第6話 活動は格闘だ!

 窓の外を見ると、そこには2台の車があった。

 1台は濃い紫のミニバン。大きさ的に軽だろう。

 ダイハツのマークがあってタントじゃないからムーヴかな?

 もう1台はシルバーのセダンで、トヨタのマークが付いているが、車種不明。……っていうか、こんなオヤジ臭いセダンの名前を覚えたい、とも思わない。


 「どう思う? 」


 水野に訊かれたが、私にとっては、正直何も感じない。別に、学校から提供を受けて良かったんじゃん、という感想しかない。 


 「良かったですね。学校から2台も提供受けて」


 と言うと、水野はいつかの如くボディランゲージを交えて言った。


 「ちがーう! こんな車じゃ、あっても何の役にも立たない。君は、ムーヴで出場できる競技があると思うか? プレミオに乗って何をしろと? 」

 「ええっと、眺めの良い場所までドライブを……」

 「君は正気か? そんなお遊び要素の強い活動の部を、学校が容認するとでも? それに、よく見るんだ。その2台にはナンバーが付いてない」


 水野は、はぁはぁ、と息を切らせて力説しているが、脇で柚月が下を向いて震えながら笑っている。

 水野は悲しそうな目で遠くを見ながら言った。


 「ていのいいゴミ捨て場にされてしまったようだ。プレミオは、部の設立時に、校長が寄越した。買い替えるタイミングだったから……と、設立条件代わりに。そして、ムーヴは、勝手に置いていかれた。ある朝、キーが刺さったまま置かれていて、運転席に『大切に使ってやってください』と置手紙がされていた」


 私は、訊いていて、水野に、ほんのちょっぴりだけ同情すると共に、学校内におけるこの部の立ち位置が如実に分かってしまった。


 ハッキリ言って厄介者って事じゃね? 校長も、いらない車押し付けるわ、挙句、誰だか分からないけど、ちょっと前に流れてたCMみたいなことしやがって、『大切に使ってやってください』なんて、優しそうに聞こえても、それは犯罪者のセリフだぞ!


 水野は、こちらを振り返ると言った。


 「なので、私は既にあきらめの境地にいる訳だ。そうなれば、したいことをして、悔いなく廃部にする。それしかあるまい。なので、私の車及び、目ぼしい生徒の車をメンテし、いじり、設備を使いまくろうと思ったわけだ。その第1号に選ばれたのが、他ならぬ猿轡のR32だ」


 遂に『渡』の繋がりもなくなって、名前の間違いが適当だな。

 私は、人を喋れなくさせる道具か? 

 もう、ツッコむ気すら失せて、そこをスルーしながら訊いた。


 「なんで、そのR32? の部品を持ってたんですか? 」

 「なに、私も乗っていてね。4ドアセダンの方だが、予備の部品は持っているのだよ」

 「えっ!? でも、この間は軽自動車に」

 「ああ、あのカプチーノは、通勤用だ。小回りも効いて燃料も喰わない」


 へぇー、水野も乗ってるのか、だからあんなに詳しかったのね。

 しかも、通勤用の軽の名前がカプチーノって、何その名前? 微妙に美味しそうなんですけど……。


 「だから、これからも相互助力でいけると思うぞ。私は、R32歴も長いから、一通りのトラブルは経験済みだ。入会の件は別としても、これからも顔を出してくれると有り難い」


 すると、私の脇で笑っているだけしかしていなかった柚月が、顔を上げて言った。


 「だったらぁ、マイは部活入ってないから入れちゃえばどうですかぁ? ねぇ、マイも困らないでしょ」

 「えっ!? 」


 私と水野が同時に驚いた。


 「いいのか!? 」

 「ダメです! 」


 水野が言い終わるのと同時に私は言った。

 確かに、私は部活には入っていない。去年まで入っていた軽音楽部は、人間関係のいざこざから分裂し、強制廃部となってしまったためだ。


 しかし、私1人が入ることが、この会のためになるのかというと、何もないと思うのだ。


 「先生、3年生の私が1人、入部してもこの会が存続できないじゃないですか? それじゃ、意味ないでしょ」


 私が諭すように言うと、水野は嬉しそうに


 「構わんよ。私は君と活動できればいいとさえ、今は思ってるんだ。何だったら、名前も『R32愛好会』にしても構わんぞ」


 と言って、創部の申請書を取り出してきた。

 

 「ダメだというのが分かりませんか? 先生も、もっと建設的に先の事を考えましょうよ」


 とは言ったものの、この部の先行きが真っ暗であることには何の変わりもないのだ。

 まずにして、高校生で自動車に関する活動なんて早すぎると、みんな思っている。まだ、工業高校とかなら、高校で自動車部というのもあるんだけど、普通科で、しかも進学校に一応、ランクされているウチの学校では、興味を持って入部しそうな生徒が確保できない。


 ならば、手っ取り早く大会に出場し、上位入賞するとかなれば、学校も放っておけないだろうし、入部を目標に入学してくる層も期待できるのだが、部員はゼロで、部車は冴えないセダンと、捨てて行かれたムーヴでは、どうにもできないらしい。


 ……となると、もう水野の言う通りか? 若しくは『エア風呂部』とかにして、ストリートパフォーマー養成の活動にするか? と、他人の活動なのに心配になって色々考えていた。


 しかし、あの下級生男子の喰いつき方からみて、そのR32? の破壊力は大したものだと思うのだ。


 そう考えていると、さっきからスマホを見ていた柚月が、突然言った。


 「じゃぁ~、マイと私と、結衣、それから悠梨と優子で3年生が5人、それから拳闘部と、空手部から2年生7人ずつ、柔道部と剣道部から2年3人ずつ。それと、キックボクシング同好会と、少林寺同好会から2年の掛け持ち3人ずつ確保だからぁ~、取り敢えず部として活動できるでしょ~」

 「ええっ!? 柚月、何言ってんの? 」


 柚月は、格闘家の娘で、且つ各格闘技に精通しているため、この学校の格闘系の部とサークルの名誉部長をしているし、例外的に部同士の掛け持ちも許されている立場なのだ。

 すると、柚月はいちごポッキーを鞄の中から出すと、食べながら言った。


 「あのさ~、マイは知らないだろうけどぉ、女子でも、車に興味ある娘、結構いるのよぉ。特にスポーツカーとかだとぉ、格闘系とか、女子野球とか、女子サッカーとかにも隠れファンがいるの。私はぁ、顔が利くのは格闘系だけなんだけどぉ、ちょっとLINEしたら、これだけ集まったからねぇ。あとは、結衣と悠梨にも集めてもらおうよぉ」


 そして、私にポッキーを勧めながら顔をピッタリと近づけて言った。


 「マイは、本当はやりたいって、ちょこ~っと思ってるでしょ? 軽音楽部がダメになって、クリスマスコンサートやれなかったのを後悔してるからさ。だから、やってみようよぉ。人は、集めたからさぁ」


 そして、私の反応を見てニコッとしたと思いきや、次の瞬間、素早い身のこなしで水野の方へと振り返り


 「せんせぇ~。部員は用意しましたよぉ。……ただしぃ、マイをガッカリさせたら、私許さないからぁ」


 と、ニヤリとして言った。

 そして


 「2週間後までには、今言っただけの部員が入って来るので、それまでに、R32?ってのを部車として用意してくださいよぉ」


 と、鋭い目つきで迫った。


──────────────────────────────────────

 ■あとがき■


 ★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。

 毎回、創作の励みになっております。今後も、よろしくお願いします。


 感想などもありましたら、どしどしお寄せください。


 次回は

 事の成り行きで、部に入ることになった舞華と柚月。

 一方、舞華は、水野から紹介された整備工場を探す。


 お楽しみに。

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