第9話 ホームセンター
柚月と車に乗り込むと、買ってきた中からカップホルダーを取り付けてみた。
一応、紙パックのイチゴ牛乳とかも飲むかな~と思ってそれに対応する折り畳み式のやつにしてみた。
案外すんなりついたのには驚いたが、スポーツドリンクを載せてみても落ちる気配はなかったので、安心した。
後ろの席に荷物を載せようとして、気付いたことがある。
「柚月、この車、後ろの席の真ん中にもシートベルト、ついてるよ」
「えっ!? 」
柚月は後ろの席へと身体を乗り出して色々と
「どうしたの? 」
「え? あぁ、昔ね、知ってる人のR32が4人乗りだったから、てっきりR32の2ドアは4人乗りかと思っちゃってた~」
と言うと、次の瞬間にはいつもの柚月に戻っていて
「次、行ってみよ~」
と次の目的地へと向かわされた。
やって来たのはホームセンターだった。
ここって、文化祭の出し物とか、軽音楽部のライブ準備でよく買い出しに来た所だ……って、この辺じゃあともう1軒くらいしかないしね。
柚月は、駐車場に入ると言った。
「マイ、ウォッシャー液出して、ワイパーを前後とも動かしてみよっかぁ~」
ワイパーのスイッチって、この車のは結構変わったやつだねぇ。メーターの枠にくっついてるよ。脇にあるボタンがウォッシャーだから、押してからワイパースイッチオン……そして後ろは、円筒型のスイッチの脇がくり抜かれてレバーになってる。
こちらは一番下に下げるとウォッシャーか……。
「うん、ゴムは大丈夫そうだねぇ」
柚月は言ったが、このゴムがダメになるとどうなるんだろう?
次に柚月は、ボンネットとトランクを開けるように言ったので、開けてみる。
柚月はボンネットを開ける……やっぱり、この車の前は長いね。そして、ボンネットを止める棒は、ここに掛けるのか。
「バッテリーは、新品みたいだね~」
と、運転席側の一番手前にある箱状の物を見て言った。
これが車のバッテリーなんだ。スマホのと違ってゴツイなぁ……へぇ、この覗き窓みたいなのの色が真っ白になると、もうダメって事なんだ。
その隣にあるタンクの蓋を開けて見てるよ。
なになに!? クーラント? 冷却水の事ね。なるほど、脇から見ると線が引いてあるから、減り過ぎてたらダメって事だね。
それにしてもいい色合いの緑色の液で、メロンソーダみたいで美味しそうに見えるね。えっ!? 飲んじゃダメだって? 分かってるよそのくらい。
猫に与え続けると死ぬって? ナニその不要なマメ知識。
助手席側の手前の端にあるタンクの蓋を開けて見てるけど、何?
えっ!? ここがウォッシャー液だって?
前に何を入れたのか分からなかったり、ウォッシャー液の種類を変えたりする時は、使い切って空にしてから入れ替える事ね。
真ん中のはエンジン? さすがに私でも、それくらいは分かるよ、一応。
オイルを入れる時は、ここからって左下の方にある蓋を開けちゃったよ。
中を覗いてるよ。……これがカムシャフト? 一体なんだそりゃ!?
オイルは奇麗そうだね……って、茶色い液体にしか見えないけどな。
それにしても、エンジンの上になにかプレートがついてるよ。
「NISSAN TWIN CAM 24VALVE」
だって、なになに!? 1気筒に4バルブで、6気筒だから24バルブ……ふーん、なるほどね。よく分からないけど……。
ところで柚月、エンジンの真正面に書いてある
「RB20」
って何?
それがエンジンの名前? 2000ccだから20なんだって? 他にもあるってことかな?
ボンネットを閉めて、今度はトランクの中を見た。
空っぽだよ……って、それが問題なんだって? え? なにが?
カーペットをめくって、下になんか板があるのをどかしてるよ……って、ここにタイヤが。……あぁ、スペアタイヤね。ここにあるんだ。
取り敢えず水漏れはなさそうだって言ってたけど、なんで分かるんだろ? あぁ、カーペットが湿ってたり、スペアタイヤが入ってる所に水の跡が無かったからかぁ。
パンクしたらどうやって対処するかって? 今のところにスペアがあるから交換して……って、どうやって交換するのかを訊いてるんだって?……ええっと……。
左脇の壁に取っ手みたいのがついてる。
ここを開けるとジャッキと、応急工具袋があるから、まずはジャッキを手で回して外して、応急工具入れの中にあるレンチで、ホイールナットを緩める。
えっ!? 緩める順番を答えろって? 頂点から時計回りに順番に……。
「マイのバカー!! 」
って思い切りツッコむなって、
えっ!? この車はホイールナットが5つだから、星を描く要領で対角線上に順番に緩めるって?
取り付ける時は逆の要領で……ね。
ジャッキは、ナットを緩めるハンドルと、もう1本の細い棒を組み合わせると、ジャッキのハンドルにもなるのかぁ。よく考えられてるね。
よし、ようやくチェックは終了か……って、マイがバカだから時間がかかったんだよ? 今日の柚月は容赦ないなぁ……。
ホームセンターのカー用品売り場まで連れて来られたが、さっきのカー用品店の方が、品揃えが豊富なのになんで? と思うのだが……。
でも、その分、値段は安くない? 洗車用具のスポンジとかさ、100円からあるじゃん! 分かったぞ、カー用品店でないと手に入らないものはあっちで、ここでも買える物は、値段重視でこっちでって事でしょ?
「そう、私ら高校生だし、お金ないじゃん? だから、安く買おうと思ったら、足使って稼ぐしかないんだよね」
なるほど、洗車用具は安いな。ワックスインシャンプーとスポンジ買っても700円しないし、あれ!? USBポート変換つきの電源ソケットかぁ、これがあると、100均のケーブルとかでスマホの充電できるの?
いい値段するなぁ……エアクリのフィルターを今日買わなくてもよかった気がしてきたよ。
え!? こっちがクーラントとか、バッテリーとか、オイルとかが売ってるエリアだって?
本当は、三角表示器と、バッテリーのブースターケーブルは、買っておきたいところだけどって? 予算オーバー過ぎるよぉ。
オイルも、自分で交換した方が安くあがるよ? うーん、オイルなんてそんな簡単に交換できるの? え!? 慣れれば案外簡単だって? 今度やってみようよ。かぁ……次の交換時期にね。
確かにオイルの値段は、カー用品店よりビックリするほど安いもんね。ここは値段重視で、身体動かすしかないのかぁ。車ってお金かかるね。
室内灯をLED化だって。
そう言えば、柚月のバイクって、ライトLEDにしてたもんね。結構変わるものなの?
やってみたいけど、予算の問題で先送りだな。
すると、柚月が言った。
「だったら、取り敢えず、室内灯の透明なカバー外して、ぬるま湯の石鹸水に1晩つけおきするの。そして、古い歯ブラシでカバーを磨いてあげると、少し明るくなるよ~」
へぇ~、それなら今日帰ってからタダで出来るな。よし、やってみよう。
そろそろ帰ろうかっ……て、エアコン吹出口に付ける芳香剤が売ってる。今、兄貴が使ってた妙な芳香剤の臭いがして嫌なんだよね。
常に窓と天窓開けるようにはしてるんだけど、それでも抜けきらなくて。手っ取り早く、自分の好みの匂いで上書きしちゃうってのもアリかなぁと。
見本があるものは試して、そうでないものは名前で判断だ。……でも、『フォレストの香り』って言われても意味分からん。
ようやく決まったぞ。やっぱり香りは、常に車の中に漂うからさ、重要なポイントでしょ。
帰りながら柚月に訊いてみた。
「なんでこういう所、知ってるの? 」
「えー? 私はさ、バイクを弄ってたからさ~、自然とあちこち探し歩いたんだよね~。だけどさ、マイは、今日楽しくなかった? 」
そう言われて思ってみると、今日のこの感覚は、みんなで服を見に行っている時のような、ちょっとしたワクワク感が感じられていることに気がついた。
「うん……まぁ、ね」
私が歯切れ悪く言うと、柚月はわざと大袈裟に
「良かったぁ~、じゃぁ、また行こうねぇ~。どうせ、マイは今日買いきれなかったものもあるしね~」
と言うと、私の手を握ってきた。
いつものコイツなら、抱きついてきかねないが、さすがにこちらが運転中だという空気を読んだようだ。
そして、柚月の家に到着すると
「ちょっと待ってね~」
と言って、自分のバイクの脇についている工具箱を開けると、何やら黄色い棒を持ってくると、おもむろに室内灯の隙間に突っ込んで、ぐいっとこじると、透明カバーがパカっと外れた。
「いきなりやり方分からずに外すと、割っちゃうからさ~。外しといたよ」
と言うとニコッとして、透明カバーを私に渡してくれた。
「ありがと」
「じゃぁねぇ~明日、学校でねぇ~」
「うん、じゃぁね」
私は、帰り道で思った。
今日の柚月って、凄く活き活きしてたよな……と。
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■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
毎回、創作の励みになっております。今後も、よろしくお願いします。
次回は
部員も増えて、部に昇格した自動車部に、新たな部車がやってきます。
お楽しみに。
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