カワイイ女子高生に優しくしたら、その日を境に付きまとってくるようになったんだが

一葉

第1章 ぼくと天使と

プロローグ(第1話) 天使と見紛うほどの少女

 とある平日の放課後のこと。


 もう学校から帰宅し終わっていた僕こと弓波唯人は、リビングに置かれたソファーに座り、先程まで一緒にいた彼女と電話していた。


『ふふふふっ、相変わらず面白いなぁ唯くんは』


 電話越しに陽気な声で笑うのは、同じ高校に通う幼馴染である。


「そう? でもまぁ、天音が笑ってくれるなら嬉しい限りだよ」


『唯くんの話面白いもん! ふふっ、唯くんと話すの楽しいなぁ』


「僕もだよ。それに天音の声って聞いてて心地いいからずっと話していられそうだよ」


 大分長い時間話しているような気がする。17時には電話をかけていたと思うから……えーっと、……って、もう18時!?


『あっ、というか、もう18時じゃん! わたし、今から見たいテレビがあるんだよね〜』


「ほんとだね! 僕もそろそろ晩ごはん買いに行こうと思うし、じゃっ、一旦解散しよっか」


『了解! じゃあね』


「うん、また学校で〜。長い時間付き合わせてごめんね!」


 そう告げると、スマートフォンを耳から離し、電話を切る。


 ……って、いつの間にかこんなにも長い時間話していたんだな。元はと言えば明日の学校の授業内容に関して質問しようと電話をかけていたはずなのに、いつの間にか話がすり替わって……。


 ……まっ、楽しかったしいいか。


 楽しそうに笑っていた天音との電話を振り返り、ふふっと思い出し笑いをする。


 そして、小さく伸びをしたあと、ソファから起き上がり、軽く服のシワを伸ばした。


「晩ごはん……今日はコンビニでも行くか。財布と鍵は……そういえば玄関に置きっぱなしだったな。じゃあ、出るか」


 ふわぁ、と小さくあくびを漏らすと、ソファーから立ち上がって玄関へと向かう。


「いってきま〜す」


 ほんの少しの準備を経て、間延びした声でそう呟きながらアパートの自室を出た。


 最近一人暮らしを始めたから、前とは違い声が返ってくることはない。静かに放った声は、閑散とした部屋に吸い込まれるようにして消えていった。





◇◇◇◇





 ゆっくりとした足取りでコンビニへ向かうこと5分。


 もう時間は18時を回っているということもあり、夕焼けが綺麗だ。


 なんて、そんなことを考えながら財布を片手に歩き続ける。


「……ん、あれ、なんだろ?」


 もうすぐコンビニに着くというとき、数メートル先を歩く女性が、ふと何かを歩道に落としていくのを見つけた。


 近付いてみたところ、ハンカチのようだ。クマの刺繍の入っていて、ピンクがかった何とも可愛らしいハンカチ。


 拾い上げると、駆け足気味で女性に追いつき、声をかけてみることに。


「……あの、ハンカチ落としました、よ?」


「……っ!」


 ビクッ、とハンカチを落とした女性の肩が跳ね上がる。


 ……急に声をかけるのは流石にまずかったかな。


「……」


 返事を待っていると、無言でポケットをパンパンと叩き始める。と思った途端、『あ』と小さく声を漏らした。ハンカチが無いことに気付いたよう。


 というか、仕草がいちいち可愛いな……。


 なんて考えていると、女性はこちらをゆっくりと振り返る。


「…………っ!」


 身体が石のように固まる。


 ──天使。


 女性の姿を見たとき、まずそんな言葉が浮かんできた。それくらい、彼女は美しかった。


 パッチリと大きい琥珀色の目、あどけなさの残る可愛らしい童顔の顔。少し背が低めということもあり、男性から多くのアプローチを受けてそうな、そんな印象を受ける。


 さらに、透き通った優しく明るいベージュ色のセミロングの髪型は、顔立ちの美しさや骨格の華奢さを際立たせている。


 どこかの学校の制服を着ていることから、この女性は学生であることが読み取れた。


「あ、あの……え、えと」


 顔を俯かせたままこちらを向くと、しどろもどろになりながらそう呟く。そういえば、ハンカチを渡してなかった……。


「あっ、どうぞ。落ちてましたよ」


「……あ、……あ、あり、あり……ぅござい……」


「……?」


 ……何て、言ったんだろう?


 どう対応すればいいのか分からずただ首を傾げていると、女性が少しだけ顔を上げる。


「……っ!」


 僕と目があった瞬間、女性はビクッとまたしても肩を跳ねさせると、顔をボッと赤くし、あたふたとし始める。


 かと思えば、ハンカチを片手に全速力で駆けていった。


「……え、あっ、ちょっと?」


 なんだったんだろう……?


 もしかして、恥ずかしかったのかな。自分がクマの刺繍の入ったハンカチを持っているのが。配慮が足りないなぁ、僕。


 僕は、ただ困惑する他なかった。

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