第15話 いつもの・・・

 いつものごとく、私、東雲亜里沙は授業終了後、文芸部の部室に向かう為、階段を上がっていた。冬休みも終わりいつもの学校生活に戻っていた。

「きゃーーーーーーー」

 ある女子生徒の悲鳴が私が上がっている階段まで聞こえてきた。

 私はその声する方に上がり、急いで教室に入って行く。教室はまさかの文芸部の部室の中からだった。私は扉を開けるとその光景に目を見開く。

 その光景は一人の女子生徒が倒れており、文芸部で2年の佐々木舞さんが立っていた。黒縁眼鏡で黒髪おさげの女子生徒。見た目がザ・文芸少女でか弱そう、守ってあげたい感じ。先輩だけど。

「東雲さん」

 佐々木さんは私に飛びついてきた。佐々木さんは震えていた。

「私が部室に入ったらこんな状況で・・・」

 私は現場の状況を詳しく確認しようとしたその時だ。

「どうしたんですか?」

 息を切らして部室に入ってくる芳賀康太君の姿だった。芳賀君は部室の状況を見て驚愕する。

その状況は女子生徒が倒れていて、その近くにはBLの同人誌が落ちていた。顔の傍には血だまりがあった。テーブルの上には白い謎の液体がまかれていた。何の液体だろうと私が思ったその時だった。

 ペロッ!

「こ、これは」

 芳賀君がその白い液体を人差し指につけて舐めたのだ。あなたの思考どうなってるの。

「舐めちゃダメでしょ。もし、毒物だったらどうすんのっ」

「これはコーヒーフレッシュですね」

「青酸カリとかの毒物だったら、死んでるわよ」

 私は頭を抱える。とりあえず、私は倒れていた女子生徒に声をかける。

「大丈夫?」

「大丈夫です、これをお願いします」

 私に女子生徒は落ちていたBLの同人誌を渡してくれて力尽きた。床についていた血は女子生徒の鼻血だった。顔を見てみると鼻から血が少量ではあるが流れていた。女子生徒は気絶したようだ。そのBLの同人誌はある高校生探偵のBL本だった。これは少年漫画で高校生探偵が小学生になって事件を解決する人気長寿マンガのBL 本だ。しかも、主人公と関西弁のライバルのカップリングが多い。

 私はその女子生徒をそっと床に寝かせ、私はBL本の内容を確認する。案外、この女子生徒には刺激が強かったみたい私もちょっと来るものを感じた。芳賀君はその女子生徒に手を合わせていた。

「勝手に殺さない。気絶してるだけよ」

「これは事件ですね」

 芳賀君がいきなり変な事を言い出した。

「これを見てください」

 芳賀君は机の上にあるコーヒーフレッシュを指さした。

「コーヒーフレッシュがあるのに対になるコーヒー無いんですよ」

「学校なんかにコーヒー持ってくる子なんていないでしょ」

「まだ、コーヒーの香りがこの机周辺に微量ではありますが残っています」

 私は芳賀君の言っていた机周辺を嗅いでみた。確かに微量ではあるけどコーヒーの香りは残っていた。

「恐らく、犯人は魔法瓶の水筒にコーヒーを入れて持ってきていたのでしょう」

 芳賀君の推理はこうだった。

 犯人はおそらくここでBL本をコーヒーを飲みながら読んでいた。それが誰かに見つかってしまいそうになり、そのタイミングがコーヒーにコーヒーフレッシュを入れようとした時に焦りこぼしてしまう。そのまま犯人は慌てて逃げたのはいいのだけど。コーヒーの魔法瓶だけ持って逃げて行っしまった。そして、BL本だけが残りうちの女子部員がそのBL本を読んで興奮してしまい、鼻血を出して、この場に倒れたという推理だった。

「犯人はこの中にいます。僕のピンク色の小さな脳細胞は活動を始めました」

「犯人ていうか、佐々木さんしかいないよ。どっかの名探偵の脳細胞より雑念多すぐる。その色だと推理できないでしょ」

 芳賀君はネタをぶち込んできた。それを言うならピンク色じゃなくて灰色でしょ。その色だと卑猥な考えしか出来なさそうなんだけどと私は思う。しかし、あながち芳賀君のこの推理は当たってそうだけど、何処から逃げたのだろう。私は周囲を見渡すが窓もドアも閉まった状態の正に密室状態だった。

「佐々木さんはここに来たときはこの娘以外、誰かいた?」

「私が見た時は、この娘以外誰もいませんでした」

 佐々木さんは首を横に振る。私は「そっか」と言うともう一度、教室を見渡す。取りあえずドアや窓はしまっていることは再度確認できた。もしいるとなれば、準備室のドアの向こう。この教室は本来、家庭科で使う道具がしまわれている準備室が存在している。そこには裁縫道具やアイロンなどの保管してある部屋だ。

 私と芳賀君は佐々木さんを現場に待機してもらう形で、奥の準備室へと向かった。私が前に出ると芳賀君が制服にしがみ付いて準備室へと進んでいく。これ逆でしょと私は思ったがとりあえず私たちはドアの前に立った。芳賀君は私の制服を掴む手に力が入るのが分かった。

「ここにいることは分かっています。出てきてください」

 芳賀君は私の後ろに隠れてドアに向かって言い放つ。腰引けてんじゃない。

「私の後ろに隠れて、言うんかい」

「僕は幽霊は怖くないんですが現実の人間の方が色々な意味で怖いんです。現実は小説より奇なりっていうじゃないですか」

「あ、そうだね。」

 私も芳賀君の言葉にそれはあるかも納得してしまった。見えても危害を与えない幽霊より見て触れる人間の方が襲ってくる方がはるかに怖い。とりあえず私はドアに手をかけ開けることにした。私の首筋には怖さで首筋には汗が流れる。

 いつものドアであるのだけれども、今回開けた時は重く感じた。

 私はドアを開けると隙間から覗き、「誰かいますか?」と声をかけた。しかし、中には誰もいなかった。

「いないわよ」

 私は芳賀君に報告すると芳賀君も室内を確認する。私はほんの少しほっとする。

「おかしいですね。ここに隠れていると思ったんですが」

「そんなありきたりな」

 私がそう言ってると佐々木さんが悲鳴を上げ、私にしがみ付いてきた。私が「どうしたの?」と聞くと佐々木さんが部屋の奥にあった掃除道具入れのロッカーを指さしていた。サイズもどこにでもありそうなロッカーだった。

「あのロッカーが動いたんです」

「あのロッカーが?」

 私がロッカーをじっと見ていると

 ガタッ

 と動いたのが見えた。

「ほらね」

 佐々木さんが同意を求めてきた。確かにあのロッカーには何かが入っているのは分かった。芳賀君も佐々木さんの言葉を聞いていたようで、同じロッカーをじっと見ていた。

 私と芳賀君は恐る恐るそのロッカーに近寄ってみる。そのロッカーは掃除道具用に使用されている物だった。確かにサイズ的に人が一人隠れるスペースがあると思われる。しかもそのロッカーからは微かにコーヒーの香りが匂った。「これは匂いますね」とどや顔で芳賀君は言っていた。私はどっちの匂いだよとツッコミそうになる。日本語って難しい。

「犯人はあなたですね。出てきてください」

 芳賀君が威勢よく言ったが私の後ろに隠れている。またか。

「開けないのなら、こちらから開けますけどいいですね」

 と芳賀君が言うと私に頼んできた。お前が自分でやれと思いつつ、私が開けようとしたその時だった。

 バタンッ⁉

 ロッカーの扉が勢いよく開くとその中からでんぐり返しである女子生徒が出てきた。

「とうとう見つかってしまいましたね。探偵さん、ワトソン君」

「誰がワトソンだ」

 私は反論した。その声の正体は料理研究部の植田さんだった。彼女の名前は植田奈津子さん。料理研究部員で、私の恋敵だ。芳賀君の事が好きでちょいちょいちょっかいを出してくる。

「匂うわね」

 先ほどのコーヒーの香りが植田さんから香っている。その右手には蓋の開いた魔法瓶を持っており、制服にスカートに黒いしみがついていた。あっ、察し。

「やはり、あなたが犯人ですね。植田さん」

「芳賀君の推理って、推理じゃないよね。てか、犯人いないし、只の自爆でしょ」

 私は透かさずツッコむ。しかし、芳賀君はノリノリで私の言葉を聞いていない。

「私は怪盗キットカット。あなたのBL本を頂きに参りました」

「あなたは植田さんでしょ」

 植田さんは右手の魔法瓶で顔を半分隠して、ノリノリで喋っていた。隠れて無いけどね。私がツッコミを入れても二人の寸劇は続く。しかも、このBL本は恐らく植田さんの所持品だと私はこの言葉で確定。もう駄目だ、この二人何とかしないと・・・二人の茶番を見ているとイライラしてきた。私の頭の中で何かがプツンと切れる音がした。

「あなた達、ちょっとそこに座りなさい」

 私は声を張り上げ喝を入れる。怒り心頭だ。その声に二人は驚き私を見てきた。佐々木さんも流石に私の声にびっくりし、おそらく顔が般若に見えたのだろう後ずさるのが見えた。二人が私を怖がっているのが分かった。

「はい、二人。そこに座る」

 私の命令にササっと二人は従い、正座をしていた。

「あのね、あなた達。茶番が過ぎるわ」

 私は二人に対して、怒り、叱った。事の発端を芳賀君の推理ではなく、まず植田さんに私は問い詰めた。

 植田さんの言い分はこうだった。彼女は2.5次元オタクのBL本が好きだったが、腐レンドから2次元のBL本もおすすめだよと言われ貸してもらった。しかし、内容があれな事もあり、表立って読めるところが学校には無い。でも、この文芸部の部室ならみんな腐ってるから気兼ねなく読めると思い一人で読んでいた。おい、言い方。

けど、今日に限って部員以外の人が入って来てしまった。植田さんはBL本を読みながらティータイムしていたタイミングだったから慌ててしまい、コーヒーとコーヒーフレッシュを溢してしまった。溢してしまったものを片付ける事もBL本を持っていくこともせず、コーヒーの入った魔法瓶だけ持ち、ロッカーに身を潜めた。そして、現在に至ると言っていた。

「だからと言って罪もない一般市民を巻き込んじゃダメでしょ」

「ごめんなさい」

 植田さんは土下座で私に謝ってきた。芳賀君も自分の推理が当たっていて喜んでいたが、私がまたも喝を入れる。

「芳賀君も芳賀君で探偵ごっこの真似事するんじゃないの」

「すいません。最近、母に勧められて探偵もののBLを読んでいたら、ハマってしまってついマネてしまいました。ごめんなさい」

 私の怒りに触れたことを理解し、謝ってきた。てか、本家じゃなくてBLの方でなの?と私は思った。その場にいた佐々木さんと倒れてアホな事件に巻き込まれた

女子生徒に私は謝るように芳賀君と植田さんは頭を下げた。

「本当にこの馬鹿なことに巻き込んでしまって、ごめんなさい」

 私も謝ることにした。最初、私も芳賀君の茶番に付き合ってしまった事を反省する。

とりあえず、芳賀君に倒れている女子生徒を保健室に運ばせ、植田さんと私ははコーヒーフレッシュで汚れているテーブルと床の鼻血を掃除をやることにした。しかし、植田さんが2次元のBLには全くと言っていいほど興味が無かったのに何故読んでいたのかが気になった。私と植田さんが掃除をしているうちに、芳賀君が女子生徒を保健室に運び、部室に戻ってくるのが見えた。少し、ほっとする。

「そういえば、何で植田さんは2次元のBL読んでたの?」

「最近、昔のドラマで実写になってたものを見て、探偵ものが気になって・・・」

 私はその事と聞いて考えた。恐らく、読んでた名探偵コ〇ンかなと私が思っていると意外な答えが返ってきた。

「金〇一耕助の犬神家の一族ですね。〇坂様がかっこよくて・・・」

「まさかの、そっちなの?てか、実写の孫の方じゃないのかい」

「はい、金〇一と言えば耕助ですよね・・・」

 私は不意を突かれた。まさか、孫の方の話だと思っていたのだけど祖父の話が出てくるとは思わなかった。

「じっちゃんのナニをかけるんですよね、確か?」

「かけないわよ。しかも、それ孫の名台詞で『じっちゃんの名にかけて』よ」

 女の子が何言ってるの。私の頭は混乱してきた。祖父の話をしてるのかと思えば、孫の話をしてるし、どうなってるの植田さんの頭は。

「まぁ、いいじゃないですか。真実はいつも一つって言いますし」

 女子生徒を運び、戻ってきていた芳賀君がどやっとした顔で言う。何を言い出すの、芳賀君は。

「てか上手い事言ったつもりかもしれないけど、上手くないし。話勝手にまとめない」

 私はどうすればいいから、解らなくなり混乱してしまう。その場にいた佐々木さんは驚き教室から出て行ってしまった。ごめんなさい、佐々木さん。

 その後、佐々木さんは教室を出て行った理由がすぐに解った。佐々木さんは部活の顧問の毒島先生を呼んできていた。顧問と言っても部活を掛け持ちの顧問をやっていて文芸部にほとんど顔を出さない先生だ。

 今日はたまたま、文芸部の高瀬先輩に渡したい書類があったようでこの文芸部の部室に向かっていたようだった。佐々木さんは毒島先生がここに来るまでにここで起こった事態を説明していた。

 毒島先生はとてもいい笑顔で私たち三人を見ていた。何か嫌な予感がした。怖いぐらいに・・・

「ばっかもーーーん。あなたたちは何を馬鹿な事をしているの!」

 毒島先生は私が怒った以上の声で私たち三人を叱責した。こんな探偵ごっこで怒られるなんてまさに中二病の馬鹿だと私は反省する。その後私たちは1時間に渡り怒鳴られ、こってり絞られたのだった。



 




 

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