第14話 何じゃ・・・・
「何じゃ、こりゃ」
私はそう言うと目線を上げた。門構えは立派でどこまでも続いて見える塀、そこは大きいお屋敷が見えていた。門の横には今まで見たこともない豪華な門松が飾られていた。ナニコレ。門の所の表札の名前は達筆で〈高瀬〉と書いてあった。私、東雲亜里沙は今、文芸部のみんなと志藤生徒会長で正月三が日に高瀬先輩の家に来ていた。最初、年末に部活の会話で高瀬先輩から「正月三が日、私の家に遊びに来ていいよ」と言われ来てみれば、これは凄いとしか言いようがない。
「あなた知らなかったの?高瀬さんの実家の事」
私の隣にいた志藤生徒会長が言っていた。私は学校で会う高瀬先輩の事しか知らず家の事はまったくもって謎の存在だった。
「高瀬さんの家は名家で実はお嬢様なのよ。私も聞いてはいたけど、まさかここまでとは凄いわね」
「ホントですか。学校ではそんな事言ってなかったですよ」
「あの子、この家の事がコンプレックスなの。だから、仲のいい人間しか教えてないの」
「でも、志藤生徒会長は高瀬部長と仲悪いですよね?」
ここで私と志藤生徒会長の会話に入ってきたのは芳賀康太。私の彼氏(仮)だ。
「おほん。学校では仲が悪そうに見えるだけだ。実は、私は幽霊部員だが文芸部の部員だ。仲はいい方だと思う」
志藤生徒会長は恥ずかしそうに言っていた。あぁ、なるほど喧嘩するほど仲がいいと言う事か。
うん、知ってた。前に高瀬部長の昔話で私たち聞いてましたし。
ってか、この志藤生徒会長ちょっとかわいい。かまって欲しい感が半端ない。
私とみんなもその時の話を聞いているから反応が薄い。私も同じ反応をする。
「何だ、驚かないのか?」
「まぁ、そうですね」
私が返事を返すと志藤生徒会長はしゅんと寂しそうにしている。いつも怒ったり、叫んだりしたところしか見てなかったけど、こっちが本当の姿かなと私は思った。
私は門の横にあるにあるインターホンを押した。
「どちら様でしょうか?」
スピーカーの向こうからは初老の女性の声が聞こえた。カメラもついているようだから私たちの姿は相手に見えている。
「今日、高瀬先輩の家に招待されている文芸部の部員です」
「お嬢様のご学友ですか。それは、それは、今開けますね」
初老の女性がスピーカーの向こうでそう言うと門が開く。
ギギギ・・・・
門が開くと、そこには日本家屋と奥ゆかしい日本庭園が池で鯉が飛び跳ねているし、正月飾りも豪華だった。何か、飾りに次元が違うものを私は感じた。
「はぁ、凄いですね」
芳賀も驚いている。流石にこれは私も驚くというより、引いてしまうくらいだ。
私たちは石畳を進んでいくと玄関が見えてきた。玄関の前には初老の女性が着物姿で一人立っていた。
「いらっしゃいませ」
先ほどのインターホンで聞いた声の主だった。
「私はお嬢様のお目付け役の梅でございます」
「どうも」
梅さんは私たちに頭を下げると私たちも頭を下げた。
「少しお待ちくださいませ、お嬢様を呼んでまいります」
梅さんは言う事を言ったら、家の中に入って行った。
それから、すぐに高瀬先輩が出てきたのだがいつもは髪をおろしているのだが、髪を結いあげ簪止めており決まっていた。服はいつもの制服姿では見れない着物姿、着物の柄はいろんな花が散りばめられた綺麗なものだった。
こういった柄を描くのって、漫画地獄だよね。小説なら、最初であらかた説明しておけば、読者さんが想像してくれるから助かるけど。
「綺麗」
私とみんなは見惚れていた。志藤生徒会長はというといつも揶揄われているで、逆に「綺麗。馬子にも衣裳ね」と揶揄していた。
「止めてくれ。恥ずかしい。それと志藤・・後で・・てやるな」
「何ですか⁉はしたない、お嬢様」
梅さんは高瀬先輩に怒るとパンッ!と高瀬先輩のお尻を叩いた。
「痛い、梅」
「高瀬家のお嬢様がそんなことを言ってはなりません」
梅さんは高瀬先輩の教育係らしい。これは厳しそう。
「まぁ、まぁ。梅さん」
「そこまでにしてあげてください」
「これは高瀬家の躾でございます‼躾に入ってこないで下さい、皆さん」
梅さんの叱りに私たちは怖気づく。
「その躾、僕が代わります」
芳賀君はいきなり変な言葉を発する。
「一体、あなたは誰ですか?」
「僕は高瀬部長率いる文芸部1年の芳賀康太と言います」
梅さんの睨みに負けない芳賀君の精神は凄い。
「僕と勝負をしましょう。僕が勝負に勝ったら芳賀部長を躾から解放してください。僕が負けたら、僕が躾を受けます」
芳賀君は梅さんに挑戦状をたたきつけた。
「ほぅ。私、梅に何を挑戦するというのですか?」
「バカ、止めておけ。芳賀」
「お嬢様」
梅さんの𠮟責に高瀬先輩は委縮する。
「僕と正月ならではのかるた取りで勝負です」
「なるほど、かるた取りですか。いいでしょう。今日の躾は解放しましょう」
私は、芳賀君に小声で話す。大丈夫なの?と私が芳賀君に聞くと僕は母にかるた取りを鍛えこまれましたのでイケますと言って頼もしかった。
高瀬先輩が私に耳うちをしてきた。
「本当に大丈夫か、芳賀は?実はな、梅は百人一首競技かるたで4段の資格保持者だぞ。私もやったことあるが梅にはついていけない。勝負は歳では勝て無いぞ」
「えっ、そうなんですか?」
「あぁ、偶に百人一首の集いにも参加している。本当に大丈夫か?」
高瀬先輩は芳賀君の挑戦に心配していた。輪t氏もそれを聞いてますます不安になる。
「こちらへどうぞ」
梅さんは私たちを奥の座敷に案内された。そこは畳ばり、16畳で床の間には生け花が置いてあるとても広い和室。何もない空間だけど、お茶や生け花などで使用されると思われる座布団が数個置いてあるだけだった。掃除も行き届いていてとてもきれいな空間だった。
「凄いな」
「凄く広くて綺麗ですね、この部屋」
私たちは語彙力が無い言葉で褒める。
「当たり前です。いつも私が掃除をしております」
梅さんが当たり前ですと言わんばかりの目で私たちを見てきた。梅さんは私たちが座る分の座布団を用意してくれて私たちはそこに座ることにした。
高瀬先輩が読み上げる形で、梅さん、芳賀君が対面で座る。芳賀君は自分が持ってきていたかるたを高瀬先輩に差し出す。高瀬先輩は箱を開けると「んっ?」と顔をしかめる。
「おい、芳賀。ホントにこのかるたでいいのか?」
「はいっ!これでお願いします」
「・・・・わかった。これでお前は勝てるんだな」
「問題ないです」
高瀬先輩は芳賀君に何かを確認してから、高瀬先輩がかるたを並べ始めた。
「は?」
「おい、これ。」
私と部員、それに志藤生徒会長はそのかるたを見て驚いていた。そのかるたは男性の肌色が多い絵をモチーフとしたものだった。その絵の中にはイケメンの男性同士が抱き合っているシーンや男性が男性に壁ドンしているシーンのイラストが描かれていたりと、割と過激なイラストが描かれたかるただった。
「これは毎年、母とやっているBLかるたです。これでかるた取りを覚えました」
芳賀君は自信ありげに自慢していた。何か、いろんな男性を横取りするみたいである意味怖いわね、このかるた。
「このような、かるたがあるとは楽しみですね。殿方の裸を見ながらかるたをするとは。長生きする者ですね」
梅さんもやる気満々だ。
高瀬先輩はかるたを並べ終え、かるた取りのルール説明をする。取った札の多い者が勝ちとすると言い終えるとかるた取りの開始が言い渡された。
「それでは参ります。両者宜しいですか?」
「はい」
「望むところです」
高瀬先輩の合図に芳賀君、梅さんは了承した。二人はかるたを満面無く見るようにかるたを這うように眺めている。
「ロリよりショタコン!」
私たちは高瀬先輩の読み上げに座布団の上で身もだえる。最初で何だこれは?いろはかるたのBL版って事?
パンッ!
「はいっ」
芳賀君が札に手を付いていた。芳賀君が手を上げるとその札には左上にロと書いてありロリよりショタコンと思われる絵が描かれていた。これは酷い。絵的には美味しいんですけど。しかし、芳賀君のお母さん。芳賀君と正月から何てものしてるんですか・・・
梅さんは微動だにしていなかった。これは勝てる?と思って私が見ていると次の句が高瀬先輩によって読み上げられる。
「臭いもの・・」
「ハイィィィィィ」
今度は梅さんが奇声を上げつつ、スパンと札に手を付いた。は、早い。高瀬先輩が全部読み上げて無いのに。しかも、札は正解のクの札臭いものにはふた(BL的な意味で)を取っていた。梅さんの何、この速さ。目つきが怖い。
「は・・・早い」
芳賀君も梅さんの速さに驚きを隠せなかった。芳賀君も「これは自分も本気でやらないと負けてしまいますねと100%の力で行きます」と言ってるけど、私は思う。少年漫画で言うところのこのセリフ、負けフラグが匂うんですけど大丈夫?と私は心配になってきた。そうな事を思っているうちにかるたは進んでいく。
「腐っても鯛(BL的な意味)」
「イケメンに蝋燭」
「念には念を(即売会でのBLグッズに使う資金が少ないと困るから多めに持っていくという意味合いで)」
等々・・・
何かこのかるたの事を聞いていると親近感が湧くのは何でだろう。しかも、この取り札に描いてあるイラストが大体がエロ過ぎていいんですかこれ?って思ってしまうほどのエロさだった。
かるた取りは芳賀君と梅さんの接戦になっていた。高瀬先輩によって読み上げら、互いに取り合い枚数は互角だった。
「やりますねぇ。流石、お嬢様のご学友ですね」
「あなたこそ。僕の母に引け劣らないです」
芳賀君と梅さんの中でお互い強さを認め合っていた。凄いかっこいい場面なのにこれがBLかるた取りなだけで台無し感が半端ないと私は思った。
取る札はあと一枚だった。
「それでは最後の一枚です。これは最後まで読み上げてから、取ってください」
その場に緊張が走る。
「犬も歩けば棒にアナル」
高瀬先輩が最後の言葉を読み上げると芳賀君と梅さんは同時に手を伸ばす。
「あっ、高瀬先輩が鼻ほじってる」
芳賀君がいきなり顔だけ高瀬先輩を向く。
「何を言いだすんだ。芳賀、私はそんなことしていない」
「お嬢様。はしたない」
高瀬先輩はそれを言われ、慌てていた。高瀬先輩は実際そんなことはしていない。それを聞いた梅さんはかるた取りから高瀬先輩に向かう。
「待ってくれ、梅。私はそんなことしていない」
「いいえ、お嬢様」
梅さんは高瀬先輩のお尻を叩こうとしていた。
その時。
「やったー。僕の勝ちだぁ」
芳賀君は最後の札を手に持つと一人喜んでいた。
「は?」
「えっ⁈」
私、志藤生徒会長、梅さん、高瀬先輩、その他部員も意味が解らないでいた。
「どういう事?」
私は芳賀君の意味不明な言葉に思わず質問する。
「あぁ、自分の負けそうな時は相手の気をそらすことをしなさいと母が言っていたもので。なので今のは嘘です」
お前はコマ〇ドーか。私は心の中でツッコミを入れる。
「うわっ、キタナイ」
「お前・・・」
「さいてー」
私、志藤生徒会長、その他部員もドン引きしていた。
「勝負事は綺麗ごとだけではやっていけないとも母は言ってました」
「・・・・」
ちょっとどこから突っ込んでいいか分からなくなる。私は頭の中で納得したい自分がいるけど、納得できない自分もいる。
私は思う。
偶に芳賀君はたまに頭のねじ一本飛んだが発言するよね。
「僕の勝ちです、梅さん。高瀬部長を、解放してください」
「あなた嘘の誘導に惑わされてしまった。私の負けです」
梅さんは負けを認め、高瀬先輩のお尻を叩こうとするポーズを止めた。認めちゃうの、梅さん?えっ、これでいいの?
「高瀬部長良かったです」
「いや・・・・・何か、納得いかないけど。取り合えずありがとうだけとは言っておくわ」
そりゃ、そうですよね。芳賀君の嘘で無実の罪を被らされそうになって、梅さんにお仕置きされそうになったわけですから。
「これで、高瀬部長の躾は金輪際なしと言う事で」
芳賀君がどや顔で言うと梅さんは目を光らせる。
「あの約束は今日の躾においての約束です。だから、明日からの躾はもっと厳しくいきますよ、お嬢様」
言葉というものは難しいものです。芳賀君もどういう事です?みたいな顔をしているけど、これは梅さんに一本取られたと私は思う。流石、年の功。
「何でだ、梅」
高瀬先輩は抗議する。
「この高瀬家にあのような卑猥なかるたを持ち込んだこと秘密にしておきます。それが妥協点です。お母様があれを見たら、お嬢様に発狂して、私より酷い躾をされますがよろしいのですか?」
高瀬先輩は梅さんの言葉に固まった表情になる。
「言ってないんですかお母さんに、高瀬部長がBL好きな事?そんなに怖いんですか?」
高瀬先輩は「言えるわけがない」と首を横にふった。
「もし知られたら、梅の・・・・100倍恐ろしい躾が・・・。考えただけでもぞっとする」
私が高瀬先輩に聞くと、自分の身に何が起こるか想像する高瀬先輩の顔がみるみる青ざめていったのが分かった。
何か、これって。芳賀君が持ってきたBLかるたのせいで高瀬先輩の趣味がバレて、今の自分の置かれている立場がより一層の悪くなったことだよね。
「まぁ、終わり良ければ総て良しですね」
「良くないでしょ」
私は笑顔で人差し指をたてて言い切る芳賀君に透かさずツッコむ。
「むしろ、高瀬部長の今のこの家での立場、悪化してるじゃない。バカ」
「しょうがないよ、東雲。芳賀は悪気があったわけじゃない」
高瀬先輩は観念する。悪気が無いのは余計立ち悪いですよ、高瀬先輩。
「今回の件、お嬢様のご趣味の事は私の胸の中にしまっておきます。だから、お母様には、内緒にしてきますから安心してください」
「本当か?梅」
梅さんは頷いた。
「私もこの遊びを通じて若かりし頃を思い出しました。私もボーイズラというものをお嬢様と楽しみたいと思います」
「えっ!えーーーーーーーーーー」
私たちは驚きの余り叫んでしまう。
「何でまた、梅さんが」
「私の若い時は線が濃くて読んでいて全く面白味にかけていましたが、さっきのかるたの絵を見て最近の絵は線が細くて華奢な男性の恋愛模様が面白そうかと・・思いまして」
私の疑問に少し頬を赤らめ、恥ずかしがる。梅さん・・・ちょっと、可愛い。てか、BLでまた一人老女を沼に引き込んでしまった、芳賀君は恐ろしい子。あの親にしてこの子ありだけど、どんなBL英才教育したらこんな男の子に育つのか私は不思議に思う。
「梅、ありがとう・・・お母様にだけは」
高瀬先輩は泣きべそをかきながら梅さんに縋りつく。私は高瀬先輩のその姿を見て、そんなに怖いんだと察してしまう。
志藤生徒会長は高瀬先輩のその姿を見て、今までのうっ憤を晴らすように後ろを向いて、小さく肩を震わせていた。あぁ、笑っているんだなと私は思った。志藤生徒会長も高瀬先輩に揶揄われてたから、これでちょっと今までのストレスは解消されたのであろう。正月楚々こんなことになるなんて高瀬先輩も思っていなかっただろう。
「梅はお嬢様の教育係です。秘密は守ります」
梅さんは高瀬先輩の頭を撫でていた。
「なるほど、これはまさに腐レンドですね」
「うまくないっ」
芳賀君は得意げに言ったつもりだけど、私はツッコむ。このやり取り後、正月最初の出来事のかるた取りはなんやかんやで終わった。
まさか、高瀬先輩がお嬢様で教育係の梅さんとBL友達になるなんて、私は予想外過ぎて正月から驚くこちばっかり。
今年も何か騒がしい一年になりそうだと私は和室の天井を見上げるのであった。
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