第10話 もう・・・

 もうお終いよ。

 いつもの教室、先生から私は高校の学期末テストが返され項垂れる。数学は点数が取れると思っていたのに、まさかの赤点でショックを受けていた。

 周りの生徒はお互いの点数を見せ合って、はしゃいでいた。やったー!、おいおいお前死んだわ、ヤマが当たってたとか喜びを共有している生徒もいた。

 私こと東雲亜里沙は今、そんな気分じゃない。

 私は答案用紙見て、泣きそうになった。答案用紙5割の答えは合っていたのに、のに。

「東雲さん、どうしたんですか?」

「・・・」

 私は無反応。声をかけてきたのは芳賀康太。私と同じ文芸部で彼氏彼女(仮)。

「あぁ、記入ミスで答え一個づつズレて答え書いてしまったんですね」

 私は言わないでと思いつつ、芳賀君の体を揺さぶる。

 私はテスト当日、数学のテストは早く終わり、読み返しまで行ったのに。最後余った時間で問題用紙にBL小説書いてたのがいけなかったのかと後悔する。

「僕も国語ギリギリだったのでひやひやしました」

「私、馬鹿にしてる?」

「いえ、違いますよ。追試で点数取れば、補習免れるから頑張りましょう。晴れて冬休みはBL小説漬け毎日です」

 この学校は追試を受け、追試で点数を取れれば何もないのだが、追試でも赤点だと冬休み期間全部補習になるという地獄。

 夏は何もなかったので、そのシステムを全く知らなかったからそのショックは大きい。

「僕の家で勉強します?」

「いえ、結構です」 

 私は即答する。また、あのBL に囲まれた環境で芳賀君のお母さんのいじりのダブルコンボは勉強にならない。特にお母さんは時限爆弾だから・・・怖い。

「そうですか。母が亜里沙をまた連れてきてねと言っていたので」

「こういう大事な時じゃないなら、遊びに行かせてもらうよ。ごめん。今回は部室で勉強でするわ」

 私もいろんな意味で準備が必要だから。



 その日の放課後。文芸部の教室にて、事件は起こった。

 私は文芸部の教室に入って白い煙覆われ、ものすごく甘い香りがしたのを覚えた。

「なにこれ?どうしたの、火事?」

 部屋の奥に入るにつれて香りは増し煙も増えてきた。香りは匂いへとかわり鼻をつまむレベルだった。

 進むといつもBL小説を書いている机にたどり着く。私は机の周りを確認し、窓が閉まっていたので開けに行く。

「大丈夫ですか。誰かいますか?・・・」

 私は窓から煙を出し、部屋の中に声をかける。

 煙の量が減り、周りが見渡せるようになった。そこには高瀬先輩が倒れていた。

「高瀬先輩、大丈夫ですか?これ何があったんですか?」

 高瀬先輩は私の声に反応したのか、目を開けた。

「あぁ、東雲か。机の上にあったケーキが爆発してな」

 私は高瀬先輩を起こし、机の上を確認するとケーキの箱らしきものが置いてあった。

「これの事ですか?」

「あ・あぁ、それだ」

 高瀬先輩の目線に合わせケーキの箱を見せる。合っているらしい。

「誰からもらったんですか?」

 漸く高瀬先輩の意識が戻ってきて教えてくれた。

「あぁ、さっき私と芳賀がいた時にな。客人が来たんだ」

「客人?」

 こんなところに客人が来るなんてありえないと思った。来るとしたら、生徒会ぐらいしか来ないと私は思った。

「一年生の料理研究部の植田奈津子とか言ったかな、その子は」

「で、その植田さんがどうしたんですか?」

「何でも芳賀を文化祭で見た時に惚れたから、ケーキを作ってきた食べて下さいと言ってきたんだ」

「あの芳賀君をですか?」

 私は驚く。あの制御不能の地雷を好きになる子がいたなんて・・・

「はっ」

 私は自分の思っていたことがブーメランだと気づくと顔を赤くしてしまった。

「どうした東雲?顔赤いぞ」

「な・・・何でもないです。で、その後はどうなったんですか?」

「とりあえず、くれたケーキの箱を私と芳賀で開けたら、いきなり爆発して気を失ったんだ」

 そこで一つ私は高瀬先輩の言葉のおかしいことに気付く。

「芳賀君はどこに行ったんですか?」

「あぁ、そういえば芳賀はどこに行ったんだ?」

 私と高瀬先輩は周りを捜索する。部屋に広がっていた煙は今はほとんど消えていたのでいつもの部室だった。しかし、芳賀君の姿は無かった。でも机には今日持っていた鞄があった。

「あっ!」×2

 私と高瀬先輩は閃きの声で合ってしまう。

「まさか」×2

「植田さんが連れ去った」

「また、大胆だな」

 高瀬先輩は笑っていた。いやいや笑えないですよと私は思った。

「どうするんですか?」

 私が質問すると高瀬先輩がまたおかしな事を言い出した。

「卒業っていう、海外の映画を知ってる?」

「まぁ、あれですよね。ネットの情報でしか知りませんけど。女性が結婚式の最中に男性がかっさらって行くっていう昔の映画ですよね。何か駆け落ちが流行った切っ掛けになったとかならないとかでしたよね。見たことないので情報でしか知りませんけど。私はBL小説の展開でも駆け落ちネタはよく使いますし」

「恐らく芳賀は料理研究部にいるだろう。そこで東雲が捕まっている芳賀を逆にさらってこい」

 いきなり何を言い出すんだ。この人は。

「何言ってるんですか、私は今から追試の勉強しないといけないんですよ」

「芳賀も今日、東雲と追試の勉強が一緒に出来るってウキウキしてたのにか?」

 なんですとぉ。本当に芳賀君がそんな事言ってたの。私の心臓はバクバク。

「そ、それ本当ですか?」

「嘘言ってどうするの」

 私は動揺する。行くべきか行かざるべきか。

「行きます」

 私はチョロい、即落ち2コマだった。


 私は料理研究部に囚われれいる芳賀君を救出するべく、調理室に向かった。その調理室の扉は重く閉ざされていた。

 ゴゴゴ

 私は扉を開ける。擬音は私の脳内で流れていた。

 扉を開けると芳賀君が椅子に縛られている光景が見えた。

「彼を放しなさい」

「東雲さん」

 芳賀君は弱弱しい声で私の名前を呼んでいた。高瀬先輩の説明で教えてもらっていた一年生の料理研究部の植田さんがそこにいた。植田さんは頭には調理帽子バンダナ、制服の上にはエプロンを付けていて調理をしていた。

「誰ですか?」

「私はそこにいる彼と同じクラスで同じ部活の東雲亜里沙。芳賀君を返してもらいに来ました」

「ダメです。今から彼には私の手料理を食べてもらい私を好きになってもらいます」 

 植田さんは言い切る。私はちょっとこの子、いろんな意味で怖い気がした。

「そんなのであなたを好きになるわけないじゃない」

「母は男性の心を掴むにはまず胃袋を掴むことと言ってました」

 考え方がちょっと古風ね。まぁ、その理論一理あるけど。

「どこ見てそこにいる芳賀君を好きになったの?お、教えて」

 私は芳賀君の前で聞くのは恥ずかしいけど、気になるから聞いてみた。

「一目惚れです」

「えっ?」

「あの、文化祭の時歩いている姿に惚れました」

 植田さんは即答する。歩いているところ見て惚れて誘拐とか、疑念は確信へと変わる。この子、ヤバいわ。芳賀君の周りに集まる人たちって何でこんなにおかしい人多いのよ。

 私は植田さんが芳賀君の為に調理している料理がやばそうな色だと気づく。

「じゃあ、こうしましょう。ここで料理勝負をして、勝った方が芳賀君を好きにでき、負ければ二度と手を出さないなんて、どう?審査員は芳賀君でどう」

 私の提案に植田さんは拒否すると思っていたがあっさり了承してくれた。

 私も植田さん同様、調理帽子バンダナ、制服の上にはエプロンを付け貸してもらった。植田さんは自分が使う予定だった野菜を2人で使いお互い創作料理を作ると言って私もそこから野菜を選び調理をし始めた。

 私は知っていた芳賀君の大好物を前に家にお邪魔した時に芳賀君のお母さんから聞いていたから、問題ないわ。いける。


  30分後・・・


 私たちの料理は最終局面になっていた。お互いに調理盛り付けを行い先に手を挙げたのは植田さんだった。

「出来ました。ガトーショコラです。芳賀さん」

 そのお皿にはガトーショコラ?と疑ってしまうかもしれない物体が乗っていた。植田さんはそのガトーショコラと思われる物体を芳賀君が座っている椅子の前まで持っていく。椅子に縛り付けられている芳賀君が調理中に寝ていたが、香りで飛び起きた。何この香り、匂いは鼻をつんざく匂いは調理中の私にも匂ってきた。

「なにこれ」

 流石に私も鼻をつまむ。

 芳賀君は匂いを嗅いでも身動きが取れず、足をじたばたさせていた。

「はい、あーんで食べてください。あーん」

 芳賀君は逃げきれないと思い、観念し口を開けた。その物体を口に入れた瞬間、芳賀君の顔はみるみる色が変わっていき、そのまま微動だにしなかった。

 気絶。

「ちょっと何食べさせてるのっ。気絶してるじゃない」

 私は慌てて口に含んだ物体を取り出し、水で口を濯ぐ。それでも反応が薄いので頬を叩き、声をかけ続けた。この子、芳賀君を殺す気だわ。

「ガトーショコラですよ」

 植田さんは笑顔で返答してきた。

 その言葉に私は〈屋上へ行こうぜ…久しぶりに…キレちまったよ〉と思い言おうとしてしまったが、芳賀君は私の言葉に反応し、意識を取り戻したのでその言葉を飲み込んだ。

「あれ、ここは?」

「東雲よ。分かる?今、ここは学校の調理室よ」

「いや。今、死んだはずのおばあちゃんが川の向こうから笑顔で手を振ってたんですよ。懐かしいな」

 私はその言葉に驚いたが意識を取り戻したことに安心した。てか、それ三途の川。死にかけてるじゃない。

「あなたには芳賀君を渡さないわ。私の料理を次に食べてもらう」

 私は芳賀君の拘束を外し、植田さんに指を差し宣戦布告をした。 

 そして私も料理を完成していたので芳賀君の前、差し出す。それはスイートポテト。芳賀君のお母さんが芳賀君はスイートポテトが好物だから料理の仕方を教えてあげるねといらぬお節介が功を奏した形になった。

「っこ、これはスイートポテト」

 芳賀君の眼は一気に輝きを見せた。

「ほら、冷めないうちに食べなさい」

 私が言うと芳賀君は一口食べると顔が綻び、もう一口もう一口食べ続け、完食した。

「これは相手ながらやりますねぇ」

 植田さんが私を褒め、関心を寄せていた。どこから出てくるのその自信と逆に私は感心した。

 芳賀君の実食は終わり、考えていた。

「それでは審査をお願いします。芳賀さん」

 私と植田さんは真剣な眼差しで芳賀君の審査を待っていた。

 

「勝者は僅差で東雲さんの勝です」

 私は芳賀君の答えに抗議する。

「僅差なわけないでしょ、圧倒的じゃない。それで僅差っておかしいでしょ」

「ま、待ってください。話を聞いて下さい。確かに料理の味はあれでしたがまぁ、愛情がたくさんでしたし。愛の伝え方がちょっと過激でしたが僕は嫌いじゃないんで」

 私は芳賀君がこういうやつだったと思い出す。植田さんは芳賀君の最後の言葉に喜んでいた。

「あんた、死にかけてたのよ」

「まぁ、終わり良ければ総て良しですし。東雲さんが勝ったんですから」

 私は怒ったていたが芳賀君の言葉に自分を落ち着けさせた。エプロンやバンダナ片付けた。

 その後、料理研究部の部長が部室に入ってきたのでさっきの事を話、誤ってくれた。私は料理研究部の部長と植田さんで話し合い、以後こういった事はしないと約束をしてくれた。

 そして、私は無事、料理研究部から芳賀君を救出した。


 部室への帰りの出来事だった。

「あなたには芳賀君を渡さないわ」

 いきなり、芳賀君が言い出す。私は驚く。

「かっこよかったです。ありがとうございます」

 芳賀君は私を見つめてきた。恥ずかしくなる。

「困るのよ、私が」

「どうしてですか?」

「どうしてって・・・追試の勉強、一緒にやってくれるんでしょ」

「あぁ、そうでしたね」

 芳賀君は手をポンと叩いた。何か、今の台詞を言わせたいように誘導しているように聞こえた。腹が立つ。

「部室に戻って勉強よ」

「そうですね。いい冬休みになるように一緒に頑張りましょう、東雲さん。部室でBL小説を書くためにも」 

 私は思った。折角、一緒にってところにグッときて、嬉しかったのに、最後の言葉にがっかりした自分がいた。

 本当に芳賀君は上げて落とすなぁと私は天井を見上げ、部室に帰るのであった。


 その後


 私は無事学期末テストの追試に合格し、晴れて芳賀君とBL小説に没頭できる冬休みに突入する。冬休みにはイベントがたくさんある。最初な乗り気ではなかったもののいつの間にか芳賀君には引かれていることに私は気付く。

 私は芳賀君との彼氏彼女(仮)の関係は冗談で始まったものだけど、いつ本当の彼氏彼女なれるのだろうかと考えると頭が痛くなるのであった。

 


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