第一部・その11
「……了解しました。M15-02Fが現在最寄りの緊急避難所に指定されています。そこからL17-06Vの一時避難所に向かってください」
介護職員が車から折り畳みの車椅子を取り出して家の老人を乗せる。
負傷した職員は万能止血軟膏で歩けるようになったが、弾が体に残っていて具合が悪そうだ。
「こちらプラムL1。O13-11Aの緊急避難所に到着した。ここの確保にあたる。プラムL2、4は、L12-21Sの緊急避難所に急行せよ。不死兵の襲撃を受けている」
路地のネスト側、ミユたちから30メートルと離れていない家から不死兵が顔を出した。
口元か真新しい鮮血で赤く染まっているのが見える。
撃とうとするが、他の家からも不死兵が出てきた。……ここはM13ブロック。ネストのすぐそばなのだ。
ANTAMの資格を持ち銃を常備していた介護職員のいたこの家は運がよかったのだ。
「プラムL6!現在地は変わらないね?」
後方からサイレンがけたたましく鳴り響く。角を曲がったところで乗り捨てるようにバイクを降りたのは、コノミだった、
「銃がポンコツだからフォローに行けとリーダーから指示があった。ヒヨッコたちが迎えに来てるから合流して避難所に向かいな!」
ミユの前に出ながらコノミは機関銃を構える。
HK21E。やや旧式だがそのためANTAMでも所持できる、一流ブランドの軽機関銃だ。
路地に顔を出した不死兵に、コノミが銃弾を浴びせる。強力な連射を胸に食らって不死兵が倒れる。
威力のある長い連射を食らえば、再生するとはいえ無事ではすまない。玄関から飛び出さず、不死兵はその場で応戦を始めた。
コノミの出てきた角を曲がって少し進むと、足音がミユに聞こえた。少しだけ聞き覚えのある声。
「プラムL6!……こちら、プラムL12。プラムL11から13、応援に来ました!」
詰所にいた一年生だ。ユウキとアツシはAR15のカービンモデル。米軍のM4カービンの、民間向けモデルだ。
ジュリはツァスタバM76。ユーゴスラビア製の自動小銃で、不死兵のライフルやMGの弾が使える。回収された不死兵の弾薬を、協会から安く買えるのだ。
「プラムL6、11、12、13、速やかに緊急避難所に向かいプラムL7を待て!合流後は負傷者や要介護者の後送を手伝え!」
「プラムL5の援護は?」アツシが聞いた。
「いらない!あたしは別ルートで後退して注意を引く。この数の不死兵を緊急避難所に向かわせる訳にはいかないからね!……そうだプラムL11、あたしのバイクを回収して!」
アツシがコノミのバイクを取りに走る。
「こちらプラムL7。L13-3Xの負傷者を手当てしました。骨折しており自力での歩行が困難です。応援を!」
ミユは申し出ようとしたが、この辺りの土地勘はまったくない。その間に、介護職員が二人申し出た。
残った介護職員が負傷した介護職員を支えつつ道案内をして、ミユが車椅子を押す。ユウキとジュリは後方の警戒についた。
「こちらプラムL3、配置についたわ!」
息が荒い。『スクアッドリンク』『マラソンプラス』『タクティカルプラス』パークバッジの人工音声が漏れ聞こえる。
「座標ちょうだい!」
「ナイスタイミング!」
コノミの隣で銃声。Stgや56式に近いが少し違う。アツシの銃だろう。機関銃の弾薬箱を交換する音も聞こえる。
「プラムL11、あんたはいったん東に逃げてから大回りしてプラムL12と合流して!さっちゃん、M13のLからMの17にばらまいて!」
「了解したわ、二秒で弾着!」
ミユたちから200メートルほど離れた少し高いビルの屋上にサチはいた。そこから巨大なグレネードランチャーを構える。
QLZ-87B-40。中国軍の一世代前のグレネードランチャー06式の、輸出向けモデルだ。
少し気の抜けた発射音。アツシの乗ったバイクが遠ざかる。不死兵とコノミの銃声が重なる中、雷のような音が鳴り響いた。
EMPグレネードを知らなかったのか気付かなかったのか路地に飛び出した不死兵を、コノミの連射がとらえる。
撃たれた傷が治らず困惑している不死兵の頭を慎重に狙って、コノミは短い連射で頭を吹き飛ばした。
ミユが車椅子を押している間も、あちこちから銃声が聞こえてくる。たぶんミユたちが一番、ネストに近い。
この周りにいた人たちはすでに避難を完了したか、逃げ遅れて不死兵に殺されているのだ。
「こちら本部。L12-24YのACR-30が負傷した模様!バイタルはありますか連絡がありません!誰か確認を!」
「こちらプラムL7、ただちに向かいます。……プラムL11から13、現在の緊急避難所はもうすぐ指定が解除されます。到着したら僕を待たずに第一避難所に移動してください!」
私は……ミユが思ったところでケンジロウからの無線、
「プラムL6は緊急避難所で待機。プラムL7に手助けが必要な場合に備えろ」
言い終わるやいなやひときわ大きな銃声が聞こえる。狩猟用の大口径弾。
スタームルガーNo.1。弾倉もない単発の銃だが、ミユの銃より軽量コンパクトで、強力な弾が使える。
「NK9……不死軍用犬の目撃報告がある。犬に注意しろ!走ってくる犬は撃ってかまわない!」
犬を撃てって。ユウキがつぶやく。ペットを誤射して賠償問題になったという話は珍しくない。
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