第19話 可愛いことを言ってくれるわね。

 木曜日の目覚めからナオさんはご機嫌で、職場では他の社員が普段と違う何かをナオさんから感じとり、二度見する人がいたほどだった。ナオさんは背が低いが、バランスが良いプロポーションと、自信というかプライドのためか実際の体よりも大きく見える時がある。また、仕事上では緊張感もあり、どこか攻撃的な目つきや発言をすることもあったが、最近では丸くなった、穏やかになったと話す人もいる。職場への結婚報告はもう少し先だが、勘が良い社員はナオさんの変化に薄々気が付きはじめていた。

 木曜日のお昼休みにアヤさんへプロポーズが上手くいったこと、指輪を改めて選びに行きたい旨を電話で伝えた。アヤさんは「土曜日の16時に同じアテンダントカウンターでお待ちしています」とのことだった。その晩、ナオさんに土曜日に行くことを伝えると「楽しみだね」と益々上機嫌だ。


 土曜日の夕方。先週までならナオさんはスーツケースを引いて自分の家に帰っている時間だが、今日は二人で伊予丹デートだ。ナオさんは「結婚すると決まれば、我が社の社員や取引先にバレても、速いか遅いかだけの違いだ」と外デートを嫌がらなくなった。判断が迅速かつ明快だ。

 「いらっしゃいませ。」4階ジュエリーアテンダントのカウンターへ近づくとアヤさんと杉本さんが待っていてくれた。

 「この度はご成婚おめでとうございます。」アヤさんと杉本さんだけではなく、視界に入るテナントの店員さんまでが起立してお辞儀をしてくれた。俺もナオさんも面食らったが悪い気はしない。「こちらへどうぞ」と促され、席に着く。

 「こちらのお二人が相談に乗っていただいた若狭アヤさんと、アテンダントの杉本さん」と俺からナオさんへ二人を紹介する。


 「お世話になり、ありがとうございます。」ナオさんはよそ行きの少し高い声で答える。

 「『セッティング』は気に入っていただけましたか?」と杉本さん。

 「はい。ずっと憧れていたリングだったので、彼が指輪を見せてくれた時は驚きました。」

 「ただ、やっぱりサイズが少し大きかったようです。」と俺から説明しながら、お借りした9号の指輪をアヤさんへ返却した。

 「そうでしたか、大変失礼しました。」

 「とんでもありません。肝心な時に指輪が入らなかったら彼が困ったでしょうから。」ナオさんは慌てて手を振り否定する。

 「今日は私共が指輪選びのお手伝いをさせていただきますので、遠慮なく何なりと申しつけください。せっかくですから、ティファニー以外もご覧になってはいかがですか。」アヤさんも笑顔だ。

 「じゃあ、ティファニー以外も見ていいかな。一生に一度っきりの機会だからさ。」ナオさんが聞くので、「もちろんです」と答えた。すかさず杉本さんがタブレット端末を出してきて最近の売れ筋商品を説明する。前回俺が選んだ指輪で大体の予算感を察したのだろう、200万円を超えない程度の価格帯の商品をナオさんに説明している。

 「うーん、どれも綺麗で選べないけど、太くてゴツイのや、オレンジや黄色で派手なのはやめておこうかな。」

 「承知しました。では、プラチナにダイヤのベーシックなデザインで、こちらはいかがですか。中でも小さな石を散りばめたデザインと、一粒石のデザインとがあり、どちらも人気ですよ。」

 「えー、どうしよう。ユウジ君はどう思う。」ナオさんは嬉しい悲鳴をあげながら俺に意見を求めて来る。

 「ナオさんが気に入ったのを選んで良いんですよ。」

 「じゃあ、やっぱり彼が選んでくれた一粒石で、ティファニーの『セッティング』が一番いいです。私の憧れでもあったし。」

 「選択肢が多くて迷った時は、案外第一印象で選んだのが一番いいものの場合が多いですよ。」アヤさんは達観している。

 「ふふふ。承知しました。では、恐れ入りますがティファニーのテナントへご一緒に。」杉本さん、アヤさん、俺達二人でテナントへ移動する。


 ナオさんの選択は想定内だったのだろう、テナントに着くと既に『セッティング』が複数用意されていた。

 「8号で間違いないとは思いますが、念のためサイズを再確認させていただきます。」と杉本さん。リングケージで測ってみると、やはり8号で間違いないようだ。

 「後はカラットですが、いかがされますか?プロポーズでお使いになったのはこちらの1カラットで、他に小さいものも、大きいものもございます。」

 「あの、…どうしよう。」ナオさんが値段を見て、俺の顔をうかがう。

 「1カラット、気に入ってくれたじゃないですか。」

 「そうだけど、大丈夫?」

 「ははは、買えない指輪でプロポーズしませんよ。」

 「一生に一度の特別なお買い物ですので、妥協が無い商品選びをおすすめします。」と『魔女』が畳みかける。ダミーの指輪で1カラットをアヤさんが選んでくれた時から俺はまんまと乗せられていたのだ。1カラットはインパクトがあり、魅力的だ。だからプロポーズが成功した訳ではないが、俺としてはプロポーズをした時よりも小さい石の指輪をナオさんに持たせることはできない。

 「ありがとう、大事にするね。」ナオさんは笑顔で決断した。

 支払はアイカードゴールド。元々伊予丹のカードは持っていたが、山登りでアヤさん達とお近づきになってゴールドへの切り替えを勧められた。おかげで限度額内で一括払いができる。支払い時にアヤさんが小声で「本当に大丈夫だった?分割やリボでも良いのよ。利率も“勉強”するよ。」と気を遣ってくれたが、他に大きな買い物の予定が無いので「大丈夫です」と答えた。レシートを見ると今まで見たことが無いくらいたくさんポイントが付いていた。


 「ところで、奥様は当店のアイカードは既にご入会いただいていますでしょうか?」アヤさんは販売促進に余念がない。

 「私は出丸百貨店さんでいつもお世話になっていましたので、持っていませんが…。」

 「せっかくのご縁ですので、この機会にいかがですか?」

 「うーん、伊予丹さんでのお買い物は、彼におねだりするようにしようかな。ね、ユウジ君。」ナオさんが笑顔で俺を巻き込む。

 「なるほど。そう来ましたか。」アヤさんも笑っている。

 「ユウジ君、若狭さんと仲が良いんだね。」ナオさんは少し不安げだ。

 「ああ、こちらの若狭さんは一緒に山登りしてから仲良くしてもらっているんです。うちの営業部の若狭のお姉さんですよ。」

 「え、そうなの。だからか。」

 「あと、まだ職場には内緒ですけど、カイト先輩の婚約者でもあります。」

 「えー、本当に。」ナオさんは心底驚いている。

 「いつも弟と旦那がお世話になっています。」アヤさんが笑顔で小さくお辞儀する。

 「あれ?ってことは、こっちの婚約も筒抜けなの?」

 「若狭だけには話しましたが、他は誰も知りませんよ。」

 「私もお客様の個人情報を、たとえ婚約者であってもみだりに話したりしませんので、ご安心ください。ちなみに私とカイトの事も、もうしばらく内緒にしておいてくださいね。」


 夕食を済ませ、シャワーも済ませ、髪を乾かしている。ナオさんは先にドライヤーも終え、ベッドの上にぺたんこ座りして指輪を眺めている。

 「気に入ってもらえて良かったです。」俺がナオさんの隣に座って話しかける。

 「へへへ、ずっと憧れだったんだぁ。こればっかりはいくら欲しくても自分で買うわけにはいかないじゃん。だからこれをユウジ君が出してくれた時はビックリしたし、嬉しかった。」指輪がナオさんの薬指にピッタリ収まっている。今度こそ借り物ではなくナオさんの物だ。

 「もう3回くらい聞きましたよ、その話。」ナオさんは余程嬉しかったのだろう。「ビックリした」、「嬉しかった」は何度も聞いている。

 「そっか。…ところでさぁ、水曜日の夜に聞きそびれたんだけど、その…こ、…子供、どうしようか?…私は欲しいんだけどユウジ君は?」ナオさんが恥ずかしそうに顔を赤くして聞いてきた。

 「授かりものだから分からないですけど、できるといいですね。」

 「よかった。いざ“記念日”って時に話を逸らされたからさ、ユウジ君が実は子供いらない人だったらどうしようかと思ってた。」

 「あれだけセックスしておいて今更ですか?単にドレスや旅行が思い通りにできないと可哀想だなぁと思っただけですよ。」

 「じゃあ、一緒に頑張ろうね。婚活はユウジ君がカッコよく決めてくれたからさぁ、次の妊活は私に任せてね。いいタイミングで元気な子供を産んであげる。もちろん、私一人じゃどうしようもないから、ユウジ君にもしっかり手伝ってもらうわよ。」

 「はい。でも今までどおり続けていたら、たぶん授かりますよ。」

 「そうだといいね。」ナオさんが俺の肩に頭を預けてくる。


 「ねえ、今日は私がユウジ君を気持ちよくしてあげる。全部脱いで。」

 「ははは、じゃあ、お願いします。」俺は裸になり、ナオさんも指輪をケースに戻した後、自分で裸になった。

 「私の自由にさせてね。」ベッドに横になるとすぐにナオさんは俺に覆いかぶさり、いつもの頬ずりと匂い嗅ぎが始まる。俺の首まわりから胸をゆっくりと感触と匂いを確かめていった。

 ナオさんはまたすぐに俺に覆いかぶさり、キスをしてくる。舌が入って来た。俺も舌を出すとナオさんは舌を根元から舌先まで数度舐めたあと、絡めてきた。ナオさんの手は、既に俺の胸にあり、指で乳首をクルクルこねくり回したり、摘まんだりしている。俺はナオさんの腰に手を回して抱くだけ精一杯だった。既に気持ちがいい。俺の舌を一通り遊んだ後は、上唇と下唇を順に舐め、それぞれに吸い付く。首筋も鎖骨から顎へ左右とも数度往復した後、左耳たぶをハムッと口に含み「フゥー」と吐息を漏らす。

 ナオさんは俺の胸に移り、たっぷり唾液を含ませた舌で乳首を弾く。「ユウジ君もここが好きなんでしょ」と指と舌で左右を入れ替えながらたっぷり可愛がってくれた。ナオさんの舌はまだ続く。腰骨から腹筋、脇腹を下から上へ舐め上げて来る。意識して舌を固くして舐めているのか、ゾクゾクとした感触がした。  

 太ももの内側もそうだ。俺のモノを手で握りながら膝を片方ずつ立たせ、脚の付け根で円を描くように舌を動かした後、膝まで一気に上がってくる。俺はさすがに堪らなくなり、身体を起こしてナオさんの肩を掴もうと手を伸ばしたが、「まだダメ」と両手を掴まれベッドに押し返された。ナオさんは俺のお腹に腰かけ、俺の両手首を掴んだままバンザイをさせるように手で押さえ、俺の脇から二の腕を左右とも舌を這わせた。さすがに唾液も切れてきたのか、生温かいねっとりした舌の感触を感じた。最後にもう一度ディープなキスをしてくれた。

 「ねえユウジ君、目を開けて。私を見て。ねぇってば。」ナオさんに左頬を軽くつねられ目を開けると、ナオさんが上から俺の顔を見下ろしている。呼吸が荒いが、薄っすら笑っている。

 「全部ユウジ君が今まで私にしてくれたことだよ。気持ちよかった?ちゃんと真似できてた?」ナオさんはトロンとした目で俺の両手を押さえつけたまま言った。

 「はい。気持ちよかったです。」

 「ふふふ、良かった。大体この後ユウジ君はクンニをしてくれるか、入れてくれるんだよ。」

 「俺、ワンパターンでしたか。もっと工夫しなきゃ。」

 「違うの、誤解しないで。私をちゃんと気持ちよくしてくれた後にクンニかセックスでとどめを刺してくれるっていうか、イかしてくれるって意味だよ。私は嬉しいんだよ。」

 「そうなんですか。」

 「そう。私の方こそ騎乗位以外に何かできるようにならないとワンパターンになっちゃうね。…頑張ってフェラの練習してみようかな。」ナオさんが俺の下半身の方へ移動し、俺の足の間に座った。本気のようだ。

 「また苦くて不味いかもしれないから、亀頭部分は無理しなくていいですよ。」上半身を起こしてナオさんに伝える。

 「でも、そこが一番気持ちいいんでしょ。」ナオさんは髪を纏めて後ろで括りながら答えてくれる。

 「それはそうなんですけど…」

 「じゃあ、任せて。」既に勃起している俺の仮性を剥くところから始まった。俺が恥ずかしそうにするからだろうか、ナオさんは俺のモノを剥くのがツボにはまっているみたいだ。

 「ウワッ。」ナオさんが唾液を口に含み、それを亀頭に垂らしながらクルクル舐めてくれる。思わず声が出てしまったが、ナオさんは構わず舐め続けてくれる。20周以上舌が亀頭を回った後、ふんわり柔らかい唇で亀頭を含んでくれた。ゆっくり唇を先端からカリのくびれまで上下に動かしてくれる。ゴムを着けずに直接だからだろうか、中に入れた時とはまた違うトロトロの感触がする。

 次は自分の唾液が滴る竿をすくい上げるように下から上に舐めてくれる。舌の力を抜いて舌の表面がモノにベッタリ触れるようにして舐め上げてくれるので、舌の柔らかさと生温かさが気持ちいい。

 「上手にできてる?」ナオさんは一旦口を離し、上目遣いで聞いてきた。

 「上手いかどうかは分かりません。だって俺、ナオさんのフェラしか知らないから。…でも、気持ちいいです。」ナオさんのしか知らないというのは嘘だが、恥ずかしそうな表情をして答える。

 「ははは、可愛いことを言ってくれるわね。私の母性本能というか、庇護欲をそそるユウジ君のそういうところ、好きだよ。」とナオさんは笑ってくれた。

 「ユウジ君、イク前には言ってね。前に教えてくれたみたいに、アレを口の中や顔に出されるのはまだ怖いから。」

 「分かりました。もう少しでイクって時にちゃんと言いますね。」

 「じゃあ、ユウジ君のストップがかかるまでチンチン吸っててあげる。」ナオさんは再度俺のモノを口に含み、亀頭だけではなく竿もふくめて喉に入る限り奥まで入れてくれた。前回よりも唾液を口にたっぷり含ませて口を上下に動かすようにしてくれているので、モノを吸いながら口が上がる度にジュルジュル音が出ている。

 残念ながらナオさんのフェラは、俺が経験した他の女性のと比べて上手とは言えない。ナオさんはまだ2回目でこれから練習すると言ってくれているから当然なのだが、今はテクニックでイクというよりも眉間にシワを寄せながら必死に咥えてくれている姿に興奮してイけそうだ。先輩であるナオさんに俺のモノを咥えさせている征服感。ナオさんは俺のモノしか咥えたことがないという独占感。ナオさんが俺をイかそうと必死に咥えている優越感。これらの心理的要素が未熟な物理的な刺激を補完して快楽に導いてくれる。

 「ナオさん。そろそろストップです。イきそうです。」

 「へへへ、今回もユウジ君をイカせそうだね。やった♪」ナオさんは二の腕で口を拭いながら上半身を起こし正座で座った。

 「ナオさん、また最後に手でイカせてください。」

 「うん。…あの、ユウジ君のが出るところを見てみたいんだけど、ダメかな?」

 「射精するところですか。」

 「うん。この前はハグしていたから見れなかったじゃん。…ダメ?」

 「いいですよ。」

 「やった。じゃあ始めるね。イっても手を動かし続けるんだよね。」ナオさんは右手で俺のモノを握り、俺の顔とモノを交互に見ながらゆっくり上下に動かし始める。たぶん2分ともたなかったと思う。俺が気持ちよくて腰を少しナオさんの方へ突き出したのを見逃さず、ナオさんは握力を強め上下運動を加速させて俺をイかせてくれた。

 イク直前にも「ヤバイ」と伝えたので、ナオさんは手を動かしながら俺のモノをジッと見ていた。最初は白い液がモノの先端から15cmくらい上に飛び出し、弧を描いてナオさんの右膝の上に落ちた。ナオさんの手が上下に動くたびに2射、3射と飛び出るが、あとはナオさんの右手とベッドのシーツを汚しただけだった。モノが脈打つのが止まるとナオさんも手を動かすのを止めて、最後は人差し指と親指の輪で精子を絞り出すように引き出してくれた。

 「すごいね。本当に飛ぶんだね。」

 「気持ちよかったです。ありがとうございます。…ティッシュ、どうぞ。」ベッドサイドに置いておいたティッシュの箱からとりあえず3枚取り出しナオさんに渡すと、満足気な表情で自分の手に飛んだ精子を拭き取っている。俺も自分でティッシュを取ってナオさんの膝に飛んだ精子を拭き取る。

 ナオさんにフェラを新しい得意技にしてもらうため、今後もナオさんのフェラを「気持ちいい」と褒めちぎり、意識的に早くイクようにしよう。ナオさんは自分でも言っていたが、褒めて伸びるタイプの人なのだ。

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