第18話 雨降って・・・

 雨降って地固まる

 

 意味・・・揉め事など悪いことが起こった後は、かえって基盤がしっかりして良い状態になることの例え。

 誰がこの発想を考えたんだろうと私は自室の窓を眺めながら物思いにふけっていた。窓の外はしとしとと雨が降っていた――――――


 前日の部室での事


 私、東雲亜里沙はBL小説を文芸部の部室で考え、PCに向かいタイピングを叩く。

 しかし・・・

「あぁーーー、進まない」

 私はスランプ状態に陥っていた。自分の書いている文がどうも納得いかない。書いては消すの繰り返しだった。小説でもそうだけど起承転結を私は大事にしてる。だから前後の話がうまく繋がらないと気に入らない。今までは意外とすんなり書けてたのに。私は頭を掻きむしり、くしゃくしゃになる。

「どうしたんですか?」

 男子生徒が私に声をかける。

「あぁ、芳賀君。今、私スランプなのよ。何かこう。BL小説の神様が下りてこないのよ」

「・・・そんなことで悩んでるんですか?」

 私はその言葉で少しムっとなる。この男子生徒は芳賀康太君。同じクラスで文芸部に所属しているBL好きの高校生。しかも、高瀬部長の無茶ぶりで彼氏彼女(仮)の関係でなんだかんだでその関係が続いている。

 だがここで初めての亀裂が生じる。

「あぁっ⁉(威圧)」

 私は芳賀君の言葉に対して威圧的な反応で返した。

「だって、BL小説は楽しんで書くものですよ」

「そんなのわかってるわよっ⁉でも、思いつかないものは思いつかないのっ‼」

 芳賀君は私に当たり前のことを言ってくる。でも書けないのだ。私は芳賀君に書けないイライラで当ってしまった。その声で周りの文芸部員もこちらに振り向く。高瀬部長は私の声でこちらにやってきた。

「どうしたんだ?東雲、芳賀」

 高瀬先輩は私たちに聞いてくる。私は今までBL小説を書くのにいろんなことが湯水のように浮かんできたのにここへ来てそれが無くなり、その事でイライラして大声をあげてしまった事を伝えた。

「高瀬先輩。スランプを脱却するにはどうしたらいいんですか?」

 私は高瀬先輩に訴えた。高瀬先輩は私の訴えに頭を悩ませる。この悩みは一人では解決できないと思ったからだ。高瀬先輩もまだ味わったことのない事だったので自分だけではアドバイスできないと言い、高瀬先輩は文芸部員にも聞くことにした。

「みんなはどう?スランプになったらどうしてる?」

「そうですね・・・」「私は逆に書きまくります」「私は何もしません」

 文芸部員は各々のスランプ時の行動を言ってくれた。私も参考にさせてもらいメモを取るがいまいちピンとくるものは無かった。そこに芳賀君が発言してきた。

「全てはBL小説に繋がってるんですね」

 何を言い出すの?と私の頭は芳賀君の言葉で混乱。混乱した頭で返した言葉は私も無茶苦茶な返答になった。

「繋がってないし。もう、私はBL小説書くの辞めるっ‼」

 私は断言する。

「どうして止めるんですかっ。BL小説を書いて下さい」

「あなたには関係ないわ。これは私の事。止めるのも自由でしょ」

 私の発言に芳賀君の待ったがかかった。しかし、私は断固拒否。

「まぁ、東雲も芳賀も落ち着け。人間、誰しもスランプはある。一旦筆休めもいいじゃないか?なぁ、芳賀」

 高瀬先輩も私たちの言い合いに仲裁に入る。私の目は本気だ。

「ダメです。僕はBL小説を書いている東雲さんが好きなんです」

「もういいわ。それなら彼氏彼女(仮)の関係は今から無しにしましょう。いいですね、先輩。もう、この関係は無しでいいですよね?」

「まぁ、そういわずに」

高瀬先輩は消え入りそうな声で「この関係が周りから見てて面白いのに・・・」とぼそぼそと言っているのが私には聞こえた。私の中でその言葉が沸点を超えてしまった。

「どうせ、BL小説書く為にこの関係になったんだから、もういいですよね。もう自分で書けてるんだし」

「それはそうかもしれないが・・・」

高瀬先輩は困り、私に何も言えずにいた。私は今までにない勢いで「帰ります。お疲れ様でした」とみんなに挨拶をして、部室を後にした。


 私は家に帰り、制服から部屋着に着替え、ベットに寝転がる。寝そべる自分の頭に手をかざす。

「知ってる天井・・・・・・怒ってしまった」

 私はさっきまでの学校での態度を振り返っていた。今までこんなに怒ったことは無かった。しかも、芳賀君に当たるような形になってしまった事を後悔し反省する。

 私はベットの上に置いたスマホを手に取り眺める。

 そこには高瀬先輩、文芸部のみんなと芳賀君からの励ましのメッセージが入っていた。

【高瀬先輩:さっきはすまない。また、書けるようになるから気にしない事】

【文芸部のみんな:待ってるよ~(*^▽^*)元気出して】

【芳賀君:BL小説を一緒に読みましょう。書きましょう〔懇願〕】 

 私はスマホの画面を見て思った。芳賀君はぶれないわね。でも、私は思う。ちょっとBLから離れるのもありかもしれないと。

 私はその日、晩御飯も食べずに眠ってしまった。


 その後・・・


 私はあれから文芸部の部室へ行くのを止めていた。教室でも芳賀君との会話も無い。授業後は直ぐ帰宅を繰り返していた。自ずと、文芸部の教室には足が遠のく。

 そんなある日の事。学校から帰る際、下駄箱で靴を履き替え外へ出ようとした。しかし、玄関に人だかりが出来ていて、前に出ることが出来ない。そして、この人だかりの理由が分かる会話が聞こえてきた。

「マジかよ。雨降ってんじゃん」

「えーー。雨、最低」

「うわっ。傘持ってきてないよ」

「まだ本降りじゃないから、濡れて帰るしかない」

 玄関の外は雨が降り出していて、私も今日は傘を持ってきていなかった。だって、テレビの天気予報でもネットの天気予報でも雨降り出すのは夜だから夕方まで雨の心配は無いと言ってたし、書いてあった。

 雨はまだ降り出したばかりだったので、他の生徒は傘もささずに雨に打たれながら帰るものがほとんどだった。でも濡れたくない私はスマホで今現在地元の天気を確認し、一時的な夕立に過ぎないから少し待てば晴れますと言っていたのを確認。雨雲レーダーでも少し雲がかかっていて時間が過ぎれば晴れる予想だったので、少し待つことにした。

 しかし、雨は強くなるばかりで、待てども待てども雨は止まなかった。周りの生徒は雨の降る中、傘もささずに走って帰っていく。うぁ、みんな凄いな。

「このアプリ壊れてるんじゃないの」

 私は愚痴を溢す。下駄箱の周りにいた大体の生徒は雨が止むのを諦め、濡れながら走って帰っていく。私は只、それを眺めていた。そして、下駄箱周辺は私一人になる。

「私、帰り損ねたわね」

 私は一人途方に暮れる。降り始めの時、帰っておけばと後悔する私。ここ最近、後悔してばっかだ。どうしよう、もう濡れてもいいから帰るかなと考えていたその時だった。

「一緒に帰ります?」

「⁉」

 私は驚き、声のする方に振り向く。そこには傘を持った芳賀君が立っていた。

「何でここにいるのよ」

「嫌、何でここにいるって僕。ここの生徒ですし」

 この返し、数日は話してなかっただけなのに私は妙な懐かしさを感じた。

「それはわかってる。部活は?部活はどうしたの」

「あぁ、部活ですか。今日、高瀬部長が用事があるそうで急遽部活は休みになりました」

「あぁ、そうなんだ」

 私はその言葉を聞き納得した。大体、文芸部は授業終わりの2時間は学校がある限り、部活動をやっている。休みになるとしたら、高瀬先輩が用事の時だけ、休みになる。それも不定期で。

「傘あるなら、一人で帰ればいいじゃない」

 私は芳賀君の提案を突っぱねた。自分でも思う。つくづく私は面倒くさい女だなと。

「僕はあなたと一緒に帰りたいんです」

 芳賀君は顔を横に振る。

「だから、彼氏彼女(仮)の関係はあの時、解消したでしょ」

「僕も気付いたんです。僕はあなたがいないとBL小説を書けなくなったことを」

 芳賀君の目は真剣だった。

「何、言いだすのよ」

 私は芳賀君の台詞にびっくりし、周囲を見渡す。誰か聞いていないか確認したが運よく誰も聞いていない状況。私は無い胸をほっと撫でおろす、おいっ。一人乗りツッコミはまぁいいとして。

「僕もBL小説を書いていたんですが筆が乗らないんです」

 芳賀君の言い分はこうだった。書けはするのだが何か違うと消して、それを何度も繰り返すと言っていた。私と一緒だった。

「言いたいことは分かるけど、私もスランプ気味だし・・・」

「お願いします」

 芳賀君はいきなり私に土下座してきた。私はさらに驚き、周囲をきょろきょろ見渡す。これじゃ、私が芳賀君を虐めてるみたいじゃない。

「ちょっと止めて。止めてよ、芳賀君」

「止めません。僕の小説には東雲さんの感想が必要なんです。読んでくれるまで止めません」

 私は何としても土下座を止めてもらうよう、力づくで顔をあげさせようとするが上がらない。芳賀君は頑として土下座を止めようとしない。

「どうして、そこまでするのよ」

「最初はいい作品を作るために頑張ってました。それに加えあなたの叱責が怖かったのですが段々とそれが無いと書けなくなりまして・・・」

「それ、・・・・・・・・・私は芳賀君の開いてはいけない扉を開いてしまったみたいね。ごめんなさい」

 私は芳賀君の言葉に反省する。今まで怒り過ぎてはいけなかった。

「それと前にも言いましたけど、小説読んでる時書いてる時の東雲さんの顔を見るのが好きなんです」

「あぁ、そうだったわね」

 私は思い出す。最初の頃、芳賀君にそんな事言われて、恥ずかしかった記憶が蘇る。

「だから、別にあなたが書かないでもいいです。僕の目の前で本を読んで、僕の小説にダメ出しして、叱ってください」

 それ何てプレイ。私、Sじゃないわよ。

「それ、私がやるとまた文芸部内で変な噂が・・・」

「お願いします。あなたの言う事何でも聞きますから」

「⁉」

 私はもうこれ以上芳賀君が何を言い出し、何をするか怖くなってきた。その内、この場で服を脱ぐんじゃないの?と思ってしまう。

「分かった。分かったから、文芸部に行って芳賀君の小説読む。それでいいでしょ」

 芳賀君は私の言葉で顔が悲しい顔から満面の笑みへと変わる。ホント、こういうとこ犬みたいで分かりやすい。

「読んでくれるんですか?」

「読む。読むわよ。でも、まだ書かないわよ。」

「はいっ⁉それだけでいいです」

「はい、顔上げてもう帰るわよ。こんなとこ見られたら嫌だし」

 私は根負けし、芳賀君の小説を読むだけの条件で文芸部の部室に行くと伝えた。私はそれを伝えると足早に靴を履き帰る準備をした。芳賀君も私に続く感じで靴を履く。私は玄関の外に出て、雨が降っていることを確認。

「芳賀君、傘」

「はいっ!」

 芳賀君は私の声に合わせ傘を開く。バサッと音を立て傘が開くと傘の右に芳賀君が入り、私が左に入る。その状態が完成すると雨の中、私と芳賀君は一歩を踏み出し帰ることにした。

 その後、私は文芸部の部室に行くようになる。BL小説はまだ書けないけど。私は芳賀君のBL小説を読み、ぼろくそに酷評した。でも芳賀君の顔は満面の笑みがこぼれていた。怖いよ。

 あの雨が無かったら私はここに来ていなかっただろう。

 正に雨降って地固まるである。まぁ、地が字かもしれないけど。

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