第20話 これ、ダメ・・・
「これ、ダメみたいですね」
私は東雲亜里沙。夢の中での芳賀君の言葉で目が覚める。
私が何故この言葉で起きたかと言うと夢の中。文芸部員のみんなでBL小説を公募したのだが私の内容があまりにも自分らしからぬ過激すぎた内容で審査にすら通らなく、私以外の文芸部員は一次審査を通り喜んでいる姿があった。そこで私の小説を見た芳賀君の感想が「これ、ダメみたいですね」と言った事が私はショックを受ける。現実で面白いと言ってくれた芳賀君から夢の中でまさかのつまらない発言で起きたのだ。
私は魘されていたみたいで体中汗ばんでいるのがわかった。
大体の人間は夢を見ても断片的にしか覚えていないらしいが、今回の私の夢は凄く鮮明に覚えていた。怖いぐらいに。私は何かの前触れかと考えてしまったが、まだ寝れる時間だったのを確認するともう一度眠りについた。そんなに都合よく、怖い事なんて起きるわけ無いわよねと思う。そして、2度寝が最高だと云う事を今回の件で知ることになった。
次の日
私は一人、黙々一限目の準備をしていた。教室はクラスの何人かのグループが出来ており、朝のホームルームが始まる迄、喋っている。だが、時計を見るとホームルームの時間はとっくに過ぎていた。
「今日は先生遅いわね」
「そうですね。何かあったんでしょうか?」
私は近くで一限目の準備をしていた男子生徒に話しかける。その男子生徒は芳賀康太。芳賀君は同じクラス、部活も同じ文芸部。しかも彼氏彼女(仮)の関係。
だけど、芳賀君は他の男子とは違う趣味を持っていた。
「そうだ。こないだ、母がBL漫画買ってきたんですけど、凄く内容が良く、絵が綺麗だったんです」
芳賀君は興奮気味に私に伝えてきた。そう芳賀君は男子ではあるがBLが好きなのだ。
「あっ。そう」
「今度、貸しますね」
と芳賀君が言った、その時。
ガラガラ
教室の扉が開き先生が入ってきた。クラスの全員が扉の方見るのが見えた。
「おーい、みんな。席に着け。朝のホームルーム始めるぞ」
先生の一言でクラスのみんなは自分の席に戻って行った。先生が教室を見渡し
生徒が席に着いたのを確認すると、先生から意外な一言が発せられた。
「みんな、遅くなってすまんな。急な話、うちのクラスに転校生が来ることになった」
先生のその一言でクラスのみんなはざわつく。それもそのはず、こんな時期に転校生が来るなんて珍しい。時期は2月。バレンタインも終わり学生のイベントとしては卒業式ぐらいしか無い。来るとしても新学期からが多いし。芳賀君も4月での転校だったのを思い出す。
「こんな時期に誰が来たんですかぁ?男、女?」
一人の男子生徒が先生に質問した。
「まぁ、転校生は女子生徒だ」
先生は男子生徒の質問に答える。
男子の反応「おおぉ」女子の反応「・・・」女子は男子の反応に冷ややかな視線を男子生徒に向けていた。私もそれに便乗し芳賀君を見てみると意外にも落ち着いている状態だった。興味なしか、まぁBL小説しか興味ないからねと私が一人納得していると先生が教室の外に声を掛ける。どうやら教室の外の廊下にスタンバイしてるみたいだ。
「入ってきなさい」
先生がそう言うと女子生徒が入ってきた。女子生徒の姿はいかにもギャルですと言わんばかりのミニスカ、ルーズソックスで服装は固められていた。肌は白く、髪は茶色で髪型はおそらくパーマをかけていて頭の上で二つ縛りをし、周りの目を圧倒していた。そして、教壇の上に立ち、自己紹介を始めた。
「どうも~。みんなよろしくぅ。わたしぃ、春奈凛花って言いま~す」
凛花さんは私たちに向けてピースしてきた。先生も凛花さんの行動に呆れていた。今、この時代にこんな典型的なギャルがいたなんて驚きだ。でも、恰好は凄いけど、化粧はほんのりしてるくらいで顔はめちゃくちゃ可愛かった。男子生徒も最初はうわぁって感じだったが教壇で顔をしっかり見て、めちゃくちゃ可愛いじゃんと吠えている。この教室は今、動物園かと言わんばかりの騒ぎっぷりだ。
「まぁ、お前ら落ち着け。春奈凛花はお父さんの仕事の都合で引っ越してきて、この学校に転校になったんだ。仲良くしてやってくれ」
先生が黒板に凛花さんの名前を書く。その後、凛花さんは紹介を受けるとその場で真顔で一礼をする。先ほどのおちゃらけた感じとはまるで違い、教室のみんなも凛花さんの真顔での一礼に驚き、その場は静まり返る。
「・・・・」
私も思ってたものと違った。言葉と行動にギャップがあり過ぎる。ギャルは基本頭が良い方ではないとネットに書いてあったけど、人は見た目で判断しちゃダメね。
「じゃぁ、春奈さんの席はどこがいいかな」
と先生が周りを見渡す。私が凛花さんを物珍しそうに眺めているとホントにたまたまではあるけど凛花さんと目が合った。別にヤバくはないと思うのだけど、私は咄嗟にヤバっと思い目をそらす。
「すいません、先生。わたしあの子の隣がいいです」
何と凛花さんは私を指さし、自分の席を要望してきた。私にクラスのみんなの視線が刺さる。私は周囲の視線に緊張し、挙動不審な行動をとってしまっていた。
「えっ、私。私ですか?」
私は自分を指さしてしまう。どっかの漫画のシーンを自分でやってしまった事を私は後悔した。
「そう、あなたです」
凛花さんは私に近づいてきた。そして私の机には凛花さんが目の前に立ちはだかる。凄い威圧感。私は凛花さんとつい目を合わせてしまう。
「私、あなた好みなの」
「?」
クラスのみんなの頭が言っている意味が分からなく、困惑する。私も同様に困惑した。
次の瞬間、私のおでこに柔らかい感触が伝わった。
チュッ
「ふぁっ?」
私は驚き、いつものごとく声に間の抜けた声が出ていた。それもそのはず、凛花さんが私のおでこにキスをしてきたのだ。先生もクラスのみんなもこの光景に口をあんぐり開け見ていた。教室内の音が無くなり、静粛する。
「な、な、何をしてるんですか」
私は後ずさる。私は凛花さんのまさかの行動に顔を真っ赤にして怒る。えっ!どういう事?私にキス?
「何をって、好きだからしたんだよ」
「qあwせdrftgyふyじこ」
凛花さんは真顔で普通に答える。私は声にならない声をあげる。芳賀君が私と凛花さんの中に割って入ってきた。
「あなたレズの方ですね?」
芳賀君は凛花さんの方に顔を向けると失礼な物言いをしていた。芳賀君いきなり何言いだしてるのとパニック状態。もう私は、どう反応していいかわからず混乱していた。
「そうよ。わたし、女の子が大好きなの」
凛花さんは芳賀君の質問にきっぱり答えた。もう、展開が私にはついていけないと思ってると他の席から雄たけびを上げた者がいた。今度は、何?
「うおおおぉぉぉぉぉぉ。あなたは」
席に座っていた出席番号1番の相田君が立ち上がった。眼鏡をかけたオタクっぽい男子でどちらかと言うと私たち側の人間。陽ではなく陰の物。クラスであまりぱっとしない相田君が叫ぶのを初めて見たから私は驚き引いた。
「あなたは今売り出し中のアイドルユニット”アーデルハイド ハイジ&クララ”のクララ凛花さんではご・ござらんか」
何故、侍語。相田君は凛花さんを指さすと驚いていた。
「えぇ、そうだよ」
『えええええええぇぇーーーーーーー』
「お前らぁ、隣のクラスに迷惑かかるからもうちょっと静かにだな・・・」
凛花さんは普通に答え、またもやクラスのみんなは驚く。先生もほとんど諦めモード、もう勝手にしろって感じで「お前らの気が済んだら、手をあげろぉ。もう嫌だこのクラス」とお手上げ状態で席に着き、涙ぐんでいた。ごめんなさい、先生。
ちょっと待って地下アイドルユニット”アーデルハイド ハイジ&クララ”のクララってこんな子だっけ?と私の頭の中でのイメージは正反対。もっと、クールな感じだったような・・・
「全然、違うよ」
「もっと大人っぽい感じの人じゃなかったか」
クラスメイトは凛花さんの姿が違う事に疑心暗鬼していた。そこにオタク相田君の眼鏡が光る。
「皆さん、彼女の顔に注目してください。彼女の口の下のほくろがトレードマーク」
「そんなの誰でもいるだろ」
「そーだよ」
「皆さん、甘いですよ。僕はほくろの色大きさで分かります」
相田君はどや顔で答え、それに対しクラスメイトは反論した。しかし、相田君はめげずにコアな特徴を教えてくる。いや、同じ陰キャでもそれはキモいよと私は心の中で訴えた。とりあえず同じオタクとしてはその着眼点に私は引く。
「しょうがないな。じゃぁ、これ見てもそう言える?」
凛花さんはカバンの中から化粧道具を出す。凛花が「ちょっと待ってね」と言うとメイクをし出す。私たちは何してるの?と凛花さんの行動を見ていた。
凛花さんの化粧が終わる。凛花さんは縛っていた髪をほどき、櫛を入れ髪をとかしていた。
「あれ?」
「出来たよ。ほら」
凛花さんが化粧が終えた顔をクラスのみんなに見せてきた。
「あああああぁぁぁぁぁぁ」
「ほんとだ。クララだ」
「うわ、マジすげーーーー」
「近くて見ると可愛い」
相田君を筆頭にクラスの男子のテンションが上がりまくる。女子生徒も凛花さんの変わり様に驚いていた。化粧ってホントに怖い、まさに化け。あの凛花さんは私もテレビやネットで見たことある顔だった。芳賀君もなるほどと感心していた。私も素で「本物だ」と感心してしまった。てか、ちょっと待って、ここで私は一つの疑問が生まれる。
「ちょっと、レズって告白しちゃってるけど、アイドル的にそれはいいの?」
私は気になり、凛花さんに質問する。
「問題はござらん。クララさんはデビュー当時から女の子が好きと公言しているでござる。ある意味それがクララさんの売りになってるでござるよ」
しかし、その理由は凛花さんではなく、相田君が眼鏡を光らせ答えてくれた。あんたが答えるんかいっと私がツッコミを心の中で入れていた。私はこの心のツッコミで冷静になる。
「東雲さん、落ち着いて下さい。まだ、慌てる時間ではありません」
「いや、私落ち着いてるし。それに素数は数えないわよ」
芳賀君がなぜか私が落ち着いていないように見えていたみたいで、芳賀君が一番焦っていた。何か、この流れ前にもあったような・・・
「へぇ、東雲さんって言うんだ」
「はい。何でしょう」
「あのさぁ。東雲さん、私の彼女になってよ」
凛花さんは自分の顔を私の顔に急接近してきた。私はこれはヤバいと思い、後方へジャンプした。私は額からは汗が噴き出す。
「東雲さんは僕の大事な人です。あなたのような方には渡せません」
芳賀君は私と凛花さんの間に入り、凛花さんに敵意むき出しの目で睨みつけた。
「あなた。誰、何者?」
「僕は芳賀康太。東雲さんとはホモ友達です」
「うあわーーー。誤解を招くような言い方しない」
私は急いで芳賀君の口を押さえる。クラスのみんなも芳賀君の言っている事に理解していない様だったので、まずは安心。しかし、例のごとく相田君だけは「ほぉ」と眼鏡を光らせ、芳賀君の言葉に納得しているようだった。言っている意味が分かったのだろうか、言わないで欲しい。
「た、只の文芸部の部員繋がり。友達よ、と・も・だ・ち」
私は友達を強調し、凛花さんと教室のみんなに聞こえるように答えた。
「ふ~ん」
凛花さんは何か腑に落ちない表情だったが変な事を言い出した。
「じゃぁ、私も東雲さんのいる文芸部入る」
「はぁぁぁぁぁぁぁ?」
私は、凛花さんの言葉に絶叫した。何でそうなるの?私には意味が分からなかった。芳賀君は凛花さんの言葉に凛花さんを睨みつけていた。
その日の一限目は凛花さんの自己紹介で授業が出来ず、先生の悲しい涙を拭っているのが見えた。
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