第20話 この前の続き……しよ。
「ふぅーん。それで、もおくんは春風さんと放課後一緒に過ごしたから、私の家に来るのが遅れたんだ〜」
「し、詩織……。ほっ、本当に遅くなってごめん……」
目の前にいる詩織が不満そうな顔をしている。
俺は詩織の部屋の中で、彼女に謝った……。
……あの後。
春風さんと色々あった後の俺は、詩織の家を訪れていた。
約束していたのだ。学校が終わったら、詩織の家に行くって。
「それなのに、私との約束をすっぽかして、もおくんは春風さんと甘酸っぱいやりとりをしてたんだ。ほぇー」
「ほっ、本当にごめんっ」
「ふふっ。ごめんごめん、冗談だよっ。もおくんは優しいもんね。そこで春風さんをそのままにしてたら、そっちの方がダメだと思うもん」
詩織が微笑んでくれる。
そして「お疲れ様」と言って、「ゆっくりしてね」とも言ってくれる。
この詩織の部屋に来たのは久しぶりで、三年ぶりだ。
引っ越してから来てなかったから、懐かしい匂いがした。
その部屋の中で、俺は今日の学校でのことと、放課後の出来事を改めて詩織に話すことにした。
「それで、春風さんはどうしたの? ちゃんと家に帰れた?」
「うん。……送っていった。やっぱり足を挫いてたみたいだから、俺が背負うことにした」
「おお! おんぶ!」
「うん……。それで送り届け終わった後、別れて帰ってきた」
もう暗くなってたことと、彼女が足を挫いてたこともあるから、俺は春風さんの家のそばまで行って、そこで別れた。
春風さんの家もこの近辺で、徒歩で高校に通える距離みたいだった。
「というか、多分、私、その子、見たことあるかも」
「春風さんを……?」
「うん。私がこっちに帰ってきた時、バス停からこの家まで歩いて帰ってたら、厚着をした女の子が歩いてたもん。もう五月も過ぎるし、あの子の格好は暑くないのかなって思って見てたの」
「そっか……」
それは多分、春風さんだよな……。
その姿が簡単にイメージできた。
そして詩織がこっちに帰ってきた時というのは、昨日だ。
「うん。昨日は平日だったから、春風さん、昨日も学校お休みしてたんだと思う」
「やっぱりそうなんだ……」
一応、今日の夕方、春風さんを家に送り届けた時。
それとなく聞いてみたら、春風さんは、最近は学校に行ってない、と言っていた。
全然行ってないわけではないし、進級はできているけど、それでも欠席をする方が多いそうだった。
「それで、春風さんは学校行くって言ってた……?」
「うん。一応は。多分、明日は行くかも、って言ってた」
「あっ、それならよかったじゃん。でも……多分、か」
「うん……、だから……確定ではないのかな」
難しい問題だ。
こういうのは、行こうと思ってすんなり行けるとも限らない。
直前で、やっぱりやめたい……と思ったり。
俺がそうだった。簡単なように見えて、難しいのだ。
それでも、春風さんは今日の別れ際に、また明日、と言って手を振ってくれていた。
「じゃあ、もおくんも明日もちゃんと行かないと、だね」
「うん」
俺も、だ。
俺は詩織に背中を押してもらったんだ。
「なにより、約束だしな」
「うんうんっ。もおくん、大好きっ。私との約束、守ってくれてるっ」
「あ、ちょっ……」
満面の笑みの詩織が、飛びつくように抱きしめてきた。
俺は詩織を抱き止める形になって、詩織は甘えるように頬擦りをしてくる。
今のしおりは部屋着で、薄着だ。
緩めの半ズボンを履いていて、上はダボダボのシャツを着ている。
というか……その服は俺の服だ。
詩織はこっちに戻ってきたばかりで私服の替えが少ないと言っていたから、俺が着なくなった服を詩織にあげたのだ。
「えへへっ。こうして、もおくんの服を着て、もおくんを抱きしめてると、ものすごく安心する。ねえ、もおくん、昨日の続き、する?」
「い、いや、それは……」
「いいよっ。……昨日のお風呂での続きっ。ほっぺにキスまではしたから、今度は口にしよっ。私も今日は寂しかったんだから。……しよ?」
「詩織……」
詩織の部屋で……。
甘えるように上目遣いをしながら、頬を赤くしている詩織。
シャンプーの香りがする。その頭をそっと撫でると、詩織はくすぐったそうに頬擦りをしてきた。
……可愛かった。ただ、そう思った。
そして俺たちは自然に見つめ合うと、お互いに顔を近づけていた。
そしてーー。
「おにーちゃ〜ん、しおりちゃ〜ん。お母さんが、ごはんを……ーーあ”」
「「あ”」」
……その時だった。
部屋のドアが開けられる。そこにいたのは、「あ”」とした顔をしたうちの妹。
今日の詩織はうちでご飯を一緒に食べることになっていた。だから、「完成したら呼びにくるねー」と妹は言ってくれていて、今このタイミングで来てしまったみたいだった……。
「……お兄ちゃん、やっぱり不純だ」
「「〜〜〜〜っ」」
俺と詩織は焦った。
そして、詩織は俺の胸に顔を埋めて、顔を隠していた。その姿を見た妹は、ニマニマとしながらゆっくりとドアを閉めた。その際にドアの閉まるガチャリという音がやけに、大きく聞こえた。
……さ、最悪だ。
「ふふっ。でも、もおくん、本当に今日はお疲れ様でしたっ。それじゃあ、ご飯食べに行こっか」
「うん」
俺は詩織に手を引かれて、二人で部屋を出ることにした。
詩織が帰ってきてくれたから、今の俺がある。
だから、これからはそれを返していきたいと思った。
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