第4話 天使(オタク)スポーツに興じる

 今、志場智樹は窮地に立たされていた。

「智樹どうしたの?冷や汗なんかかいちゃって」

 リサは素っ頓狂に僕に声をかけてきた。リサは天使で地上に降りてきたオタク天使なのだ。人間界の観察の為に下りてきたそうだけど、本当の理由は地上にあるマンガ、アニメを堪能しに来たオタク天使。そんなことを説明している場合では僕に無かった。

「今、ドッチボールをしていて僕はコートに一人しかいない状態だから、ボールに当たったら負けちゃうんだよ」

リサはコートの外から僕にアドバイスらしきことを言ってくるのが聞こえた。

「ボールをバレーのレシーブみたいにして、球速を押えてから、取ればいいのよ」

「簡単に言わないでよ」

 僕は必死にボールを避けながら、リサに答える。で、何故、高校でドッチボールが流行っているかと言うと今度近くの商店街でドッチボールをやって、商店街を盛り上げようと企画があり、僕の高校の生徒も出場するみたいでみんな放課後に練習していると言う事だった。優勝すれば、豪華賞品があると言う事もあり、一般人もガチの参加者も練習しているとも言われている。

 僕は出るつもり全く無かったのだけど、飯田が練習に参加してくれと頼みこまれたので仕方なくやっているのだけど、自分でも言うのも恥ずかしいけど、役に立ってない。

「もう、止めようよ。疲れたよ、飯田ぁ」

「そうか」

 飯田は僕の泣きそうな声を聞き、空手部部員に終了の合図を出す。

「お疲れ様。ありがとう、友樹」

「ありがとうって。僕逃げ回ってただけだよ」

「いやぁ。空手部部員はボール全部受けちゃうから。逃げるのが上手いのを当てないとうちの部員コントロール悪いし」

 と飯田は僕にさわやかに言ってくる。いや、さわやかに言われても困るんですけどと思いながら、僕は疲れた顔で「大丈夫だよ」と笑顔で返した。

 飯田は「そうか。いい練習になったよ。ありがとう」と僕の手を取り、お礼を言い握手を求めてきた。

「別にいいよ。本当にごめん」

 飯田の笑顔はとりあえずかっこいいから不満を言うと他の誰かに悪く言われそうだから、不満を言う事を僕は心の中にとどめる。天然でこれやるから、憎めない奴だよ。

「もう、帰るね」

「おぉ、気をつけてな」

 僕は飯田に帰る意思を伝えるとその場から立ち去ろうとした時、リサが近くにくる。

「私のアドバイス聞こえなかった?」

 と僕にブツブツ言ってきた。

「そんな事言われても。僕、全体的にスポーツ苦手なんだよ」

「情けないわね」

 リサはそう言うと「私ならやれるわ」と自信満々にこう言ってきた。

 僕はその言葉にカチンときて嫌味を言う。

「漫画読んで何でもできると思わない方がいいよ。前の料理の時みたいなことになるよ」 

「あんた、ばかぁ?」

 僕は何処かで聞いた事のあるセリフだったけど僕はツッコまず、そのままリサの話を続けさせる。

「ドッチボールは戦略。味方の個人の力量もあるけど相手の戦力データが不可欠よ」

 リサは力説してきた。

「まぁ、確かに」

 僕はリサの意外な意見に納得。

「個人の力量は・・・ドッチ弾平みたいな動きが必須」

 リサの拳はぐっと力込める。あぁ、そこか。

「あの動きは無理だよ。あの線の濃い動き普通の人間には無理、無理、無理」

 僕は無理を三回も言ってしまう。

「そう?私ならいけるわよ」

「じゃぁ、その動きってやつここでやってみてよ」

 僕は無理だとわかって、リサに言い放つ。リサは「いいわよ」と言うとちょっとしたた準備運動をし始めた。一体何をするんだと僕は息を呑む。

「じゃぁ、やってみるね」

 とリサはそう言うと僕の目の前にいた姿が一瞬で消える。

「えっ?」 

 僕は誰かに肩を叩かれ、聞き覚えのある声が後ろから。

「智樹の後ろよ」

「早っ⁉」

「この動きなら勝てるでしょ」

 僕はリサの動きに興奮する。瞬間移動とか漫画の世界。正にドラゴンボールを彷彿とさせる動きだった。

「凄い」の一言。

「でも、連続で使えないのが難点だよね」

「でも、この速さで避けて、ボール投げれば当たるでしょ」

「えいっ」とリサは両手でボールを投げ、ボールはへなへなと飛んでいく。僕はあっこれ駄目だと頭をよぎる。と言うか、いくら避けれてもボールが当てれないんじゃ意味無いかと僕は肩を落とす。

「まぁ、これ瞬間移動じゃないんだけどね。ごめん」

「?」

 リサは訳の分からない事を言い出した。僕は、言っていることが意味が分からず質問する。

「私、神様から貰った能力があるんだけど、時間停止なの。だからさっきのは瞬間移動じゃなくて私の周りの時間を停止させて、友樹の後ろに行っただけなの」

 とリサは笑っていた。

「いやいやいや。時間停止の方がリアルに凄いよ。この能力があれば、ドッチボール大会優勝間違いないよ」

「そうなの?」

「こういう作戦を立てれば間違いなしだよ」

 と僕はリサに作戦を話す。リサはふんふんと僕の立てた作戦を聞いてくれ「本当にそんなのでいいの?」と聞いてきた。僕は頷く。


 大会当日


 空は晴天で花火が上がる。商店街は露店が出ており、お客さんで賑わっていた。商店街が活気を取り戻そうと開催されたドッチボール大会は大人から子供まで参加でき、優勝チームにはこの商店街で使用できる商品券10万円分。商品券欲しさにチーム参加者が多かったがくじ引きで8チームくらいまで絞られた。その中に飯田の率いる空手部チームが入っていた。僕の提案でリサをチーム内に入れてあげて欲しいとしたら飯田は涙を流し喜ぶ姿を見せ、僕は引いたことは言うまでもない。

 それからというもの、飯田のチームは飯田の一言「リサさんを守り抜くぞ」と発すると、空手部の精鋭たちは「おぉーーーーーーーー」と奇声じみた声をあげ、屈強な戦士たちが生まれた。

 それからというもの、飯田率いる”星宿高校空手部チーム”はリサを護衛しつつ、勝利をあげていた。リサは「私、いらないじゃん」とふてくされていた。僕は、「まぁまぁ」と宥め、リサがいたから飯田は頑張ってるんだと説明し何とか納得してくれていたが、口をとがらせてつまらなさそうだった。

 そんなこんなで飯田のチームはトーナメントを勝ち抜き、決勝戦までコマを進めた。リサは頬を膨らませ、「楽しくなーい」と小さい子供の様に駄々をこねる。確かに、リサは守られ、ここまでにボールにすら触っていない。

「いいじゃないか。守られて」

「良くないわ。私もボールに触りたいわ」

 とリサがふてくされている所に裏から声をかけられる。

「次はあなたがいるチームね、よろしくね」

 そこにはとてもグラマーな女性と小学生くらいの男の子が立っていた。 

「あなた、誰?」

「私はママさんバレーの子供との複合チーム”ママ。これ、いいね‼”のチームリーダー新野妻絵よ」

 と新野さんは胸を強調して、リサに握手を求めてきた。リサは「あぁ、どうも」とガチッと握手を受ける。切り替え早すぎ。

「じゃぁ、試合で会いましょう」

 新野さんは男の子と手を繋ぎ、去って行った。試合前の偵察かな?と僕が二人の後ろ姿を見ていると横から声をかけられる。

「あのチームには気を付けろ」

 僕は声の方向に目をやる。そこには顔に包帯をグルグル巻きにしたおっさんが立っていた。僕は思わず「うわっ」と叫び驚いてしまった。

「俺は、(株)海山建設の社員山岸って言うんだ」

「はぁ、どうも」

 山岸さんは急に自分の自己紹介をし、僕はあっけにとられる。

「このドッチボール大会で”海山建設社員チーム”として出てたんだ。あのママだっちゅうの‼チームは曲者だぜ。俺たちコテンパンにやられたんだ」

「へー、そうなんだ」

 リサはいつの間にか商店街の出店でポテトを買って食べながら話していた。

「お前ら、次はあいつらとやるんだろう。気を付けな」

 と山岸さんはどっかへ行ってしまった。

「あの人は一体何だったんだ」

「何だったんだろうね。漫画で言えば戦闘を解説してくれるテリーマンみたいな人かな」

 リサはポテトをむしゃむしゃ食べながら喋っていた。

「何故、ここでキン肉マン・・・」

 僕はツッコミをいれる。

 そんなこんなで飯田達とリサが入る空手部チームとさっき握手を求められた”ママ。これ、いいね‼”チームでの決勝戦が始まる。

「私達が勝たせてもらうわね、うふふ」

「我々も負けませんよ」

 新野さんと飯田の熱い握手を交わし、お互いのコートへ戻り、審判によりボールは飯田率いる空手部チームが先制のボールを渡される。試合前にリーダー同士でジャンケンをして先制を決めていたようだ。

「じゃぁ、行きますね」

 飯田はコート内にいるママさん一人に狙いをつけ、ボールを投げようとしたその時だった。一人のママさんが子供を盾にして、喋り出す。子供の目は潤んでいた。

「こんなかわいい子にボールを当てるの?ちょっと酷いんじゃない」

「ママ怖いよ」

 僕は観戦席で見ていて、引いてしまう。とそこにいつの間にか隣にいた山岸さんが喋り出した。

「あれが”ママ。これ、いいね”チームの第一の作戦。子供を盾にしボールを緩くしてもらう作戦だ。この作戦は相手の心情をゆさぶる作戦だ」

「これ、ダメでしょ。ってか、いつの間に隣にいたんですか?」

「そんなことはどうでもいい。見てみな、ボールを持つ兄ちゃん戸惑ってるぜ」

 僕は山岸さんの言葉を聞き、飯田率いる空手部の部員はボールを持ち戸惑っていた。

「勝負事に感情論を持ち込むな。我々はゆるぎないリサさんへの忠誠心ある」

 しかし、飯田がそう言うと空手部部員は目を覚まし、ボールを男の子に向けてぶん投げた。

「リサさんは僕たちが守る」

「ちっ」

「あ。舌打ちした」

 僕は新野さんが舌打ちするのが見のがさなかった、ここでも引くいてしまう。新野さんは子供を自分の後ろに戻すと自分でボールを受ける。

「あのチームの真骨頂はこの後なんだ」

 山岸はそう言うと新野さんがいるチームのお母さんたちが集まり何かをやり出す。

「?」

 僕はお母さんたちが自分たちの服を脱ぎ始めた。おいおい、それダメでしょと僕は顔を手で覆う。新野さん達は服を脱ぎ終わる。最初はTシャツにハーフパンツ姿だったのだが

服を脱いだ姿がビーチバレーに使用する肌に張り付く小さい水着に変わっていた。

「審判、あれは駄目でしょ」

 僕は新野さん達を指さし、審判に抗議をする。

「別に問題ありません。試合は続行です」

 審判の女性は新野さん達の服装に何の問題も無いと僕の意見は却下された。まさか、審判を味方につけているのか?僕は飯田達を見てみると新野さんの姿を見ないように顔を反らしていた。思春期の学生には刺激が強すぎるのだろう。

「くそう、直視できない。見たらリサさんを守れはするが我々の負けになる」

 飯田は嘆いていた。

「ほらほら、お兄さんたち私達を見てよ」

 新野さんは高校生には刺激的なポーズで悩殺する。新野さんは鼻血を出してしまい鼻を押える空手部員を狙い撃つ。

 ドガッ

「はい。一人ね。時間の問題かな」

「くそっ」

 それからはまた一人、また一人と倒され飯田は悔しがっていた。ボールは飯田の目の前に転がる。

「ちょっと、私忘れてない?」

 リサは飯田の前のボールを拾い上げ、手に持つ。

「リサさんは下がっていてください。何とか我々があのお姉さんたちを押えます」

「もう、飯田君は下がって。」

「あら、お嬢さん。私達と遣り合おうとしてるの?」

 新野さんは胸を強調するポーズで煽ってくる。

「私もあるわ胸位」

「あらあら、お上品なお胸だ事」

 バチーンと何かが切れる音がした。

「そんな脂肪、絞り撮ってやるわ」と新野さんに指さし、息巻くリサ。

「やってみなさい」

 新野さんがそう言うとリサはパチッと指をならす。

「きゃー、痛い」

 新野さんの後ろから悲鳴が聞こえた。振り返ってみるとさっきまでリサが持っていたボールがあるママさんの頭に落下してOUTになっていた。

 そして、リサはもう一度指をならす。すると先ほどママさんの頭にあったボールをリサが持っていた。

「な。あり得ないわ。審判あの子反則してるわ」

 新野さんは焦り審判に抗議。

「私はちゃんと当ててるわ。ほら」

 リサがボールをスパイクするとボールは新野さんの後ろのママさんにヒット。ボールはママさん達のコートに転がる。新野さんは拾い上げ、ボールをガチッと掴む。

「ボールはこうやって打つのよ」

 新野さんは高速のスパイクをリサ目掛け打ち込む。新野さんはこれなら受けれないわと思いやったと喜ぼうとした時だった。リサはここであの作戦「時間よ止まれ」を

発動させる。先ほどの他のママさんにやったのも「時間よ止まれ」これは自分の周りの時間を止め、その時間の止まっている中で自分が動けるというかなり卑怯な技だ。

 リサは時間を止めている間に、スパイクされたボールの軌道をリサの方ではなく、ママさんチームの外野に変える。そして世界は動き出す。

 ドカン!

 新野さんは目を見開く。狙ったはずのリサがボールの軌道上にいない事を。ボールは反れ、外野に行く。

「バカな」

「遅いんですよ」 

 僕はリサのしていることを知っているから苦笑いしか出ない。横でこの試合を見ている山岸さんは驚いていた。

「あの金髪のねーちゃん、凄いな」

「そうですかね」

「でも、あのねーちゃん胸の事であんなに怒る・・・」

 僕は横を見ることは出来なかった。リサは「時間よ止まれ」を使い山岸さんにボールを当て、顔にめり込ませていた。

「そこのおじさんうるさいっ‼」

 リサは気がたっているようだ。今は胸のサイズは禁句だなと自分に言い聞かせる。

 そして、この勝負に決着の時が来る。

「おばさん、その胸引きちぎるから」

 リサは獲物を狩る狼の様な目つきで新野さんを睨みつける。君、天使なのに今悪魔になってるよ言いたい。

「ひぃ・・・子供たちが殺されちゃう。降参します。降参」

 新野さんは審判に手を挙げ、降参していた。

「勝者”星宿高校空手部チーム”。これでドッチボール大会の優勝は”星宿高校空手部チーム”となりますおめでとうございます」

 審判の判定を見て、主催者が勝者を言い渡す。

「ババアども跪け」

 とリサは新野さん達奥さん方を罵り続けていた。新野さんは怯え続けていた。マジでやり過ぎだよ。

「リサ、試合は終わったよ」

 と僕はリサに近づき、体をゆすり正気を戻させる。

「あれ?どうしたの、智樹?空手部のみんなも」

「リサさん、ありがとうございます」

 飯田率いる星宿高校空手部チームは頭を地面にこすりつけ土下座をする。飯田は涙を流し、喜んでいた。

「本当にありがとうございます、俺たちにとってあなたは天使です」

 まぁ、天使なんですけどねと僕は心の中でツッコむ。

「あれ?ドッチボール勝ったの?」

「覚えて無いの?」

 僕はリサに耳打ちをし、意識を失っている間のリサの行動を教えた。リサはみるみる顔を赤くし、顔を手で覆う。

「見てたの?」

 リサは指の隙間からちらっとこちらを見て聞いてきた。

「当たり前だろ、見てたんだし。まぁ、君が本当に切れる天使じゃなくて悪魔なって怖いっていう事は解った。」

 僕はさらっと答える。

「じゃぁ、ここにいる全員の記憶を全部消すわ」

「ダメダメダメ・・・そんなことした優勝も無効になったちゃう。どうしよう」

「ドラえもんの秘密道具『地球破壊爆弾』使うしか無いわね」

「いやいやいや。記憶どころか、全人類消滅しちゃうから」

 リサは混乱して、訳の分からない事を言い出す。僕はリサを押えながらあることを思いついた。

「あ、そうか。リサ。君の記憶だけ消せばいいじゃないか?」

「はぁ、何言ってるの」

 僕は勢いでリサに適当な事を言い上手いこと言う。こんな事で地球破壊されちゃ本当に困る。あーだこーだと長々と説明しリサは一応頷き、最後には納得してくれた。でも、この説得もう一度やれと言われても出来ないな。


   5分後・・・


「何で私此処にいるの?」

 リサは自分で自分の記憶を消して、ドッチボール大会の表彰式に向かう。飯田はこの商店街で使用できる商品券10万円分を手に取り、喜んでいた。飯田は部員たちと部活帰りに商店街で売っている物を買い食いする為に欲しかったそうだ。

「あー、後。リサさんにもこれを。あなたがいてくれなかったら、この勝利は無かった。ありがとうございます」

 飯田はリサに10万円のうち、1万円分の商品券をリサに渡す。

「なにこれ?」

「いいから貰っておきな、この商店街の本屋で漫画買えばいいじゃないか」

「あぁ、そうなの。ヤッター。飯田君ありがとう」

 リサは笑顔で言った事で飯田の顔は赤くなる。

 飯田にはさっきまでの事は絶対リサには言わないで空手部員含め、言い聞かせた。           

 飯田は「わかった」と頷き、飯田は空手部員全員に

「これは絶対だ」

「押忍っ‼」

 と空手部部員たちは声を合わる。

 表彰式は滞りなく終わり、ドッチボール大会は観衆が見守る中、幕を閉じた。

 その後、商店街にはこんな噂が立っていた。

 ドッチボール大会に胸のことを気にする悪魔のような天使が現れたと。



 


 

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