第24話 配線と端子と

 結衣が戻ってくると、袋を渡された。

 中にはいくつかのものが入っており、まずはエレクトロタップを使って、キーレスエントリー本体の線を幾つか合流させた。


 まずは、2つの線をエレクトロタップで挟んでから、ペンチでエレクトロタップを掴むように挟んでやると、カチッという感触がして完了となる。

 結衣も優子も言ってるが、あくまで、今回は安物キーレスの配線だから使うのであって、間違っても、車本体の配線を枝分けする目的では使ってはダメだと、念を押された。

 なんでも、これを使うと、断線のリスクが高くなり、車本体の配線を断線させると、突然の不動や、火災などのトラブルに発展してしまうそうだ。


 それから、説明書を見て、不要と書かれている線は切断して、先端にビニールテープを巻く作業をやった。

 そもそも、不要な線を何故作るんだろう? 不思議だ。


 次に結衣から、配線を作るように言われて、分からなかったので教わる事になった。

 袋の中に入っている電工ペンチという工具を使って、残った線の先端の被覆を剝くように言われて、その要領通りにやった。

 電工ペンチの真ん中あたりに、いくつかのサイズの配線の大きさの穴が開いており、そこに配線を挟み込んで、ペンチを引き抜くと、被覆が剥けてるよ……便利だね。


 次にギボシ端子をつけるように言われた。

 さっき被覆を剥いた配線に、透明のスリーブを被せてから、剥いた被覆の先端の銅線を、捩ってから曲げておくそうだ。曲げておく理由は、引っ張った時に抜けないためか。

 次に端子を、被覆と銅線の境目に被せて、2つある爪を、電工ペンチの先端にある窪みに入れて、ギュッと潰してやる。

 コツは、後端にある被覆側を先にギュッとしておくことによって、抜け落ちるリスクを減らすんだって。

 それから、端子にスリーブを被せる。こんなものに意味あるの? って言ったら、端子が剥き出しだと、金属に接触したら速攻でショートして壊れるよって言われちゃったよ。なるほどなるほど。


 次に端子を作った配線中の2本を、ドアの中に引き込むという作業だ。

 ドアの内張りは、もう何回もやってるから慣れちゃったよ。ということで、ササッと外しちゃった。

 そこで、ドアを全開にして、結衣がカッターと、なんか千枚通し的なものを持って、ドアを開けた奥側にある、ゴムの丸い蓋を外して、そこにさっきの配線2本を通すんだけど、先に千枚通しで穴広げてるよ。あ、頭が出てきた。


 「マイ、引っ張って!」


 えっ!? この線を思い切り引っ張ればいいの? とにかく、えいっ、えいっ! 

 で、結衣は、さっきのゴムの蓋を元に戻してる。そして、今度は、ドアについてる同じゴムの蓋を外して、千枚通しで入れてる……ってか、この配線の先端がテープで針金にぐるぐる巻きに縛り付けてある。


 えっ!? 配線を通す時は、針金に先端を固定して通した方が、通りやすいって? しかも、ビニールテープなんかで、ぐるぐる巻きにして、先端を尖らせるようにするのがポイントなんだって? へぇ~。

 ちなみに針金買うのが勿体無いって思うなら、ワイパーのゴムを交換した時に、芯に入ってる針金を抜けば良いって? そうすればタダだし、アレって案外使い良いって? なるほどねぇ~。


 配線をドアの中を通していって、優子が持っているガンモーターのところまで引っ張る……と。

 ドアの中で、ドアロックを作動させている、ロッドという細い棒を、ガンモーターで、引っ張ったり、押したりすることによって、ドアロックを開けたり閉めたりしてるんだね。


 その、ロッドを上手く押したり引いたりできる位置で、尚且つ、内装をつけた時に干渉しない位置を、2人が真剣に打ち合わせて決めている最中に、私は内装を持って立っていただけなんですけど。

 いや、結衣と優子が、『場所決めするから、マイは、内張りもってスタンバイね』って言うから、呼ばれるたびに内装を当てがって、大変だったんだからね。


 その甲斐あって、場所も決まって、優子が手で仮固定してるよ。そこに結衣が、何かゴツイ工具持って来てる。ナニそれ?

 “ギュイイイイイイイイン”

 えっ!? もしかして、それドリル? って、あっという間に穴が開いちゃったんですけど……。

 優子が素早く、何か穴の開いたところに塗り込んでるよ。えー、なになに……『サビ止めペイント』だって。


 結衣が、私の手を引っ張って


 「ボサッとしてないで、ペイントが乾くまでの間で、電源接続するよ!」


 って言って、また運転席の足元のところへと戻ってきたよ。

 さっき作った配線で、残ったのは電源と、もう1つ、配線の先端を、スパナみたいな、先割れの端子に作った配線のみだ。

 先割れ端子は、アース端子だから、車のボディに触れてる面のボルトやネジに共締めするんだって。結衣が見つけた手頃なネジを緩めて挟み、締め込んだ。


 次にヒューズボックス、ヒューズボックスは知ってるよ、この間、水温計をつけるのに開けたからね。

 そこに、結衣が買ってきた、ヒューズ型になった電源取り出し端子を繋ぐらしい。


 ヒューズボックスの蓋の裏に、どのヒューズが、どの役割かという配置図と、それが、キーをACCにしないと作動しないものか、キーがオフでも電源が供給されている、常時供給電源かが書かれているから、常時供給電源のヒューズを抜いて差し替えるように言われた。

 常時供給でないと、キーを抜いている状態では、キーレスにならないという、一番意味のない状態になっちゃうからね。

 ただ、常時供給のヒューズとは言っても、時計とか、ルームランプのを抜くのがポイントだって……ストップランプとかと交換して、万一ショートさせちゃうと、危ないからね。走行に影響のないところのと替える……と。


 そのルームランプのヒューズから取った電源に、さっきのキーレスの電源を挿しこむ……と。

 ちなみに、今日、私が作った、先端の尖ったギボシ端子は、オス端子と言い、このヒューズ型になってる配線についてる、筒型になったギボシ端子を、メス端子と言うそうだ。

 メス端子は、全体がスリーブで覆われていて、オス端子は、先端が剥き出しになっているため、車体の電源側には、メス端子を使い、後から付ける電子機器側は、基本的にオス端子を使うのが鉄則だそうだ。

 これも接触によるショートで、車側に異常が出ないようにするための知恵だそうだ。


 配線を繋ぎ終わり、ペイントが乾いたところで、ガンモーターを固定させて、配線した。さっき穴を開けた部分にはネジが挿しこまれて、ガンモーターを固定していた。

 

 「マイ、まずはこれで、ロックにしてみて」


 優子に言われて、私はリモコンのロックスイッチを押した。

 すると

 “カシャッ”

 と音がすると同時に、ロッドが動いて、ドアロックのノブが、ロック側に動いた。今度はアンロック側を押すと、同じような音がして、ドアロックが解除された。


 私は、ついに念願だった、キーレスエントリーがついた喜びで、感動に打ち震えていると、優子から


 「マイ、さっさと内張りつけてから、もう1回作動確認するよ」


 と言われて、冷たい現実へと返った。


 「内張りつけてから、内張りと引っかかって、動かなくなるケースって、よくあるからね。最終作動確認しないと」

 

 と言われ、私は内張りをさっとつけると、最終動作確認もしてみた。結果は、問題なしで、これで私の念願の快適な車が、誕生したのだった。


 自分の作業もひと段落したので、2年生に合流して、ディスカッションにも参加したが、やはりあのプレミオには直接的な練習車としての使い道はないが、文化祭の時に、色や外装をやり直し、カッコ良くして展示するという方法ならアリなのではないかと、まとまった。


 そして、私も全員に発表をした。

 R32は、練習車及び、故障が絶えないと思われるので、整備の実習車としての今後を予定していること。

 当面練習車としては、R32とエッセしかないが、エッセは競技本番での役目もあるため、追加の部車も検討中ということ。

 人数が増え、車も、練習場所も不足していることを、学校側に伝えて折衝中で、5人で1台の練習車と、練習場所の確保を目途に頑張っているということを説明し、明日以降の活動に関してのチェックをして、今日の部はお開きとなった。


 帰り道で、念願の音楽を聞きながら、その時の私は思っていた。


 「もう、この車は完成した」


 と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る