第6話 ストーカーをする理由

 土日を挟んで月曜日の昼休憩。


 がやがやと賑わっている様子の食堂の裏側、そんな目の付きにくい場所で二人は互いに顔を見合わせ神妙な面持ちで弁当を食べながら雑談を交わしていた。


「ストーカーと同じ制服だった……ってのは、間違いないのか?」


「うん、間違いない……と思う」


 奏多の問いに対して、最近の出来事を振り返りながらこくんと頷く。


 何があったのかといえば、ストーカーの存在を奏多に伝えた日の放課後。学校に訪れた、ある女子生徒のことである。


 なぜだかまでは知らないけど、掃除も終え放課後に入った直後のこと、うちのクラスでは何やら騒がしい雰囲気に包まれていた。


 どうやら、有名な人が学校に来ていたらしかった。そして、僕も窓から見てみたわけなのだけど、なんと。


 ──ストーカーと同じ制服を身に纏っていた


 校門に隠れるようにして立っていたせいで右半分しか見えない状況だったし、遠目だからぼやけていたけれど、でも間違いない。あれは確かにストーカーと同じものだ。


 あの後奏多に聞いてみたのだが、その女子生徒が身にまとっていた制服は私立の女子高の制服らしかった。


 それはつまり、ほんの3日ほど前に僕を付きまとっていたストーカーはその女子高に通う生徒であることになる。


「……つまり、ストーカーは高い確率で女子校の生徒ってことか。あの女子校、お嬢様が多いって聞いてたけど……」


「……僕、その生徒に何かやらかしたのかなぁ」


 んー、と唸りながら何か考える様子を見せる奏多。


「……逆、じゃないか?」


「というと?」


「例えば、まず唯人はお人好しだから……何人も手助けしている訳だろ? なら、その内の一人だった女子校の生徒が、唯人に好意を抱いた、とか」


「えぇ……それはさすがにありえないでしょ?」


 助けたといっても、一回だ。さらにいえば勇気さえあればできる簡単な手助けに過ぎない。そんなことで僕に好意を抱く人なんて、いる訳が……。


「なぁ唯人。ストーカーが被害者をストーキングする理由として、一番を占めている理由ってなんだかわかるか?」


「……分かんない、けど」


「『好意』なんだよ。だから多分その唯人をつきまとう人は、好きとまではいかないけど、何かしら好意を持っていることは有り得そうだとは思わないか?」


「……まぁ、確かに」


 僕だって、助けてくれた人には確かにいいイメージを持つとは思うから。でも、……もしそうだとしたら困ったなぁ。


 確かに可愛いかったと思ったのは事実。だけど、あの子の性格を僕はよく知らない。その奏多の推測が合っているとするなら……なんで何もしてこないのだろう? なんで、執拗につきまとうのだろう?


「……あっ、いたいた。何、してるの?」


 なんて、奏多の推測に対して考えを頭の中で巡らせていると、突然、聞き慣れた可愛らしい声が耳に届く。


「別に、何にもしてないよ?」


「そうそ、ただ一緒に食べてただけ」


 ストーカーのことを知らせてしまうと無駄に天音のことを不安がらせてしまう。そう考えると、僕たちは天音の目を掻い潜ろうと努力を払う。


 むむむ、とこちらの顔を覗き込む。天音は、どうやら疑っているみたいだ。そりゃそうだよなぁ……こんな人目のつかないところで食べていたりでもしたら、何かあるみたいに……


「まさか、イケないこととか……?」


 天音は、この人目のつかない場所で男子二人で密会を行う状況を、ニヤニヤと笑みを浮かべながらからかってくる。


「どうかなぁ?」


 と、奏多。


 えぇっ、奏多!? なんで否定しない!?


「え、……ほ、ほんとに、そうなの、?」


 まさか本当だとは思わなかった、と言いたげな顔をする天音。否定しなかったことにより、信じてしまったらしい。え、いや、なんで?


「どうだろうなー」


 またしても否定することなく、言葉を濁しながらニヤニヤと天音を眺める奏多。


「ま、まさか……っ、ライバルって天使じゃなくて奏多だった……!? いや、唯くんと奏多……それはそれでいい……」


 なんで天音はこんなにも簡単に信じ切ってしまうんだよ……って、ん?


 天音の作り出したこの誤解をどうしたら解けるのだろうかと悩んでいると、天音は意味深な言葉を発し始める。


 かと思えば、急にはぁはぁと息を荒くさせる天音。心なしか、目を少しうっとりとさせ、頬が赤く染まっているように感じる。


 ……もしかして、もしかしなくても、そういうこと、か?


 天音の見てはいけない一面を見てしまったような、そんな昼休憩だった。

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