第8話 プレゼント
一週間近くが経過した。
あれから何事もなく……とはいかず、未だに女子校生からの付きまとい行為は続いている。何をするわけでもなく、ただ密かにこちらを覗いている。
後ろを振り向いてみると、近くにある電柱や壁に隠れてしまうので、おそらく僕に気付かれていないと思っているのかもしれない。僕は何回も振り向いたからストーカーは何かしらあるものだと察することができるはずだけど……天然、なのかな?
……まぁ、そんなことはどうでもいい。
そんな状態にある僕だけど、今日はある決心をしていた。
──ストーカー本人に直接話しかける、というものである。
多少危険だとは思うけど、この状況に終止符を打つにはそうするしかないと思ったからだ。
とりあえずのところ危険な人物でないことが分かった今、聞くくらいの価値はあると思うからね。
とはいえ、それが油断していい理由にはならないけれど。ストーキングなんて犯罪行為を行っている時点で信用に足る人物とは思えないから。
だから──。
「──ひゃっ!?」
なんて考えていると、後ろの方から驚きの混じったような声が聞こえてくる。と思うのもつかの間、どてっと石に足を躓かせたのか転ぶ音。
「……ん?」
急に聞こえてきたもので、気になって後ろを振り向いてみれば、「いてて……」と可愛らしく……と言ったら彼女に悪いが、可愛らしく呟きながら顔を俯かせて傷に手を当てていた。
「……もしかして」
もしかして、この人が僕のストーカー?
彼女は……──女子校の制服を身に纏っていた。女子校はこの近くとはいえ、ここから電車で何駅かというところ。こんなところにいるとなると……可能性は高い。
でも、そんなことより彼女は今転んでしまったわけだし、助けるのが優先だ。
と、思考を巡らせ、走ってストーカーらしき女の子に駆け寄る。
「だいじょうぶで……」
……え。
彼女に手を伸ばしながら声をかけようとして、他にわかったことがある。
この人──僕が前にハンカチを拾ってあげた彼の女だ。初対面だったのにも関わらず、天使と思ってしまうほど、……その、可愛い。
ハンカチを拾ったときはどこの制服のことなどと気にしていなかったけれど、思えばこの人も同じ女子校の制服だった。
「あ、あの……!」
「……え、……ぇ……っ……と」
僕が彼女の気持ちを伺うように声を上げると、彼女は顔を傷口から背けこちらを向く。
おそらく呼ばれたから反射的に顔を向けてしまったんだろう。目があった瞬間顔をボッと顔を赤くすると前のように吃り始める。
「……ご、ごめんな………さ……ぃ……っ!」
そして、急に謝られたかと思えば、傷口を抑えながら逃げるように走ってどこかへと消えていった。
また、逃げちゃった……。僕、知らずしらずの内に怖がらせたりしちゃってるのかなぁ。いや、僕を見た瞬間逃げる理由なんて、それくらいしかないよなぁ……。
「謝るのは僕の方なんだけど…………って、えっと?」
何かが目に入り、気になって視線を下に落とし、彼女がさきほどまでいたところに目を向ける。
なにか落としてしまったらしい。
これは……チョコ、だろうか?
さきほどまで彼女がいたところ……そこには、プレゼント用なのか、おしゃれな袋に包まれたチョコのお菓子があった。
ハンカチといいこのプレゼントといい、よく落とす子だな……天然、なのかな。
「また会ったら返そ…………うと思ったけど、でも、どうやれば……」
袋の中に包まれていたのは、チョコだけじゃなくて手紙も入っているようだった。もしかしたらなにか分かるかもしれない、と、申し訳ないと思いながらも袋を開いて手紙を確認する。
『ハンカチを拾っていただきありがとうございました。』
そして、まず飛び込んできた文字はその言葉だった。もしかしてこれって……僕に向けて、だったりするんだろうか?
『また、あの時は逃げてしまいごめんなさい』
……僕に向けて、かも。
あの時とはハンカチを拾った時のことだろう。あの時の記憶とこの手紙の内容が重なっていくにつれ、僕に向けてであるという予想が確信に変わっていく。
「……もらえば、いいの……かな?」
読み終えたあと、そう小さく呟いた。
ハンカチを拾っただけでここまでされるのは少し申し訳ないような気もするけど……せっかく感謝の気持ちを向けられている今、それをないがしろにするのもどうかと思うし。
次あったら感謝の気持ちを伝えないと。
……いや、それより僕最悪だな。感謝の気持ちを伝えようとしていた人を、ストーカー扱いとか。正直に言って謝ろ……。
はぁ、と肩を落とす僕だった。
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