診断お題SS「お前の話だよ(2021)」
『好意を寄せている相手のヒント』を本人に与える人間などそうそういないだろう。一歩間違えるとそれは友人関係を壊しかねない。裏を返せば現在の関係を打破し、晴れて恋人関係になる可能性も少なからずある訳だが、なかなかリスクが高い。そのリスクを分かっていながら、何故それ負う事になっているのか。
どう答えるべきか思考を巡らせる自分をよそに、返答を待つ咲谷からは熱い眼差しが向けられている。その様子を窺うと興味という気持ちが大きい様で、今の彼女の気を逸らす事は不可能に思えた。
「天然そうに見えて、実は腹黒い奴……」
嘘をつく事も、分かりづらいヒントを出す事も、はたまた答えないという選択肢だってあった。だがそれをしなかったのは相手の反応を見たいという出来心であり、一種の賭けだ。仮にこちらに不都合な反応をされたとしても何食わぬ顔で「冗談」と返せば良い。そんな緊張感とは裏腹に、ヒントが聞けた事そのものに満足したのか咲谷は「椿くんは変わってるね」と何でもない様に笑った。ただ、自分の与えたヒントは答えと言っても過言ではない。一見無垢に見えるこの女は見かけによらず腹が黒いのである。汚れを知らないという顔を見せながら、何もかも見透かした上で『好意を寄せている相手のヒント』を訊かれた様にも感じてしまう。それほどに咲谷という女はタチが悪いのだ。
彼女は一体どこまで理解しているのだろうか。恋の駆け引きとはよく言うが、これではただの心理戦だ。先ほどの出来事が嘘だったかの様に、咲谷はいつも通りお気に入りの鳥の図鑑を見ていた。
- - - - - - - - - - 後書き - - - - - - - - - -
2017年の診断メーカーお題のSSと同じ内容でどこまで違う物が書けるかと、個人的に気になった結果です。
ところで執筆者が歳を重ねると文体も大人びるのでしょうか。どことなく以前の方が幼くキャラクターらしさを感じるのですが現在の文体もこれはこれで良いと私は思います。
2021.06.04 公開
少年と少女 八渕 @sosaku821
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