第11話 私たちは・・・

 私は冬休みに突入し、BL小説の執筆に没頭していた。ついこの間までは、期末テストの追試に追われあたふたしていたことが懐かしい。追試はなんとか合格し、晴れて充実した冬休みを満喫していた。

 そんなある日の出来事だった。私、東雲亜里沙は部室で高瀬部長とみんなでBL小説の執筆している時だった。

 彼が言葉を発する。

「そういえば、高瀬部長と志藤生徒会長の関係って結局、何なんですか?」

「あぁ、前の文化祭の言った事か」

 彼の質問にいきなりすぎて私は困惑する。高瀬部長も「ああそれね」という感じで答えていた。

 彼は私と同じクラスの芳賀康太君で彼氏彼女(仮)の関係をここにいる高瀬部長の命令でやっている。芳賀君のBL小説は最近サイトでようやく再生数が上がってきているのも確認済み。最近では芳賀君が本物の彼氏でもいいかな?と気になる存在になってきている。

 高瀬先輩はそんなに聞きたい?と勿体ぶる。

 私、芳賀君とその他の女子文芸部も気になっていたので全員で執筆作業を止め聞く体制に入る。

「いや、そんなに畏まれても困る。面白くも何とも無いよ」

「いや、聞きたいです」

 高瀬先輩は観念すると「じゃあ、聞かせてあげる」と言ってくれた。

「そうだね、あれは一年生の夏だったかな?私と志藤生徒会長出会ったのは・・・・」


一年生の夏・・・


 私は一人文芸部にいた。文芸部の部室は夏になると如何せん暑い、とにかく熱い。窓や廊下のドアをすべて解放させ、風を通るようにしていた。

 先輩たちは、部長が今日は暑い為、自宅で執筆してください。と言ってたので今は誰もいない。

 私は自宅で執筆というのは出来ない。なぜなら、部屋の中は誘惑が多く執筆出来ず誘惑に負ける。しかも、その誘惑で自堕落な生活になっていくからだ。

 私が暑い中、執筆をしていると声が聞こえた。

「あの、すいません」

 扉の外から顔を覗かせている女子生徒が一人いた。見たことない生徒だった。まぁ、高校にもなればクラスも多くなり、よほど中がいいものでない限り顔と名前は覚えていない。

「はい。入ってください。今、文芸部私だけですけど、部に何か御用ですか?」

 私がその女子生徒が部室に入ってくる。

「あの見学に来たんですけど、まずいですか?」

「いいですけど、お名前聞いてもいいです」

 私が言うと女子生徒が答えた。

「志藤香織って、言います。9月の始業式から転校するので色々見て回ってます。後、今、親は先生と話してますよ」

 志藤さんは文芸部の冊子を見て漁っていた。

「勝手に抜けていいんですか?」

「先生が回ってきていいよと言ったので見て回ってます」

 志藤さんは冊子のページを捲っていると突然聞いてきた。

「あなたはどんなBLが好きなの?」

「わたし⤴?」

 いきなりの質問に私の声が裏返る。

「何でそんなこと聞くの⤴」

「いや、ここに書いてあるのほとんどBL小説じゃない。だからあなたもかなって思って」

「そうね。あなたはどうなのよ」

 私は否定こそしなかったもののBLの事は誤魔化す。

「私も好きよ。でも今の時代のより昔のBLの方がいいかな」

 志藤さんの意外な答えに私は驚く。

「今も昔も変わらないよ」

「大分変ってるよ。世代によって違うもの」

 私はその否定的な志藤さんの感想に執筆を止め、私は反論した。

 お互いの意見を言い合い約、1時間ほどだったかな、志藤さんのスマホが鳴ったんだ。

 私たちはその音で時間の経過を知った。中々白熱した討論でね。お互い持論を持っていて曲げなかった。それで思ったんだ。BLは奥が深いと。いろんなジャンル的なものもあればシチュエーションなどでもガラッと変わる。

 志藤さんはスマホに出ると相手が母親だったみたいでもう帰るわよと言われたみたいで

「私、今日ここで帰るわ。話してくれてありがとう。楽しかったわ」

 志藤さんは私に頭を下げると帰ってしまった。

 なんだろうこの、好敵手と出会い、戦ってちょっとした友情が芽生える感じは私の中で満ち足りた感があったんだ。BL談義だったけど。

 私はハッと思いつき、また執筆作業に戻ったんだ。



「ただそれだけの事だよ」

 高瀬部長は懐かしそうに語っていた。

「でもそれだけだと、そんなに深い関係じゃない感じですけど?」

「あぁ、実はね。志藤生徒会長はその後、この文芸部に入部したんだ。だから君たちの先輩だ」

「は?・・・えぇーーーーーーーーー」

 私を含め、芳賀君やその他の女子部員も驚く。当たり前だ、まさかこの部活に志藤生徒会長が入っていたなんて正直驚いた。

「だけど、2年の秋にね。生徒会に立候補して当選しちゃったもんだから、今じゃ。幽霊部員だよ。忙しいからね、生徒会は」

「まだ、部員なんですか?」

「そうだよ。実はちゃんと部活の冊子に小説乗せてるし」

 高瀬先輩が「ほら」と言ってそのページ見せてくれた。

 そこには{情熱の下に   作 KAORI}と書かれた小説があった。ざっと、内容を見てみると中々濃いもので驚いた。これは侮れない。

 芳賀君や女子部員も覗いてきたがこれは凄いと感心していた。

「志藤生徒会長、やりますねぇ」

「凄い」

 みんなは各々喋りたいことを喋っていた。


 ガラッ


 文芸部の扉の開く音に、全員が反応しそちらを見る。

「ちょっと高瀬さんこの来期の予算は何ですか?多すぎますよ、何に使うのですか?」

 その怒った声の主は志藤生徒会長だった。全員の視線が一斉に志藤生徒会長に注がれる。

「あぁ、志藤生徒会長か?」

「な、何ですか。その皆さんの視線は?」

 志藤生徒会長は私たちの視線にたじろぐ。

「いやぁ。志藤生徒会長がうちの部員だよって話、言っちゃった」

 高瀬部長はてへぺろとお茶目に返す。

「なぁーーーー⤴」

 志藤生徒会長はその言葉を聞き、顔がみるみる真っ赤になる。茹蛸かいと私が思っていると芳賀君が志藤生徒会長に近づく。

「な、何ですかっ」

「志藤生徒会長、お慕い申しております」

 芳賀君は手を握り、膝まづく。ちょっと何やってるのと私が思っていると他の女子部員もその姿に感化され、志藤生徒会長に集まる。

「御姉様、流石です」

「志藤生徒会長のBL最高」

「BL小説の書き方教えてください、お姉さま」

 と様々な言葉が飛び交う。志藤生徒会長は他の女子部員のいきなりの行動でしどろもどろになってなっていた。

「散りなさい。皆さん」

 芳賀君や他の女子部員は志藤生徒会長の声で離れる。

「わ、解りました。今度、教えます」

「本当ですか。お姉さま」

 志藤生徒会長の鶴の一声で女子部員は興奮していた。だがある一人だけは違っていた。

「志藤生徒会長の表現、感動しました。ここです。ヒロシは正雄の○○○をまさぐると・・・・」

 芳賀君は感情を込めて、志藤生徒会長のBL小説の一説を読みだす。作者の前で妄想が爆発した小説を朗読するとか鬼か。私は聞いていて恥ずかしくなった。志藤生徒会長はこんな事をされたこと無いのは当たり前で、顔が茹蛸所では無かった。逆に青ざめていた。私もこれされたら死ねるわ。ご愁傷様ですと私はひっそり手を合わせる。

 しかし、芳賀君の朗読を聞いていても思うけど、志藤生徒会長のBL小説は文章の表現力が凄いと思った。私はその表現を考えるとごはん2杯はイケると思った。

「ここの表現が凄いです」

「止めて、止めてくれお願いだから」

 芳賀君はただ単にBL小説の凄いと純粋尊敬していたが私含め、他の女子部員も思っているだろう。

〈これは、酷い。あんまりだ・・・〉

 純粋と言うのが本当に恐ろしい。

「もう、いい。勘弁して下さい。今日はもう帰ります」

「えぇ、もう帰るんですか?」

 芳賀君は凄く残念がる。

「今日の部費の件はまた後日、生徒会室で聞きます。いいですね、高瀬さん」

 高瀬部長は「はいよ」と答えると志藤生徒会長は皆の前で踵を返すと部室を出て行った。

「あぁ」

 芳賀君は口惜しいと言わんばかりで 志藤生徒会長の後ろ姿を見ていた。

「何、私が教えるじゃダメなの?」

「いえ、そうではないんです。そろそろ僕も東雲さんを驚かせたいいんです。あなたにうまくなった僕のBL小説を読んでもらいたい。もっと表現力を上げたいんですし」

 私はその言葉を聞くと私から離れたいのかと・・・思っていたが。

「あなたには僕の一番目の読者になって欲しいんです。僕の全部を見て欲しいんです」

 芳賀君は真面目に言ってたが、私は思う。もうこれ告白ですよね、か・ん・ぜ・ん・に・・・

 僕がなんか変な言葉言った?みたいな顔をしている。

 僕の全部って私は何を見せられるの?と変な妄想が頭の中を駆け巡る。私は完全に思考が停止する。どう返せばいいんだと。

 そこに割って入ってくる人がいた。

「二人とも、熱いわね。この部室暖房いらないんじゃない」

 高瀬部長だ。他の女子部員も恋愛に免疫が無い。その場で私たちの行動をもじもじ見ていた。

「な、何言ってるんですか⁉部長」

「だって、二人は彼氏彼女じゃない。こういうのが無いと楽しくないでしょ、恋愛って」

 高瀬部長は真髄をついてくる。

「ま、まぁ。それは・・・」

「まぁ、芳賀も天然系だから東雲が偶に振り回されてて可哀そうかなって思う時はあるけどね」

 私は言い返す言葉を考えていたが、高瀬部長の言葉に思う事があった。

〈オマエモナー〉

 それ完全に自分に言ってますよね。大きなブーメランが返ってきてますよと私は思った。

 私はその日の部活、高瀬部長と志藤生徒会長の思い出話から始まって、最後は何とも言えないもやもやした雰囲気で部活を過ごしたのであった。

 

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