第43話 高原とツインフォグ

 悠梨に誘われて、隣の県にある別荘に1泊2日で行ってきた。

 表向きは、テストお疲れ様会、というものだったけど、本当のところは、シーズン前に、伯父さんの別荘の風通しや、水道の開栓後の慣らしのような用途を兼ねてだよね。

 まぁ、私らにしてみれば、食べ放題、飲み放題で良いって言うんだから、良いけどね。


 私の車と、柚月の車に分乗して、山越えをしたけど、やっぱり、こういうシチュエーションには、この車がピッタリだよね。

 パワーもあるし、それに、山道みたいなところだと、この車って、ちょっと楽しいんだよね。

 テンポよく、無理なく、車が曲がっていってるし、それに、エンジンの音がさ、何となく音楽的なリズムを奏でてて、気持ち良いような感じがするのよ。


 途中で、道の駅で、トイレに寄ったんだけどさ、何がアレなんだか、知らないけどさ、私と柚月の車が一緒なのが、物珍しいらしくて、微妙に人が集まって来てるのが違和感だったよね。


 お昼は、高原のステーキハウスに、予約が取ってあったんだよ。

 悠梨の伯父さん、超凄くない? こんなところ、入ったこと無いよ。ウチなんて、ステーキなんて、ステーキのボンくらいしか、行ったことないよ。

 それも、JAFの会員割引が効くからって理由だからね。


 なんか、凄かったね。

 ステーキ肉って、あんなに、とろけるものなんだね。

 なんか、小学校の時の遠足で行った牧場で食べたお肉も、とろけたけど、ステーキ肉は、部位的にとろけないものだと思ってたよ。

 しかも、『お会計は頂いております』だって、そんなの初めてだよ。お会計って、その場にいなくても、できるもんなんだ。


 ステーキハウスから、15分ほど走って、別荘に到着した。

 まずは窓を開けて風通しだ! やっぱり、ウチらの街より、高度が高いだけあって、空気が澄んでるねぇ~。

 えっ!? ここのお風呂って、温泉が出るの? 超凄いじゃん!


 ねえねえ、ここってサウナもあるの? 温泉でサウナって、もう完全にホテル気分じゃん! え? なに柚月? ホテルじゃなくてスーパー銭湯だって? なに、バカ言っちゃってるのよ~。

 なに? 悠梨ったら、ちょっと来てって? なんかリビングの脇が半地下みたいになってるね。……なに、この個室? カラオケルームだって? マジ~、超楽しみだね。


 窓から見える景色も、山の上のほうだけあって、眺めが良いよね~。

 同じ山の中でも、ウチらの街から見える景色とは、ちょっと違うよね。


 え? 柚月、どうしたの? 折角だから、どこかに遊びに行こうって? 元気だなぁ……って言っても、まだ2時前かぁ、みんなー、どうする? ……行くって。


◇◆◇◆◇


 あぁー、やっぱり、山の中の街っていうと、似た感じになっちゃうのかねぇ……なんか、ウチらの地元と、あんまり変わり映えしなかったね。

 あ、そう言えば、夕飯買いに行かなくちゃ……だね。

 どしたの悠梨? え? 夕飯は、配達に来てくれるって? すでに伯父さんが手配してくれてるって? 凄いね。


 ホントだよ。おばちゃんが、お寿司配達に来てくれたよ。あと、タオルくれた。

 でも、三島商店って言ってたよ。お寿司屋さんじゃないんじゃね? 

 え? この辺一帯の、別荘の人達の胃袋を支えてる、凄いお店なんだって? 息子は、銀座で修行して、街にお店を出してる寿司職人なんだって? ふーん。 


 夕飯のお寿司を食べた後で、悠梨から


 「凄く夜景と星の綺麗な場所があるから、みんなで行かない?」


 と言われて、みんなで夜の山を車で上る事となった。

 ……それにしても、上り坂は別としても、随分真っ暗な道だねぇ……ちょっと、ライトだけだと、心許なくなってきちゃったよ。フォグもつけよう。


 確かに、言うだけあって、物凄く夜景が綺麗だね。その上で、この満天の星空とダブルで楽しめるのが、最高だよねぇ。


 そうだ! 柚月さ、ここまでの道、真っ暗すぎじゃなかった? 遠くを照らすと足元が暗くてさ。

 

 「R32はハイビームにすると、ロービームが消えちゃうからね~。そこがシルビアとは違うんだよね~」


 そうなのか、その代わり、ハイビームは、85Wの強力なビーム球だって?

 そして、ここでも出てくるシルビアか、サンバイザーの時と言い、微妙に羨ましいぞ。

 それでフォグでアシストしてたんだけどさ、柚月のそのフォグの方が、結構明るいんじゃね? 


 「あぁ~、このツインフォグは、残念ながら、見た目以上に、暗いんだよね~」


 そうなの? よし、今ここで2台並べて確かめてみよう。

 いい? ズルしちゃダメだからね! どう、ズルするのかって?


 「せぇ~のぉ~」


 2台並びで点灯させると、確かに私のプロジェクターフォグの方が、明るい気がする。

 柚月の車のフォグの方が、ワイドに照らしてるんだけど、いかんせん光がぼやけてる気がするんだよね。 内側と外側を切り替えても、照らしてる場所が変わるだけで、そんなに変わってるような気がしないんだよね。


 これこそ、バルブを変えれば何とかなるんじゃね? と思うんだけどなぁ。

 柚月、やってみれば? え? その前にスプリング替えたいかぁ……そうか、替えないと足回り付けられないもんなぁ。だけど、優先順位はそっちが先かぁ。


 「ツインフォグなら、マイも持ってるじゃん。試してみたら~?」


 え!? 私? 持ってないよ。

 なに? この間、納屋に入った時に、タイプMの外装部品が置いてある棚の中に、ライトやテールランプに混じって置いてあるのを見たし、大体、スイッチだけはついてるって?

 え? この妙なIとIIに切り替えるスイッチが、ツインフォグのだって? 


 「恐らく、スイッチが残ってるってことは、暗いからって、マイのお兄さんが、外しちゃったんじゃね?」


 と、結衣が言った。

 ツインフォグは、見た目はカッコいいのだが、新車時にセットオプションで、20万近くしたから、装着率が低く、しかも、見た目要素が強くて、暗く、更にはフロントを重くするから、走り志向の人からは、敬遠されたって?


 「ただ、今はHIDとか、LEDがあるから、それを使えば良くなると思うけど」


 結衣さ、そう簡単に言うけど、ライトのバルブすらHIDやLEDにできないのに、そっちに回す予算なんてないよぉ、え? 勿体ないって? だったら、結衣が使えば良いじゃん。


 「私の、エアロバンパーじゃないから無理。更に言えば、GTオートスポイラーと、ツインフォグは、両立が不可なの!」


 このフォグって、バンパーとのセットオプションなんだ。

 確かに、結衣のやつと、私らと、バンパーの形が違う。そうか、この口が大きいバンパーは、オプション品なのか。


 でも、フォグのバルブを変えるってのは、アリかもしれないね。

 この間のライトのバルブみたいな要領で、交換すればいいんだろうからね。まぁ、その時は、どうせこの車だからH3Cとかいうバルブだろうから、今度こそカー用品店で探さなきゃ……なのかな。


 まぁ、今度かな……って優子、どうしたの?


 「マイのR32、片側、フォグ点いてないよ!」


 またまたぁ、さっきは、両側点いてたよ。え? 疑うなら見てみろって? 

 あぁっ! ホントだ! 点いてない! 故障したのかな?

 どうしたの柚月? いきなり、ちょっと退いてって、あっ!消えてるフォグを叩き始めた。


 「ランプ類が唐突に消えた時は、接触不良ってこともあるから、まずは叩いてみる……んだけど、点かないから、球切れだね~」


 そんなぁ、結局、電球買わなきゃならなくなったじゃん! もぉ~、マジでヤなんだけど!

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