう、カーポートって屋根がついてるから、日除けがいらないって勘違いしてる人もいるんだけど、カーポートの屋根って結構、透過性の高いポリカーボネート板とかで出来てるから、雨は凌げても日差しは防げないんだよね。

 でもって、柚月のGTS-4のダッシュボードは、恐らくだけど、左側だけから日が差してたんじゃないかな。


 「なるほど~」


なるほどじゃなくて、少しはこれからどうしていくとかのビジョンを出せっての。


 「だから~」


 柚月はさっきの注射器を出して言った。

 だから、クスリに頼ろうっての? 私はやらないよ。


 「クスリじゃない~!」


 だいたい、そんな注射器の中に入れて、接着剤って固まらないの?


 「これから~一緒に買いに行こうと思ってさ~」


 誰と?


 「マイと~」


 さようなら。


 「待ってよ~!」


 あぁ~、めんどくさい!

 大体さ、今日、今の段階で接着剤もない状態からはじめて作業が終わると思うの?

 私思うんだけどさ、よしんば接着剤が流しこめたとしても、明日の朝には元に戻ってるんじゃね? って思う訳よ。


 「ううっ……」


 ほら見ろ、やっぱり無計画だ。

 だから、ダメだって言うんだよ。

 まずは、この件についての情報をきっちり収集して、それなりの準備をした上で、改めて私に土下座をして頼みに来なさい。そしたら考えてから断ってあげるから。


 「なんでだよ~!」


 いいか、何でもかんでも、人にやって貰おうって態度がモロ見えの柚月にやってやろうって気は起こらないんだよ。


 「マイのサディストー!」


 なんだと、クスリのネタをおばさん達に黙ってあげてるだけ、ありがたいと思いなさいよね。


 「やってない~!」


◇◆◇◆◇


 それから数日が過ぎた。

 色々と調べたんだけど、やっぱりR32はバブルの申し子みたいな車だったから、内装もそれだけ凝ってたみたいで、恐らくあのダッシュボードもその一環だったんだろうね。

 どうやらR31以前の型だと、そのままハード成型の樹脂だったみたいだから、経年劣化と乾燥で割れちゃうってのはあっても浮くってのは無かったみたいだよ。


 でも、R32は表面にソフトパッドと、表皮を貼ってるから、それは温度変化とかに晒されていくことによって、縮んだり乾燥したりして、浮いちゃうんだろうね。

 

 だから、単純に接着剤を流し込んだだけだと、やっぱり乾燥と共に浮いてきちゃうみたいだね。

 それを防ぐには、接着剤が完全に乾燥するまでの数日間、何かで押さえておく必要があるんだって事は分かったよ。


 「でもさ、押さえるって、なにで?」


 悠梨、それなんだよね。

 妥当なのは、ホムセンとかに売ってる突っ張り棒じゃないかって思うんだよね。

 ダッシュボードの押さえる部分に板かなんか当てて押さえさせてから、突っ張り棒を天井との間で突っ張らせるって感じかな。


 でもって、翌朝とかに落ちてたら悲惨だけどね。

 それと、走行中の振動で落ちても面白くないから、乾くまでは車に乗れないしね。


 「ええーー、それじゃ困るよーー!」


 あ、ジャンキー柚月だ。

 今日はちゃんと打ってきたのか?


 「やってない~~!」


 困るって言われても、困ってるのはこっちの方だよ。

 ロクに調べもせずにちゃちゃっと終わるもんだと思って、勝手に頭数に入れやがって。

 こういう作業には忍耐力が必要なの。

 そもそも、我慢できないって言うんだったら、この作業自体しなくても私ら、誰も困らないんだから、しなくてもいいんじゃね?


 「ヤダー!」


 だったら、諦めて期間中はバイクで学校来るなりして、しっかり乾かすんだよ。

 

 「そうだよ! ユズ、直そうっていう気があるなら、この寒空の下、バイクで通うくらい、なんてことないでしょ!」

 「ううっ……」


 凄く柚月に厳しい姿勢で臨む優子だけど、その間、柚月を迎えに行ってやろうという気が無い事だけは、その発言から読み取れた。


 でもって、これ、本格的に直そうとすると、結構揃えるものがいるね。

 部のガレージにあるかなぁ……。


◇◆◇◆◇


 その日の放課後、ちょっと部に顔を出してみたんだ。

 燈梨、ゴメンね。ちょっと柚月のバカが、やらかしちゃってさ。ちょっと、部の工具で直せるかどうか見てみたくてね。


 「大丈夫だよ。マイちゃん、柚月ちゃんのダッシュボードが浮いちゃってるんでしょ? ここにあるもので良ければだし、部車のダッシュボードと交換しても良いんだよ」


 うんうん、燈梨は相変わらず愛い奴だよ。

 また頬をスリスリしちゃうぞ~。


 「あはははは……」


 折角だけど、ダッシュボードの交換は、みんなの部車の迷惑になっちゃうし、交換時にうっかり落としたりしたら、使い物にならなくなっちゃうから遠慮しておくよ。


 とは言ったけど、部車のタイプMのは既に、柚月のやつと比較にならない程、浮いてるし、教習車は、浮いてはないけど、ダッシュボードにあれこれ貼り付けてた跡があって、あまりに酷いから、GTEのになるんだけど、あれだって、いつまで浮かないかというと、正直そんなに長いこと無いような気がするしね。


 ……よし、はあるから、柚月の作業自体はここに持ち込めばできるね。

 あとは、アイツの車を数日置いておける場所なんだけど、グラウンド整備の2台が置いてある所が、何台分かスペースがあるから、そこに置いておこう。


 あれ? 今日は、随分重整備やってるね。

 今回のお題は、ハロウィンの時に私ら3年が作ったセフィーロだね。

 

 「あれの車検整備をして、外に乗って行ける部車に追加するんだ」


 そうなの?

 すると、シルビアとサファリに続いてセフィーロもナンバー付きになるんだ。

 そうか、一応4WDだからね。

 まぁ、水野の奴も、それが狙いだったんだろうけど……。

 

 とにかく、これで、柚月の作業もこれで本格始動できるね……って、なんで私がアイツの面倒見なくちゃならないわけ?


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『部に何があったから、はじめられるの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 遂に作業に突入します。

 お楽しみに。

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