第224話 展示と赤いホイール

 遂に今日から2日間の文化祭だよ。

 私ら3年の仕切りでやる最後の行事だからさ、なんて言うか、こう、力が入っちゃうよね。


 実はさ、懸念懸案は天気でね、1、2年生の頃は、何故か文化祭の日って雨続きだったから、寸前まで考えないようにしてたんだけど、やっぱり気になってきちゃうんだよね。


 特にウチの部って、屋外での展示がメインだからさ、雨降ってると、それだけでほぼ9割意味なくなるんだよね。

 でも、今年はスッキリ晴れてくれて、最後の文化祭に花を添えてくれるような感じになったんだよ。


 まずは校門前の特設ステージに、自動車部の横断幕と、エッセとノートの展示、更には沙綾っち特性の写真のボードで、ジムカーナ3位と、軽自動車での耐久レース完走のアピールはバッチリ出来たんだよね。


 でも、一番の見せ所は、メインブースでのR32の展示なんだよね。

 タイプMをメインに、GTEと、教習車で、バッチリと人を集めちゃってさ、これで掴みはOKって感じよ。


 それにしても、GTEが間に合って良かったよねぇ……。

 これでもし、壊れちゃったりしたら、目玉のR32展示が、パーになっちゃうところだったからね。もう既に、パンフにチラッと載ってたりしたんだからさ。


 今回は、1、2年生のGTE班の娘達のお手柄だったよね。

 そして、柚菌、ちゃんと反省してるんだろうな?


 「はえ!?」


 バカ野郎っ!!


 “バキッ”


 「痛いなぁ~、なにするんだよぉ~!」


 反省しろって言ってるのに、なにホットドッグなんか食ってるんだよぉ!


 「せっかくの文化祭なのに~、じっとなんかできる訳ないじゃん~!」


 出展側の上に、GTEを壊して最後までみんなに迷惑をかけた張本人の柚菌は、償いとして、1日中、ここにじっとしてるくらいの心構えで良いんだよ。

 ねぇ、優子。


 「そうだよ、柚月」


 “ガチャリ”

 優子ったら、柚月の左手とパイプ椅子を手錠で繋いじゃったよ。


 「なにするんだよ~!」

 「柚月、あんまりにも聞き分けないと、本気で怒るよ? 車壊したの柚月なのに、修理は後輩にほん投げして、しかも、展示の立ち合いもやらずにほっつき歩いてさ」


 柚月は、暴れたが、優子の語気に顔が蒼ざめていき、最後には大人しくなったよ。


 それにしても、色々展示してるけど、やっぱりR32の周辺は人が集まるよね~。

 やっぱり、一番先に目につくのは、2ドアのタイプMだろうけど、2番人気は意外や意外に教習車なんだよね。


 なんか、変なマニアっぽい人たちが妙に色めき立って、中を覗いたり、カメラで撮ったりしてるんだよね。

 人気があるのはいいんだけど、私はぶっちゃけ、ああいうタイプは苦手かな。


 さっきなんてさ、なんで標準サイズのタイヤと、純正のホイールキャップじゃないのか? って聞かれたけど、別に、ここは教習所じゃないから、純正のサイズじゃなくても関係ないじゃん。

 純正のホイールはカッコ悪くて不評だからだって答えてやったら、すげぇ『コイツ、分かってないなぁ』みたいな目で見るから、ガン飛ばしてい追っ払ってやっちゃったよ。


 解体屋さんで貰ってきた、ワタナベ風の赤いアルミホイールで、教習車の足元も引き締まってちょっとお洒落じゃね? って私的には自負してるのに、ケチつけやがってさ、マジ気分悪いんですけどー。


 なんか、教習車も塗装やっておけば良かったね。

 元々どこかの教習所からのお下がりだから、ちょっと冴えない感じだよね。

 しかも、使ってた教習所の名前を消したような跡もあるしさ……。

 なに、悠梨? もう2年生にその辺の話は引き継いであるんだって?


 悠梨の後継者って、いるの?

 一応、弟子は見つけて、この夏からみっちりしごいておいたから、大丈夫じゃね? だって?

 まだ、春までは顔出すんだし、指導は続けていくけどね……だってさ。

 各所で、徐々に、世代交代も着実に進んでるね。


 このブースの運営で動員数を見て、来年は出店をやってみるかの判断材料にしようとしてるんだけど、実際のところはどうなってんだろ?

 ちょっと聞いて来てみるね。


 校門前のブースに行って、燈梨を捕まえて訊いてみた。

 ……実際に、興味を持って声を開けてくれたり、こっちの声掛けに応じてくれた人数だけでカウントした数がこのくらいかぁ……これって、軽音楽部の頃にやったクレープの出店くらいの人数は行きそうだね。


 実際は、2日間ある中で、後半の推移を見ないと何とも言えないけど、出店なんかもやれちゃうかもね。


 おーい! 朗報朗報、今段階での人の入りなんだけどね……って、悠梨どしたの?

 え? またウザいのに絡まれたって?

 今度は、GTEに関して『貴重なワンカム車を練習に使って勿体ない』とか、講釈垂れていったんだって?


 「だから、言ってやったのさ。『これ、解体されるところをレスキューしてきてるんで、勿体ないと思うなら、代わりのFRの部車持って来てくれるなら交換しますよ』って、そしたら、黙って居なくなりやがってさ。マジ感じ悪いんですけどー」

 

 なんで、こういうウザいのが湧くんだろうね。この車の周りだけ。

 10人に1人くらいの割合で発生してくるよ。

 なんか『今の車に無い感じがサイコーですね』とか、『'80年代や'90年代の車は味がありますね』とかさ、で、挙句二言目には『今の車はつまらない』だよ。


 そう言うと、自分の旧車好き度のレベルが上がるとでも勘違いしてるところが、マジウケるんだって。

 それで上がるのは『似非旧車厨』のレベルだけだっつの!


 兄貴が持ってたR32が現行時の雑誌なんかの、読者投稿欄なんかには、その頃の旧車に乗ってる人や、それに憧れる層が


 『新型スカイラインGTS-tや復活したGT-Rは、ただ数値の上で速いだけで、そこには走る感動が感じられない』

 『新型スカイラインは、速くて走りも素晴らしいが、こんな高性能を免許取りたてのおばちゃんにも運転できるように作った日産の良識を疑う』


 とかさ、今の奴らが言ってるのと、ほぼ同じことが書いてあったんだよね。そして、二言目には『現代の車はつまらない』だよ。

 今のR32最高厨は、正直、この頃、R32を貶めてた人達と全く同じ事を言ってるんだよ。少し気がつけっての! ただ、時代を繰り返してるだけの老害だよね。

 

 まったく、変なののせいで話の筋が逸れちゃったよ。

 それで、燈梨に訊いたら、結構、現段階の人の入りは、軽音部時代のクレープ屋さんくらいあるから、明日の様子を見て、来年は出店なんかもイケるかもね。


 「でもさ、来年の事なんか、私らには関係なくね?」


 なに、結衣その言い方、超感じ悪いんですけどー。

 自分が引退したら、もう部の事なんか知ったこっちゃないっていう結衣の姿勢が滲み出る言葉だったね、今のって。


 「結衣って、マジでクズだよね」

 「ユイの、人でなし~!」


 結衣は、悠梨と柚月に口撃され、黙り込んでいたが、次の瞬間、柚月に襲い掛かっていった。


 「なにするんだよ~」

 「うるさい! お前に人でなし呼ばわりされる筋合いはないわ!」


 2人は放っておいて、私はブース全体を回ってみようかな。

 あ、ちょうどいい所に燈梨が来た。

 ちょっと一緒に現状を見に行ってみようよ。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『文化祭の出展は構成はどうなってるの?』など、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 

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