第21話 ご注文は・・・

「ご注文はお済ですか、お嬢様?」

 私は東雲亜里沙。私は今、可愛いメイドさんに見つめられている状態で緊張しているのだ。メイド喫茶”天使の休息”にはいっぱいメイドさんが接客している。

「い、いえ。まだ決めかねてて・・・」

 私は緊張し固まってしまっていた。しかもメイドさんを直視できずにいた。目の前にいる男の子はメニューを淡々と見ていて「すいません。このホットココアを一つ」と注文していた。その男の子は芳賀康太。私の彼氏(仮)をしている。

 可愛いメイドさんは芳賀君の注文を受けると「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」と頭を下げ、バックヤードに戻って行った。私はその姿に少し緊張がほぐれた。堂々とし過ぎじゃない、芳賀君?

「どうしたんですか?東雲さん」

「こんなところに可愛いところに来て、堂々と注文できないわよ。緊張するわ」

「只の喫茶店ですよ。店員がメイドさんってだけじゃないですか」

「何か、そういう雰囲気なれないのよね」

 芳賀君はここは只の喫茶店と言っていた。この喫茶店は俗にいうメイド喫茶でメイドさんに奉仕してもらう空間とネットに書いてあった。喫茶店と言うと自分だけの空間でコーヒーを飲み、ゆっくりした空間で読書をしまったりするところだと私は思っている。だから、ここは落ち着けない。

 私は周囲のテーブルを見渡す。男性客ばかりで女性客が私以外一人もいない状態だった。すっごい、アウェイ。何で私はここにいるの?

 私は、元々ここに来る予定ではなかったのだげ、ある人物の誘いでくることになったのだ。その誘った人物がバックヤードから出てきて私の所に来るのが見える。

「いらっしゃい、お嬢様。お坊ちゃま」

「そこはお坊ちゃまじゃなくて、ご主人様では無いですか?」

 私の前に立ち、接客に来ていたのは私のクラスメイトで今売り出し中の地下アイドル春奈凛花さんだった。凛花さんは学校の制服では無く、このお店の店員さんの制服でメイド服を着ていた。メイド服はフリルがいっぱい付いていて、可愛い。だけど、私は着たくない。私にはその制服は可愛すぎる

 芳賀君は凛花さんの接客の言葉に納得していなかったが、凛花さんはそれを無視して私に話しかけてきた。

「今日はありがとね、東雲さん」

「いえ、別に・・・」

 凛花さんは言葉を言いながら、私の顔に顔を近付けてくる。凛花さん、近い、近いよ。私は咄嗟に俯く。

「あははは。ホント、面白いね。東雲さんは」

「当たり前です。揶揄わないで下さい」

「まぁ、ここは私が奢るから二人とも何でも頼みな」

「じゃ、じゃぁ。ホットコーヒー」

「僕はさっき頼んだのですが・・・じゃあ。このオムライスで」

「了解~」

 凛花さんは私たちの注文をメモとると「待っててね。マイハニー」とバックヤードに帰って行く。最後の台詞いらないし、恥ずかしい。

 しかし、凛花さんは可愛いメイドなのに言動が一致していないのサービス業としてはいいのかな?と思ってしまう。

 後になってしまったけど、うちの学校はバイトOKの珍しい学校。何でも、今の校長が幼いころから、汗水たらして働きながら勉強に勤しんで、今の地位を確立した。そこで人付き合いを学び、お金を自らの手で稼ぐ大切さを学んでほしいと言ってバイトがOKになったそうだ。二宮金次郎か。

 凛花さんはバイトをしないとアイドルの活動費や自己のレッスンに回す費用が足りないのでバイトをしていると言っていた。私が「そこは事務所持ちじゃないんですか?」と聞いたら、「うちの事務所は大きくないからお金が無いのよ。だから、自分で移動費やレッスン料出す代わりに、アイドルとしては好き勝手やらせてもらってるの」と凛花さんは言っていた。見た目のギャル容姿と中身のギャップに驚かされる。

 そう思っていると芳賀君がさっき頼んだホットココアが運ばれてきた。

「お待たせしました、ご主人様」

「ありがとうございます」

 芳賀君がホットココアを受け取るとフーフーと冷ましながら飲み始めた。猫舌かな。

「はー。やっぱり疲れた体には糖分が必要ですね。小説ばかり書いていると・・・」

 芳賀君が愚痴を溢しながら、ホットココアを飲んでいると他の席からコップの割れる音がしてきた。

「止めて下さい。ご主人様」

「おねーさん、可愛いね。この後、一緒にご飯でもどう?」

「困ります。ご主人様」

 その声が聞こえた目線の先には可愛いメイドさんを茶髪でチャラそうな男性が口説いていた。うわぁ、嫌だなぁ。こういうのは関わらないのが一番。

 目の前でホットココアを飲んでいた芳賀君が急に席を立ち、荒事を立てている茶髪の前に立ちはだかる。ちょっと、いきなり何やろうとしてるの。

「嫌がってますよ、店員さん」

「何だ、お前。誰だよ」

「僕はここのお客さんです」

 可愛いメイドさんは芳賀君が入ったことで拘束を解かれ、そそくさとバックヤードに入って行った。メイドさんを助けたのか。でも、ここまでは良いとしてこれからどうするのよ、芳賀君。

「行っちゃったじゃねーか。メイドさんが」

 茶髪はメイドさんの後ろ姿を見て残念がっていた。そして、当然のごとくその怒りの矛先は芳賀君に向けられる。

「あなた、お酒臭いですよ。酔ってるんですか?」

「うるせーな。今、さっき彼女にフラれてきたんだよ」

 芳賀君の言った通りお酒で少し酔っているみたい。顔が赤くなっているのが見える。傷心によるやけ酒・・・これ、小説のネタに使えるかもと私が思っているとバックヤードから凛花さんが颯爽と出てきた。凛花さんは芳賀君と茶髪の中に割って入ってきた。

「ご主人様。どうかなさいましたか?」

「こいつがメイドさんとの中を邪魔してきたんだよ」

「ここはあなたの思うお店ではないです」

 芳賀君はメイド喫茶での茶髪の行動を頑なに否定する。茶髪は「あぁ、もう。ぅるっせいな」と言い、凛花さんを押しのけ、芳賀君を突き飛ばす。


 ドスッ


 という音と共に芳賀君は尻もちをついた。「痛たたた。何するんですか」と芳賀君が言ったその時だった。


 プッツン


 何かが切れる音がした。その音の根元はすぐに解った。

「うちの可愛いメイドさんたちに手ぇ出すんじゃねーよ。後、客にもだ。殺すぞ」

「ひぃーーー」

 凛花さんが茶髪の胸倉をつかみ持ち上げていた。凛花さんの豹変ぶりに流石の茶髪も震えあがっていた。凛花さんの目力が凄いし、額の血管が浮き上がっていた。豹変ぶりが半端ないわねと私は感心していたが、芳賀君が心配だったので近づき抱き上げる。

「大丈夫?無茶しないでよ」

「大丈夫ですよ。今のシチュエーションでBL小説が思いつきました。帰ったら書き起こさないと」

 芳賀君は何かを思いついたようで、私に親指を立てて、グッドのポーズ。

「あなた。ホント、タダでは起き上がらないわね」

 私は芳賀君の言葉に呆れていた。しかし、自分もBL小説のネタになるかもと思っていたことに完全にブーメランだと思っている自分がいて、私は何も言えなかった。

 その後の展開が凄かった。

 凛花さんが茶髪を背負い投げで店の外に投げ飛ばす。

「私の女の子達に近づくんじゃないわよ⁉」

 凛花さんはぴしゃりとドアを閉め振り返ると、何事も無かったような営業スマイルで「皆様、どうかなさいましたか?」と店内の人に接客していた。店内にいるお客さんは凛花さんの行動に「何も見ていませんし、何もありませんでした」と首を横に振る。何て訓練されたお客さんなのと私は驚いてしまう。っていうか、Mですか?皆さんは。

「大丈夫?東雲さんの王子様」

「えぇ、大丈夫です。あなたもやりますねぇ」

「アイドルなめてるとケガするよ」

 凛花さんは腕っぷしを見せ、芳賀君に自慢してきた。

「なめませんし、ケガもしません。でも、今日はありがとうございます」

「私の東雲さんを守ってくれないと困るから、頑張って王子様兼ナイト君」

 凛花さんも芳賀君を煽るような言い方をしてきて、案の定言い返す。

「東雲さんはあなたのものではありません」

「東雲さんは私のお姫様なのよ」

「僕のです」

「わ・た・し・の」

 芳賀君と凛花さんは何とも言えないレベルの低い言い争いをしていた。二人の目には火花が散っているのが私には見える。どうしたものか。てか、これ何処の少女漫画?一人の女の子を二人の男の子が取り合う的な。でも、現実の方は女の子なのよねぇ。現実は小説より奇なりよねと私は思う。

 私はこの後、家に帰りこれをネタに小説を書くのであった。


 

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