第103話 ゴムとトランクルーム
悠梨と柚月を押さえつけていると、結衣がやって来た。
「どうだったの?」
結衣に訊かれたが、今段階では分からないので
「一応、上から漏ってるのは分かったけど、それ以外にあるかどうかが、分かってないんだよ」
すると、結衣は、怪訝な表情になって
「中途半端にやるなら、やらないのと変わらないよ? この際だから、白黒ハッキリつけようよ」
と言うので
「私らは、やる気はあるんだけどさ、ここに約1名、チェックを放棄してるやつがいるからさ」
と、私が言うと、結衣は途端に
「コラー! 柚月、お前いい加減にしろよ!」
と言うと、柚月を全速力で追い始めた。
あぁ~、結衣から逃げるの無理だよ。なにせ、結衣は中距離走の全国2位だからね。しかも、スタート時の姿勢にイチャモンがついての2位で、レコードホルダーっていうおまけ付きなんだからさ。
ホラ、柚月は5秒もかからずに捕まった。
「早く入れよー!」
柚月は、結衣と悠梨にトランクの中に担ぎ込まれた。
そして、結衣は蓋を閉めると
「きちんと、原因が突き止められるまで開けないからなー!」
と、厳しい口調で言った。
「開けろ~! 出せ~!」
柚月はドンドンと、トランクの蓋を叩いたが、結衣はガン無視した。
そして、ホースを手にすると、普通の勢いで水をシャワーで噴出した。
「冷たいよ~! 出してよ~」
結衣は無視して無言で水をかけ続けた。
10分が経過した頃、悠梨に指示してトランクを開けさせると
「どこから漏ってた?」
と、無表情で柚月に訊いた。
「そんなこと言われたってさ~、トランクの蓋のところから染み出してたとしか、言いようがないよ~」
柚月が半べそで答えたが、結衣は無視してトランクの各所を調べると
「テールランプも怪しいかもなー」
と、ボソッと言った。
「でも、交換した形跡はないって、悠梨が言ってたよ」
と、私が反論すると、結衣は
「交換はしてなくても、経年劣化って事もあるんだよ。この手の素材は、痩せる事はあっても、太ることはないからね」
と言うと、コーキングのブチルゴムを人差し指でつつーっとなぞった。
「濡れてるような、妙な手触りもあるし、それに、水の滴った痕もあるんだよね」
と言うと
「柚月ーっ! 早くトランクの中で、テールランプから水が漏れてるかを見るんだよ!」
と、怒鳴ると、柚月が
「嫌だー!」
と喚くので
「よし、縛ろう! 悠梨」
と言うと、悠梨がロープを持ってきた。
「柚月、どうする? 自由の身で水漏れを調べるのと、縛られて、水漏れしてるのをただ眺めてるのと」
と、結衣は、確かめるように柚月をいたぶるように語りかけた。
「嫌だ~、縛られるのも、トランクの中に入るのも嫌だ~!」
本気で駄々をこねる口調で柚月が喚くので、私は、結衣を制して
「じゃぁ、柚月、トランクの中に入るのと、パンツ脱ぐの、どっち?」
と、訊くと、柚月はおもむろにスカートの両脇に手を入れて、パンツを下した。薄い緑色で、結構薄い生地の大人っぽい下着だった。
それを見た私は、柚月と結衣の両方を制して言った。
「結衣、柚月はマジだよ。トランクの中のチェックは出来ない!」
「じゃぁ、誰がトランクの中に入るんだよー」
結衣がブーたれるが、
「私と柚月がダメだから、あとの3人からってことになるよね」
と言って気付いたけど、柚月と優子は、同じ理由で、狭いところがダメだったハズ
だ。
確か、小学生の頃、2人でデパートに行って、エレベーターに閉じ込められたことがあったんだった。
それを思い出したので
「あと、優子もダメだ!」
と言うと、結衣は
「じゃぁ、私ら2人のどっちかか?」
と言って、ジャンケンになった。
◇◆◇◆◇
結衣が、何度か目のシャワーテストの際に
「左のテールランプのところから染みてるなー」
と、発見したので、柚月の車の水漏れチェックは、ひとまず完了となった。
これで、柚月の車に関しては、用意するものと、修理する箇所がハッキリしたので、ここからは、私の車の作業と入れ替わった。
トランクの中の部品を見たみんなは、一様に驚いた。
「おお~、マイ~、豪華だな~」
柚月が、感心しながら、目を輝かせていたし、結衣は
「コレを、いっぺんに替えてみたいっていう願望はあるんだけどねー」
と、羨ましそうな表情で見ていた。
2人には、請求明細を見せたが、思ったほどでもなかったみたいで、ちょっとずつやっていこうかな……という反応だった。
まずはウェザーストリップってやつを交換しよう。
これだけは、ドアじゃなくて、窓とボディの合わせ面だからね。古いのを抜いて新しいのをはめ込むだけっていう作業なんだけどね。
古いのを抜くと、銀色のレールみたいなのがあるから、そこに新しいのをはめ込んでいくんだけどさ、これが結構厄介で、このレールの部分に、なかなか新しいのがすんなりと入ってくれなくて、ちょっと悪戦苦闘しちゃったよ。
でも、確かに、古いゴムは痩せてたからすんなりと入ってるんだから、新しいゴムに替えたら上手く入らないのは当たり前なんだよ……きっと。
まぁ、そのために部活の日に作業をぶつけた訳で、みんなと更に1、2年生の協力で、なんとかついたね。
問題の助手席側の密着も、しっかりピッタリで、ゴムのムチムチ感がイイ感じだったよ。
さて、今度は、ドア側のウェザーストリップと、アウトサイドドアモールっていう窓の下側の部分を交換しよう。
まずは窓を全部下げた状態にしてから、毎度おなじみのドアの内張り外し……と。そして、アウトサイドモールに関しては、ドアの裏にネジがあるから、それを外して、一気に上に引き上げる……と、外れてきたよぉ。
外れたところはモールで隠れていたから、物凄い汚れていたので、クリーナーと雑巾で、この機会に綺麗にしておこうっと。物凄く泥汚れで真っ黒だったけど、新車並みに綺麗になったよ。……でもって、新しいのつけたら、また隠れちゃうんだけどね。
ついでだから、ウェザーストリップも一緒に取り外しちゃったよ。
このゴムって、ドアの下の内側をぐるっと1周してるんだね。起点はドアミラーのところで、終点は、反対側へと向かったドアの端で、アウトサイドドアモールの取り付けネジがあった辺りまでなので、ドアの端から端へ……という言い方がピッタリだ。
こっちのウェザーストリップも、単純に抜いて入れ替えるだけなんだよね。
よしっ、古いのを引っこ抜いて……と、おぉっ! 下側のウェザーストリップは、プラスチックのピンでついてる上に、そのピンが左右で色分けされてるよ。とっても親切だね。
取り付けを、昨日ググって調べてみたら、ドアミラーを外した方が、作業が楽だって人が結構いたから、私もそれでいってみようと思うよ。
ドアミラーのある辺りにある、三角形の内装を、マイナスドライバーでこじって外した後、その裏にある3本のボルトを外すと、ドアミラーがあっさり外れるんだけど、今日は完全に外す必要はないから、柚月、ちょっと、ドアミラー持ってて。
どかした後のところに、引っ掛けていくようにして端を取り付けていくと、あとはピンで固定させていって、最後にドアミラーを元通りにして、内装を元に戻せば完了だね。
すべての作業が終了すると、気持ちが良いんだけどね。
いくつか分かった事があって、アウトサイドドアモールを付け替えたおかげで、ドアガラスのビビりや振動が、かなり抑えられたね。
スカイラインのドアガラスは、サッシュレスっていって、窓のガイドレールみたいな枠が無くて、ガラスが剥き出しだからさ、中途半端に窓を開けてドアの開閉とかすると、窓ガラスがガンガン揺れるからあまり今の人には評判が良くない。
でもって、交換後は、全く揺れないなんてことはないんだけど、その揺れ方がほとんど微振動程度なので、ガラスの抑えとしての役割は果たしているな、と素直に思ったよ。
そして、一番驚いたのは、下側のウェザーストリップの交換後は、ドアのしまりがちょっと悪くなって、半ドアになる確率が格段に高まったんだよ。
その上、ドアノブを引いて、ドアを開けた時の感触が、まるで新車みたいな感じなんだよ。
ドアノブを引いた途端
“ボンッッッ!”
と言う音と感触で、まるで新車に乗ってるような気分になっちゃったんだよね。
車内の気密もしっかり守られてる今回の作業は、確かに作業をやったっていう達成感が半端ないんだよ。
うん、ちょっとお金はかかったけど、物凄く満足した感じになっちゃったよ。
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■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
毎回、創作の励みになりますので、今後も、よろしくお願いします。
次回は
遂に舞華のゴム交換も終わり、次回からは、トランクの水漏れ作業に突入します。
お楽しみに。
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