第11話 最初の関門
今日は週末、通学時に、部車になったR32の中にあったUSBポート付きソケットを試してみたら、ちゃんと動いて、車の中でスマホに充電できるようになった。凄くない? この車でスマホが充電できるなんて。
それで、よーく洗って乾かした室内灯のカバーも、今朝つけてみたら、透明になって、よく透けて見えるようになったんだよね。
そうなると、確かに室内灯が明るくなったんだけどさ、透明度が上がると、今度はトイレの電球みたいな色のランプが気になるね。この間のホームセンターでは、1500円くらいだったから、今度はLED化かな~って、欲が出てきちゃった。
USBポート付きソケットで1500円くらい浮いたのと、この間の買い物でエアクリ買った分は、お母さんが出してくれたから、買えない事もないかな? 明日あたりホームセンターに行ってみようかなぁ……って、なんで私はこんなボロい車に色々考えてニヤニヤしてんだろ。……いけない、いつもの私らしくないぞ!
放課後になって、この後どうしようかについて、考えてみた。今日も一応部にも顔を出さないと、柚月あたりに捕まりそうな気がするので、一応顔を出すことにした。
今日は優子も部に行くと言っていたので、安心できるからだ。
柚月は、優子がいるとあまりおチャラけた話し方や、悪ノリをしない。
子供の頃、優子を悪ふざけで驚かせて、自宅の庭の池に落としてしまい、柚月のお父さんからメチャクチャ怒られた出来事が、インプットされているからだ。
カビ臭かった部室も最近は風通しを良くして、芳香剤を置いたりしているので、すっかり過ごしやすくなっている。
そう言えば、水野は出張だから、今日は監督に来れないって言ってたなぁ……と思ってドアを開けると、柚月が、昨日の縄跳びの縄で、パイプ椅子にぐるぐる巻きに縛り付けられていた。
「マイ! 助けてーな! 」
柚月は私に訴えかけた。
その向かいには、結衣が腕を組んで仁王立ちしていた。
「結衣、どうしたの? 」
「このクズさ、説明もしないで『ここにチャチャっと名前書いて』とか言って、入部届にサインさせた挙句、部室の場所とか教えないし、昨日は悠梨と組んでマイをイジメたらしいじゃん! だから、お仕置き」
私たちのグループは、柚月と悠梨がムードを盛り上げるのだが、悪ノリしすぎるので、そこを押さえるのが結衣の役目なのだ。
目の上のたん瘤の結衣を、利用するだけ利用して、部から排除した上、昨日の私の下着を覗いた件を知った結衣が激怒したんだろう。
「むー! むー! 」
部屋の奥には同じくパイプ椅子に縛り付けられて、口にガムテープを貼られた悠梨が、足をジタバタさせながら私に向かって叫んでいる。
その片方の足は靴下まで脱がされていることから、悠梨は1人で来たところを、つけてきた結衣に捕まって縛られ、くすぐりの刑で、昨日の一件を吐かされたんだろうね。
可哀想に、ガムテープにマジックで『反省中 エサを与えないで! 」って書かれてるよ……って、よく考えたら自業自得だよ。いい気味。
なので、私は悠梨の前に立つと、ドヤ顔で見下ろしながら言った。
「あらあら~、よく見たら、悠梨さんじゃ、あ~りませんかぁ? エサを与えちゃダメみたいだから、今日はゆっくり、そこで見学あそばせたらいいんじゃなくてぇ」
「うう~! 」
まぁ、悠梨はしばらく反省させておくとして、せっかくみんなが集まったのなら活動もしたいな……でも、柚月まで悠梨と同じ目に遭わせると、役立たずのダルマが2体あるだけで、活動にならない。
考えた末
「結衣、悔しいけど、コイツがいないと活動にならないから、今日のところはコイツは放してあげて」
と言うと、結衣は一瞬、残念そうな表情を浮かべたが
「そうなの? じゃあ仕方ないね。いい!? マイが言うから今日は特別にここまでにしておくけど、調子に乗るんじゃないよ!! 」
と言って柚月を椅子から解いた。
柚月は私に抱きつくと
「マイ~! ありがと~! 」
と頬ずりしてきたが、私は、部長の威厳を保つべく、そこにツッコミを入れて言った。
「勘違いしない! 活動のために仮釈放してるだけ! さっさと昨日の活動の続き! まずは鍵を作るのに必要な作業から始めるよ! 」
私たち3人は外に出ると、部車置き場へとやって来た。
「ホントは、窓から出入りできると良いのにね~」
私は、本音を言った。
部車置き場は、準備室の窓のすぐ傍なのだが、準備室の窓から地面までの高さが2メートルくらいあるために、第2体育館を大回りしなければならないのだ。
「ウチに、使わない脚立があるから、持ってくる? 」
結衣が言った。
それはナイスだ。脚立があれば安全に出入りが出来るし、使い終わったら部室の中にしまっておけばいい。
「そうしようよ! 」
私が言うと、結衣は言った。
「でも、マイが取りに来てね。バイクじゃ運べないから」
そして、考えた。
このスカイラインに脚立が載るだろうか……ということを。
考えながら部車のR32の鍵を開ける。……やっぱり回り辛い、このままだといつか鍵が折れそうだ。
“キュルルルルル……ヴオオオオオ”
エンジンをかけて、そろ~りそろ~りと動かす……そしてサイドブレーキで止める。
柚月がジェスチャーで、窓を全開にしろ……みたいなことを言っているので、窓のスイッチを動かす。
初日から思ってるんだけど、この車の窓のスイッチって、今の車のと違ってて戸惑うんだけど……。だってさ、スイッチの形が前後に動かすようになっていて、使い辛いし、オートも今のスイッチと全然やり方が違うんだもん。
運転席はオートで、助手席はスイッチを入れっぱで……と
“キュオオオオオオオオ~”
窓から変な音がしてるよ、ナニコレ?
ホラ、結衣が凄く嫌そうな顔して見てるよ。そうだよ、こんなボロい車なんだもん。車ってさ、もっとスムーズに動くもんだよね。
……あれ、結衣がこっちに来た。
「このくらいボロくないと、面白くないわよね」
え!? 意味分からない。
ボロい方が面白いって? 何?
エンジンを切って車から降りると、柚月と結衣が、運転席ドアの、ドアポケットにドライバーを突っ込み始めた。
えっ!? 2人で何してるの?
結衣のドライバーはマイナスだね。って、柚月はそのままに、結衣はドアノブの上側にマイナスドライバーを突っ込んだよ。
“バキッ”
あぁ~……ドアノブの後ろにあるカバーが外れちゃったよ……。
その間に、柚月はドアのポケット外しちゃったよ……って、あれってネジで留まってたんだ。
結衣のドライバーがいつの間にかプラスになってる。
2人でドアの内張りの端っこの方を探って、次々とネジを外していく……へぇ~、あんな見えにくい所にネジを隠してるんだね。
「せーの! 」
2人で掛け声掛けてどうするんだろう……って、引っ張ったら、内張りがバリっと外れちゃったよぉ。……内張りだけにバリっとね?
でも、なんか外れないよ。太い線が繋がっていて。あぁ、窓のスイッチとかドアミラーのスイッチの線ね。根元の白い部分のボタンを押して引っ張ると、外れるのかぁ。
ドアの内張りが外れると、凄いね、ドアの中ってあんな穴だらけなんだね。左下にごっついスピーカーがあるね。ラジオの音はあそこから出てるのか……って、柚月、外しちゃうの?
あぁ、そうか、ラジオ無いからスピーカーもいらないもんね。
「マイ、いる? このスピーカーも、買うと地味に1万くらいするよぉ~。コレ、新しいし」
へぇ~、ずっしり重いね。これで音を出してるのかぁ。
えっ!? 昔の日産のフロントは形が特殊で、もうほとんど売ってない? そして、そのスピーカーは高級ブランド品?
そうなんだ。じゃぁ、貰っておこうっと、だったら、助手席側は自分で外しておけって?
じゃぁ、さっきの要領に従って助手席側の内張りを外してみよう。
ドアポケットのネジは、蓋してあるのね。だから、マイナスドライバーなのか。これで外して、プラスドライバーでネジを外す。
で、マイナスドライバーでドアノブの上側をえいっと!
“バキッ”
おお~……外れた外れた。
今度はネジを探して……って、よし全部外れたぞ。
せぇ~のぉ~
「ちょっと待った! 」
え!? 見ると、結衣がスマホを見ながら言った。
「助手席は、パワーウインドーのスイッチを外した後ろにもネジがあるの」
スイッチは、マイナスドライバーで外せって? どれどれ……ってホントだ。あんなところにもネジが。ふぅ、これで外れたよ。
よし、今度こそ、せぇ~のぉ~
“バリッ……バリッバリッ”
外れた……って、内装って、ネジの他にピンでも留まってるんだね。
そして、内装を少し持ち上げるようにしてから、前に引くとあっさり外れた。
同じように窓のスイッチの線を引き抜くと、スピーカーを、白い色の取り付け台と一緒に外した。
後ろに線が付いているが、それも、右のスピーカーと同じように引き抜く。
この取り付け台、面白いねぇ。
スピーカーを真っ直ぐじゃなくて、乗ってる人の耳がある方向に向けるようにして作ってあるよ……よく考えられてるね。
よし、今度は逆の要領で取付だ。
取り付ける時は、窓のスイッチの線を繋ぎ忘れないように……それから、ピンの位置を合わせてから叩かないとピンが折れちゃうから……と、ついたぞ!
運転席の2人に合流した。
外側の運転席のドアノブが、めくれあがっていて、鍵穴が無くなっていた。見ると柚月と結衣が抜けた鍵穴をスマホで撮っていた。
へぇ~、これが鍵穴の全貌なんだ。なんかイメージしてたのと違う見た目のしょっぱさだね。
LINEが来た。2人からだ。
この画像をディーラーに見せて、この番号の鍵を作ってくださいって言ってこいかぁ……そうか、明日ディーラーに行くんだった。
今度は運転席側を元に戻す……って、柚月が鍵穴戻してるけど、凄いね。何か遠くから見ると、ドアに手が吸い込まれてるみたいだよ。
なるほど、この沢山空いてる穴は、整備するために空いてるんだね。必要な穴なんだね。
ドアノブって、こうやってついてるんだね。ナットで留まってるから、交換できるようになってるんだぁ。そして、ノブを交換しても、鍵はそのまま使用できるように、鍵穴とは別体になってるんだね。よく考えられてるね。
鍵の作業と、ついでにスピーカー貰っちゃったよ……えっ!? 部長の役職手当兼、ディーラーにお遣いに行くお駄賃だって? ……そこまで言うなら、貰ってあげようかな。
作業に充実感を覚えて部室に戻ると、椅子と一体化した悠梨ダルマと、所在なさそうに隅の椅子に座る優子の姿があった。
「もしかして、今日の活動終わり? 」
「むううー! ううー!! 」
2人の若干の非難に満ちた視線に、私たち3人は、目線を逸らしながら
「そ……そんなこと、無いよ」
と言いつつ、次の作業のネタを考えていた。
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■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
毎回、創作の励みになっております。今後も、よろしくお願いします。
次回は
遂に、舞華があの場所の洗礼を受けることに……。
お楽しみに。
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