第211話 弱点と粉塵

 あぁ、ななみんね、大昔はスパイクタイヤが主流だったんだよ。

 まだスタッドレスタイヤの性能が、今とは桁違いに低かった頃はチェーンか、スパイクタイヤだったんだよ。

 爺ちゃんの話だと、性能は段違いで、爺ちゃんの若い頃は、FRのブルーバードや、サンナナレビンとかいう、ハチロクの先祖みたいな車でラリーに出て、凍結路で信じられないような超高速コーナリングをしてたらしいよ。


 昔は、雪や凍結路では、スパイクタイヤを履かせていたんだけど、乾燥路になってからも、スパイクタイヤを履かせっぱなしにしてるケースが多かったんだよ。

 春になってからも、1~2回降るからね。


 でもね、その結果、北海道を中心に降雪地帯で、春になってもスパイク履かせる車によってアスファルトの表面が削りとられて、その粉が辺り一面に舞う、粉塵公害が深刻化したんだって、だから、平成2年から、一部地域の一部時期を除いては、4輪用のスパイクタイヤは禁止されて、国内メーカーは一斉にラインアップから消したらしいよ。


 「へぇー」


 そうなんだぞ結衣。

 R32で関連付けると、ちょうどスパイクタイヤの禁止の通達が出て、使えなくなる寸前のタイミングで、GTS-4が登場したんだ。だから、豪雪地のスカイラインファンには、この設定はかなり朗報だったろうと思うよ。


 「なるほどな」


 でも、実際のところは結構高かったから、買えなくて、泣く泣くブルーバードやギャランの4WDに乗り換えるユーザーが結構いたみたいだよ。 

 だから、R33のGTS-4は、ノンターボモデルにして、価格上昇を抑えたんだって。


 「ふーん、そうなのか、だからR33以降は、ノンターボなんだな」


 ちなみに、スパイクタイヤの話に戻ると、私らの住んでるところは、実はスパイクタイヤOKの地域だったりするんだぞ。


 「そうなの!?」


 うん、悠梨、そうらしいよ。爺ちゃんが言ってた。あまりに豪雪地だったり、冬場の凍結が厳しいからみたいだけど、要は山奥だって思われてるんだよ。


 さてと、なんの話だっけ?

 あぁ、FF車の話か、爺ちゃんの話だと、高速域で急に巻き込むから立て直す暇が無くて、チェリーは、路外に落ちて横転したって。

 スプリンターは、国道の橋の手前の左カーブで、いきなり内側に巻き込んで、橋から落ちたらマジヤベーからね、手前で強引にスピンさせて止めようとしたら、雪の中に縁石が隠れててタイヤが引っかかって、手前の崖から下の斜面に落ちたんだってさ。

 すると、結衣が心底ホッとした顔で言った。


 「良かったね、マイ。あそこって、橋の手前なら10メートルくらいだけど、橋から落ちたら100メートル以上落ちるからね。マイ、生まれてこなかったかもよ」

 「その方が、良かったかもね~」


 この野郎! 柚月、言うに事欠いて、なんてこと言いやがるんだ!

 今度という今度こそ、酷い目に遭わせてやる~。

 このっ! このっ! えいっ!


 「ゴメンなさい~、参ったよぉ~!」


 この程度で許されると思うなよ、柚月、どうだ、これこそがM字開脚ご開帳~だ!

 今度の全校集会の時、ステージ上にこの格好で縛り付けておいてやるからな、覚悟しておけよ!


 あれ? 燈梨、どうしたの? なんか、このネタやると凄く顔色悪くなるけど、気分悪くしちゃった? 大丈夫だって。


 まぁ、とにかく言いたいことは、駆動方式による特性とかをよく知った上で、立て直せるように運転したりしないと痛い目を見るよって事だ。ちなみに爺ちゃんは、スプリンターは、新車で買って納車3ヶ月目での全損だったそうだよ。


 「あちゃ~……」


 柚月め、もう立ち直りやがったか。

 ちなみに、スプリンターはGTっていうグレードで、県内第1号納車だったらしいけど、5号が出る前に華々しく散ったそうだよ。


 「うーん、かなり悲惨だね」


 そうなんだよ、悠梨。

 オプションたくさんつけて、はじめてのパワーウインドー付きだったらしいよ。


 さてと、大いに横道に逸れちゃったけどね、身も蓋もない話をするとさ、きょうびの電子制御デバイスてんこ盛りの車なら、タイヤだけしっかりしてやれば、ほとんど変わりなく走れるし、駆動方式を気にする事もないと思うよ。

 ぶっちゃけ、スリップしても、トラクションコントロールとか、VDC(ビークル・ダイナミクス・コントロール)とかで、制御されるから、ドライバー側は、ハンドル操作とブレーキだけしっかり操作できれば問題ないよね。


 「でも……」


 分かってるよ、みなまで言うな結衣。

 それじゃぁ、私らのように古い車の場合は、どうすれば良いのかって事だよね。


 まずは、しっかりしたタイヤ。

 これは、現代の車に乗るのでも、最低限の条件なんだけど、当然ながら、私らの古い車でも必須だよね。

 そして、繊細なアクセルコントロールね。これができないと、即スピンしちゃうし、FRだと、発進でお尻振ってダサダサだからね。

 それと、それとセットで、正確で、小刻みなハンドル操作だね。雪道や凍結路で、大きな舵角は命取りだよ。カーブは小刻みに少しずつ、大きく回っていくようなイメージでいこうね。


 そして、私らの車の場合は、大きな武器になるのがLSDだね。

 このLSDこそが、FRでも発進やコーナリングでの抜群の安定性を発揮してくれる大きなデバイスなんだよ。当然、これは、他の駆動方式でも同じだけどね。

 正直、しっかり働くLSDと、しっかりした冬タイヤがあれば、FRのスカイラインでも、普通の乗用車で入って行ける場所であれば、全然余裕で入って行けちゃう訳だよ。


 「ところで、マイ先輩。4WDのデメリットって何ですか?」


 なんだい、ななみん。

 いきなり、突拍子もない事を言い出して、4WD乗りの柚月をヤっちゃおうってのかい?


 「なんで、私限定なんだよ~!」


 そうか、ななみんは、柚月に恨みつらみがたくさんあるんだね。

 

 「いや、そういう訳じゃなくて、私も4WDには乗れなさそうだから、先に弱点を知っておいてですね……」


 う~ん、弱点を知るっていう言い方は好きじゃないけど、ななみんが柚月を倒したいっていうんだったら、教えてあげるね。柚月の弱点は向う脛だよ。


 「マイ、主題がおかしくなってるから」

 「マイ~、なんて事、教えてるんだよ~!」


 あれ? 優子、私、なんか間違ったこと教えてた?

 そして、柚月はうるさいなぁ、柚月の弱点なんて、私と優子で、試合の対戦相手に売りまくっちゃったお陰で、ググると一覧表になって出てくるぞ。

 バレてる事を知らないのは柚月本人くらいなもんだよ。


 「くそ~、覚えてろ~!」


 あーあー、忘れちゃったー。


 さて、本題に戻ると、4WDの弱点は重量と、走破力の高さによって起こる遠心力に起因するブレーキの効きの悪さだろうね。

 あとは、基本的に4WDは、走破力も安定性も高いから、破綻すると手がつけられなくなるよ。


 それはね、乾燥路を、グリップ力の高いタイヤで走らせていても同じなんだよね。

 兄貴に聞いたことがあるけど、サーキットとかでは、たまに見られる現象なんだって、高いグリップ力で、高い速度域に達してから、限界を迎えるから、運転してる本人にはコントロールが出来なくなって……って、パターンらしいよ。


 なんか凄く恐ろしそうな表情して、ななみんは心配性だなぁ、そこまで深刻な事じゃないけど、確かに、冬道での練習ってのは必要な事だろうね。

 まぁ、冬になれば、この練習場が一面、そんな感じになるから、存分に練習できるよ。


 そう言われてみれば、水野から、本格的な冬シーズン前に、必須の練習があるとか言われてたような……。


 

──────────────────────────────────────

 ■あとがき■

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『冬前に必須の練習って?』など、少しでも思いましたら

 【♡・☆評価、ブックマーク】頂けましたら大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


 次回は

 舞華が思い出した冬前の練習が始まります。


 お楽しみに。 

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