第2話 その発想・・・

「その発想おかしいよね」 

 ある日の放課後の実習棟3階にある文芸部。

 私、東雲亜里沙は芳賀康太に抗議をしていた。

「何で、このキャラが受けなのよ。どう見ても攻めじゃない」

「イヤ。だって見た目が強そうじゃないか」

 今、私たちはあるアニメの2次創作小説(BL)の内容を考えていた。

「確かに、それもキャラの組み合わせはあるんだけど需要はごく少数なの。だからスタンダードに需要のある組み合わせの方が読者は多いの。だから、まずは読者を増やしてから、そういうの書けばいいのよ」

「なるほど、そうか」

 芳賀君はPCの画面を見ながら感心していた。

「ちょっと芳賀君はコアなとこ突きすぎなんだよ」

「確かに、僕の考える設定は胡瓜とちくわ。トランプのキングとジャックとか最初書いてたもんな」

「ちょっと待って、それ無機物じゃん。そんなんで話しかけるの?」

「軽いの書いてたなぁ」

 芳賀君はそう言うと周りにいた女子部員からは「高度過ぎて想像が出来ない」と感心していた。

「そんなの想像して何が楽しいのよ」

 私は芳賀君を真っ向から否定した。

 その時だった。文芸部の扉が開く音がした。その方向を見ると高瀬先輩が入ってくるのが見えた。高瀬先輩は学校の制服を着こなし、黒髪長髪で眼鏡少女。頭もいいし、運動神経もいい。私たちの憧れでもある。一定数の女子生徒に人気はある。

「おぉ、やってるな、よろしいよろしいい。遅くなって、すまない」

「今日はどうしたんですか?」

 私が質問すると、高瀬先輩は喋りだした。

「いや、何。今度の週末に他の高校の文芸部と交流会をやろうと思ってね。先方の文芸部の部長と調整をしていた」

「何ですかそれ?」

 私は気になって聞いてみた。年に数回やっているらしい。私と芳賀君は1年生だから初めてのイベントだ。他の先輩たちは知っていたらしい。ここでやっているような事を他校との交流で行う品評会をする。それを公民館の一室を借りて行うらしい。

「去年はもっと早い時期にやったんだけどね。夏休みにとかね」

「へぇ、そうなんですか」

「今年はなかなかスケジュール合わなくてこの時期になってしまったんだ」

 高瀬先輩はそう言うと部員へ品評会のチラシ及び出欠席の紙を配ってくれた。

「今年も推し問答やるんですか?」

 ある女子生徒が発言した。

「押し問答?落語ですか?」

 芳賀君はその言葉の意味を考えていた。私もその言葉を聞いて考えた。確か「互いに言い張ること」を意味だったよね。 両者が自分の主張や意見を譲らず、自分が正しいと意地を張り続けるさまだったよね。何で品評会でそんなことやるの?

 高瀬先輩は「あぁ」と言うと周りの空気が一変した。私は平穏な空間が急に重くなったのが分かった。

「1年の二人は楽しみにしていてくれ」

 高瀬先輩は意味深に発言をした。高瀬部長がそう言うといつもの和気あいあいの文芸部に雰囲気が戻った。


そして、週末の日曜日

 

 高瀬先輩を含む私たちは公園の中にある公民館に集まっていた。私たちは公民館の中に入る。公民館の1室に和室部屋あり8畳間に長机が置いてあり、座布団が並べられていた。すでに、対面と机には他校の生徒が行儀よく座っていた。高瀬先輩は軽くあいさつをする。

 あの制服は私立高校の百合の花高校の生徒だった。確か女子高校だったような。

 百合の花高校のおそらく部長であろう人がその場で立ち上がった。

「こういう合同イベントを開いていただきありがとうございます」

 百合の花の部長が一礼をすると他の生徒も頭を下げた。

 私たちも「今日はよろしくお願いします。」と頭を下げた。相手の高校は女子高校、私たちの高校は公立高校で共学。しかし、こういった部活に入るのは大体女子生徒と相場が決まっている。男子がいても大体名前だけの幽霊部員が多いみたい。しかし、私たちの中に芳賀君がいることがすごく新鮮だったみたいで百合の花高校の生徒はそれを見てざわついた。

 私たちは百合の花高校の対面に座ると自己紹介はじめ、各々の小説を回し読み感想を述べ、お互いのモチベーション向上。とても充実した時間だった。しかし、高瀬先輩の言っていた押し問答というものはまだ、行われていなかった。芳賀君も押し問答のソワソワしていた。

 会も終盤になり、私はここで終わりかなと思っていると先輩がおもむろに立ち上がる。如何したんだろ。

「それでは、会も終盤になったことだ、例の推し問答をやろうと思う」

 高瀬先輩がこの言葉を発すると私に芳賀君、相手の一年生2人以外に電流が走る。

「分かった」

 百合の花の部長は高瀬先輩こ言葉に頷くとカバンから今回のお題はこれだと机の上に置いた。

 そこには少年漫画で今人気の『俺のヒーローハイスクール』の漫画が置いてあった。その漫画の内容は友情努力勝利を兼ねそろえている。主人公ユウタはヒーローの駆出しで悪を倒すために日夜努力をしている。そのハイスクールには個性豊かなキャラクターの中に健というライバルがいる。事あることに勝負を仕掛けてくるがいざという時に助けてくれる健。その中でキャラクター達が切磋琢磨し、成長していくストーリー。多くの読者の心を掴んでいる今を時めく超人気漫画だ。この漫画は女子にも人気があり影でBLもたくさん描かれてる。

「この漫画はおそらくここにいるものは当然のごとく、知っているでしょう。そこで今からこの漫画に出てくるキャラクター愛を推しの討論をしたいと思う。ここは君たちの愛が試される場。思う存分、討論してくれ。では始め」

 今までの空気が一瞬にして変わるのを私は分かった。

「健×ユウタの一択でしょう。これは譲れません」

 最初に口火を切ったのは百合の花の生徒だった。その意見に私も同じですと賛同する者もいたが、うちの部員も負けてはいなかった。

「ユウタ×健でしょう。健の強気攻めの中にある愛です。これはストーリーの中にも垣間見えてユウタ推しには悶絶もの」

「あり得ません。健は受けです」

「ユウタ×ジョーです」

 等々。いろんな意見が出て討論はヒートアップ。なるほど、押しと推しをかけてるのねと私は納得した。しかしこれは、ナンセンス。おそらく意見が交わることの無い討論。基本女子のこれ系の会話は喧嘩になる。確かに推しへの愛は果てしなく、いざとなると『宜しいならば戦争だ』と言って戦争へとなりかねない。私は高瀬先輩へ耳打ちをした。

「何故、こんな不毛な戦いをするのでしょうか?」

「だって面白いだろ。しかも、いろんな視点で意見をしている。今、百合の花の部長がホワイトボードにみんなが語っている意見を書き出し。そこで、最後に確認し、新しい意見を見て推しが増えるかもしれないし、攻め受けの思考が変わるかもしれないし、意見交換は大切だ。ここで聞くことで新しい世界が見つかる」

 私は高瀬先輩の言った事が妙に説得力があって困る。

 生徒たちの討論は白熱していた。

 そこに意外な人物からの意見で現場の状況は変わった。

「あの、すいません。僕はユウタの飼っているオス犬×ユウタの友人が飼っているチワワのオス犬がいいと思います」

「えっ?」

 その場にいた生徒たちはまさかの意見、討論は止まり芳賀君の方を見ていた。

「おかしいでしょっ。人間のキャラクターでみんなは話してるのにいきなり犬って」

 私は直ぐに芳賀君に間髪入れすにツッコミを入れた。

「犬×犬ってどこに需要があるのよ」

 私の意見に周りの生徒は頷く。

「後、出てくるヒロイン恵子ちゃん使用しているの髪留め×恵子ちゃん使用の髪の毛用のワックスとか」

 芳賀君は意見を言ってきた。

「前も言ったけど、それ無機物でしょ。どうやってやるのよっ。あなたおかしいわよ」

 私は机を叩き、さらに言葉を強める。

「全部、擬人化するんだよ」

 芳賀君はあっさりそう答える。

「擬人化って文章でどう見せるのよ。絵や漫画じゃないのよ」

 私は芳賀君に反論する。

「人の妄想は無限だよ。特にこういったものを好む人の想像力は凄いんだ」

「だから、前も言ったけど無機物は無いでしょ。人間でも妄想と言えども限界があるでしょっ」

「僕は出来るよ」

 芳賀君はあっさり答えてくる。他の部員は芳賀君の発言に「上級者過ぎる」「神ですか」「何?この会話」「おいおい、あの人。人間やめてるわ」などがひそひそと聞こえてくる。

「僕は出来るよ!じゃないわ。どう見ても一般受けじゃ、まずないわよ・・ハァ・・・ハァ」

 私は白熱しすぎて、肩で息をしてしまっていた。


「は~い!ここで推し問答は終了ね」

 高瀬先輩のその言葉で、私は我に返った。

「最後面白かったわ」

 高瀬先輩は私を見て、微笑んでいた。芳賀君はケロッとしていた。

「今日の最後の推し問答について、感想文を書いて各々の部長に提出してね」

 百合の花高校の部長がそう言うと高瀬先輩に私は思った事を聞いてみた。

「誰がこれを見るんです?」

「私たち部長よ。それを各々の高校に提出してこの会は他校との文化交流で有意義ですので、部費を今年もお願いしますって生徒会に提出するのよ」

「それって私たち、生贄じゃないですか」

「大丈夫。学校側には一般人にもわかるように加筆修正するから」

「そういう問題では無い気がしますけど」

 私は高瀬先輩の妙な自信に疑問が・・・。しかも、私たちの性癖がばれるかもしれないから下手なことは書けないと私は思った。

 


 そんなこんなをしていると窓の外は少し夕暮れがかっていた。私たちは借りていた部屋の机や座布団を片付けると部活が解散になった。

 私は解散となった公園を一人で歩いていた。後ろから、人の気配がする。

「東雲さん、待ってください」

 私が後ろを振り向くと走ってくるこちらに向かってくる芳賀君が見えた。

「はぁはぁ、やっと追いついた」

「どうしたのよ?」

 私は芳賀君へ質問した。

「今日はありがとうございます。後、東雲さん一人で帰させるわけにも行きません」

「別に一人で帰れるわよ」

「僕も男、あなたの彼氏です」

「それは部長がかってに決めたことで・・」

「いえ、やはり僕にはあなたが必要です。あなたが・・好きなんです」

 私はその言葉に胸を何かで打ち抜かれるような感覚が。芳賀君は私の目を真っすぐに見つめてきた。私の心がキュッと締め付けられた。

「何よいきなり」

「今日の意見、心に響きました。僕は・・・僕は東雲さんのBL小説が好きです」

「はっ?」

 私は、呆れて気の抜けた声を出してしまう。

「やっぱり、無機物同士の絡みより、人ですね」

「それを言うために追ってきたの?」

「そうですけど。あぁ、後、高瀬先輩が恋人だったら帰り送っていてやれと言われて」

 私は、近くに誰もいなかったので木にドンッと殴っていた。芳賀君の言葉に一瞬でもキュンッてなったことが悔しかった。

「どうしたんですか?」

 芳賀君は私の顔を見てきたが、私の顔が赤くなっていたのでそっぽを向いた。

「何でもないわ。か、帰るわよ」

「はいっ。東雲さん」

 私と芳賀君は二人で帰ることにした。しかし、本当にこれで恋ができるのだろうか。これからの芳賀君との彼氏彼女の関係が上手く出来るのか不安。最初は高瀬先輩の適当な提案だったけど、意識してしまう。後、芳賀君に本当にBL小説書けるのか心配。

 不安に思いながら、私は赤く夕焼けに染まった木を眺め、二人で帰るのであった。

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