第24話 三角関係《天音視点》


「ここ……かな?」


 放課後、やってきたのはうちの学校から電車で数駅ほど離れた女子校。そう、天使が通っている高校である。


 校門前に立って周りを見渡すと、校舎内から何人か人が出てくる様子が窺えた。放課後に入っているらしい。


 そんなことを考えながら天使の姿が出てくるのを待つこと5分ほどだろうか、ようやく天使が校舎内から顔を出した。


「あのっ」


 天使の姿は結くんに写真を見せてもらったから知っている。……仲よさげにしているのを見て、嫉妬しちゃったけど。……とまぁそんなことは置いておいて、天使の姿を見つけると、駆け足で向かい声を掛ける。


「……あっ」


 わたしのことに気付くと、目を開かせながらこちらを見つめる。まるでわたしのことを知ってるかのような態度を見せている。だから多分、どこかデー……二人で出掛けてる様子を見られたんだろう。


 それにしても、可愛いな……。


 ……って、ライバルかもしれない人になんでそんなこと考えてるんだ。でもまぁ、これなら天使と呼ばれてるのも納得……だね。


 納得……したく、ないけど。


「その、突然ごめんなさい」


「あ、いえいえ……ぜ、全然大丈夫……です!」


「その、少しだけ話をしたいんだけど……いい……かな? あの、すぐそこで」


 横を指さしてそう尋ねる。


「…………わ、わかりました」


 初めは躊躇う様子を見せたが、少々の沈黙の末、覚悟を決めたのか了承の意を示す天使だった。



 さすがに校門目の前だと通る人の邪魔になってしまうということで、邪魔にならないところに避ける。


「……それでその、話というのはやっぱり……?」


「あー、うん。唯くんのことだよ」


 「です、よね……」と落ち込みながら天使は言う。落ち込むってことはやっぱり……いや、まだここで天使が唯くんに想いを寄せているかを決めつけるには早すぎる。


 もう少し、様子を見ようかな。


「初めに言っておくと、あーしてほしいこーしてほしい、みたいなことを天使に言いにきたわけじゃないよ。わたしは、ただ事実を伝えに来ただけ。だからそんなに緊張しなくてもいいからね?」


 わたしは、そんな風に声をかけてあげる。


 やはりわたしの容姿は金髪碧眼と派手。ギャルっぽい容姿をしているということもあってか天使は少し警戒しているように見えたからだ。


「は、はい……」


 ……んー、やっぱり緊張は解けないかぁ。ははは、と苦笑を漏らす。


「で、わたしが伝えたいことなんだけど、単刀直入に。わたしと唯くんは付き合ってなんかないよ」


「はい……は、……え、え?」


 驚いたように俯かせた顔を上げる天使。やっと目を合わせてくれた。


「多分勘違いしてると思うけど、わたしと唯くんは昔からの友達ってだけ」


「そ、そうだったん、ですか……」


 はぁぁ、と安堵の息を漏らしている。「そっか、弓波くん、付き合ってる人いないんだ……!」と、小さく声が聞こえてくる。


 ……やっぱり、心のなかでは分かっていたけど、天使も弓波くんのことが好きなんだな……。


 ただわたしと唯くんが付き合っていると勘違いしていて、だからわたしに変な誤解を生み出すまいと唯くんを避けただけだったなら、どんなに良かったことか……。


 ……ううん、諦めちゃだめ。


 学校が同じなのはわたし。一番唯くんのことを知ってるのはわたし。唯くんのことが一番好きなのはわたしだから。


 もう、前みたいに暗い言葉は吐かない。


「あともう一つ」


「もう、一つ……?」


「うん。わたしは、唯くんのことが好き」


「……えっ」


 天使は、またしても驚いたような顔を見せる。

 本当は言うつもり無かったけれど、わたしは天使のことを見ていて考えを変えた。


「…………」


 しばらく沈黙が続く。これで天使がどういった反応をとるのか──

「──わ、私だって、……私だって弓波くんのことが好きですっ!」


 恥ずかしそうに、けれど一生懸命にそう声を上げる天使。


 ……──うん、これでこそ唯くんを好きになった人だ。


「ふふっ、負けないよっ。唯くんの彼女になるのはわたしだからっ」


「わ、私こそ、負けませんから!」



「「……ふふっ」」



 互いに決意を固め、握手を交わす。わたしたちの三角関係は、幕を開けるのだった。





「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」」」

 ちなみに女子校の校内では、先生を含めた女子校の生徒たちが、驚愕の声を上げているのだが、二人はそのことを知る由もない。

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